◇Passing
2
氷のように冷めた表情がそこにはあった。
背中を冷たい汗が伝う。
「……出来ねえの」
「っする…!…ちゃんとするから…」
そう言わなければこのまま見放されそうで怖かった。
俯いて唇を噛む。
そろそろと少しだけ身体を浮かせて、また沈める。
きっとこんなのでは良くないと分かっている。
どうやって相手がいったかなんて覚えていない。
「…っは…はぁ…あ…っ」
上下運動を繰り返しながら焼けるような視線を感じて、酷くいたたまれない気持ちになった。
貴仁が今まで抱いてきた女性への負い目。
比べられたら勝てるはずもない。
「っ…みな…っで…」
意識せずとも涙声になる。こんなのは嫌だと思う。
最悪の記憶を手繰り寄せながらの行為。
それでも拙すぎて好きな人を満足させる事もできない。
「カマトトぶってんじゃねえよ」
身も凍るような冷笑。
身体が強張って、自由が効かなくなる。
身体を落とす瞬間に下から突き上げられて、声にならない悲鳴が零れた。
あまりの衝撃に放心状態で固まっていると、貴仁が横たえていた半身を起こす。
冷えた身体が温もりに触れたのもつかの間。
ベッドに俯せに押さえつけられた。
腰だけを持ち上げられ、そのまま律動が始まる。
精神的なショックと、好きにしてくれた方がいいという安堵が入り混じる。
頭を枕に押さえつけられて上手く呼吸ができない。
苦しさに涙が溢れるが、貴仁が良くなるならもうなんだっていいと思った。
手を握ってほしかったけれどわがままは言えずにシーツを握りしめる。
長い挿入の末、体内に熱いものを感じて貴仁のものが引き抜かれた。
ベッドの隣が沈み、行為の終わりを知る。
脱力感に襲われながらそちらに背を向けて身を丸めた。
身仕度をする姿を見たくなかった。
きっと追い縋るような目をしてしまう。
ここが自分の部屋であり、追い出されることのないことが、せめてもの救いだった。
自ら離れるなんてできない。
目を閉じて眠ろうとすると背後から腕が回された。
「やっ」
熱い手の平が中心を握りこみ、ゆるゆると擦り上げる。
「…しなくていい…っほっとけば落ち着くから…」
快感に辿り着けずに中途半端に勃ち上がったままのそれ。
冷え切った身体で、とても快楽を追えるような精神状態ではなかった。
無駄に貴仁の手を煩わせたくはない。
「やっ…いい…っいらない…っ」
背を向けて頑なに愛撫を拒む雪也を押さえ込むように、貴仁が身体を起こし覆いかぶさる。
「…やっ……!」
耳朶を甘く噛まれ、抵抗を諦めた。
できるだけ早く達してしまえば、それで終わる。
与えられる愛撫に神経を集中させて快感を手繰りよせた。
漏れそうになる声を、指を噛んで堪える。
吐息と水音が聴覚を侵し、この部屋の静寂を際立たせた。
なかなか掴みきれない快楽。
覚めそうになる思考。
頬をシーツに擦り付け、両足を滑らせる。
早く解放されたい。
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