◇Passing
■Missing 1
やけに月の明るい夜だった。
真っ暗でなければ眠れない雪也に合わせて、全く明かりを点けていない部屋。
道の街灯と月の光が、同じベッドの傍らで眠る貴仁の姿を映し出す。
カーテンを引いてもなお雪也が眠るには眩しい。
眠れないまま今夜は満月だろうかと一人考える。
煌々と照らす光に胸がざわめいた。
漠然とした恐怖感が意識を侵食していく。
まるで眠ることを咎めるような月明かり。
目を伏せても顔を枕に押し付けても、責めるように降り注ぐそれから逃れられない。
何度も寝返りを繰り返しては身を丸めた。
気休めに羊を数えても穏やかな休息は与えられない。
挿入されたまま反転する視界。
下から貫かれる衝撃に身体がしなった。
貴仁が自分の下で笑っている。
貴仁とは初めての体位。
息を吐きながら楽な姿勢を探した。
身体を支えるためについた両腕が震える。
刺激を受けるのを恐れてじっとしていると、下から揺すり上げられた。
「…やっ…あっ…!」
また背がしなって、貴仁の両膝に後ろ手に縋り付く。
「動けよ」
低く甘い声。
自分をみつめる視線を感じて身体が熱い。
顔を背けても逃れられない位置関係に、どうしようもない羞恥を感じた。
「わ…わかんない…っ」
腰を支える手つきが不穏で、必死で身をよじる。
「腰振れって」
「っ……」
羞恥が勝ってどうしても動けない。
上が初めてではないが、とにかく恥も外聞もなく、早くいかせる為に必死だったあれとは違う。
貴仁相手でははしたない姿を見られたくない気持ちが先に立つ。
どう動けば気持ち良くさせられるかも分からない。
「……っ」
意思とは関係なく涙が滲んだ。
子供じゃないんだからと思うのに、溢れんばかりに瞳を被う。
下がいい。
「何だよ。したことねえの?」
今にも泣き出しそうな雪也の様子に、ふいに優しくなる声音。
けれど身体は正直に硬直した。
甘えて頷いてしまえばよかったと後悔する。
「……さっさとしろよ」
一気にトーンの落ちた声。
自分が躊躇う程貴仁の機嫌が悪くなるのが分かった。
甘えを一切許さない空気。
「早くしろって」
その声は刺すように冷たい。
甘い行為はまるで何かの罰に変貌したようだった。
「…っ………できない…」
冷え切った身体。
俯いて尚拒絶を示す。
した事ないのか。
先程の問い掛けの時、少し嬉しそうだったのを知っている。
蹂躙され尽くした身体が何よりのコンプレックス。
例え下手だろうと、あるいは馴れていようと、貴仁はきっとフォローを入れてくれる。
それが嫌だと思う。
行為の雰囲気は壊れないけれど、自分が何より気にしている事をその中でうやむやにされたくなかった。
セックスの雰囲気だけが大事なら、心の繋がりなんて必要はない。
それはきっと貴仁も同じはずだと、そっと顔を上げる。
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