◇Passing
3
3.
先の行為で未だ柔らかく解れているそこに、二本の指が入り込む。
「った…ひと…っ!」
「黙って感じてろ」
萎えてもなお空いた片手で弄ばれていたそれが、意思に反して再び重い熱を持ち始め、唇から嗚咽が零れた。
「も、出な……っ」
涙で歪んだ視界の中、ちらと向けられる瞳に必死で訴える。
これ以上は身体がもたない。
分かったような分からないような、読めない表情のまま、ふと中心に視線を向けた貴仁が、上体を低く倒していく。
「っ…な、に…?」
熱と疲労感に麻痺した思考を持て余し、ぼうっとそれをみつめていると、その先にあるそれに気が付いて一気に血の気が引いていく感覚を覚えた。
「っや…!うそ、やめ…っ!!」
慌てて起き上がりかけた身体は、感じたことのない熱に自身を包まれることで一度大きく身体をしならせた後、再びベッドへ沈みこんだ。
「っやぁ…っ!」
ねっとりと熱く絡みつく舌と粘膜。
出したことのないような声が喉をついて出る。
強すぎる刺激に下肢の痙攣は止まらず、シーツを蹴りつけ皺を作った。
「やは…っないで、しないで…っ!」
こんな事。
いつも自分が男にしていた。
貴仁がやるような事じゃない。
過ぎる快感に涙腺が壊れたように涙が溢れる。
「あっあぁ…っ!!」
強く吸い上げられて悲鳴が口をつく。
引きはがそうと伸ばした手はいつの間にかその髪を掻き乱し、暴れる両足は押さえ込むように絡み付いていた。
「や、あぁぁ…っ!!」
駄目押しのように後孔を掻き乱されて、一瞬意識が飛んだ。
「………っは、はぁ…あ…っ」
悪夢よりも酷い疲労感。
四肢も頭も指一本動かす事も出来ずに瞳だけ貴仁を探した。
卑猥な水音を立てて解放された自身。
頭をもたげた貴仁がそのまま真上に首を逸らす。
突出した喉仏がごくりと音を立てて上下した。
熔けた視線で思わずその様に見とれていた。
「っ…!」
這い上がってきた手に顎を捕まれ、唇を奪われる。
舌が捩込まれると同時に独特の苦味が口に広がった。
「んっ…」
舌を絡ませ、頬に手を添え、逆に舌を差し込ませる。
口腔に残る残骸を全て舐めとって唇を離した。
「まずい」
開口一番のそれに思わず笑いが零れた。
どさりと隣に身体が沈む。
ころりと寝返りを打ってそちらと向き合った。
「貴仁が、初めてだよ。…こんな事したの」
いつも自分が奉仕する側でされた事は一度もなかった。
されたいとも思わなかったのだけれど。
「…でも、やっぱり」
後ろの方がいい。
慣れない刺激は辛く、与えられるばかりでは心地良くないものだと知った。
「ああ?…まだ足んねぇのかよ」
髪を掻き上げながら呆れた視線を向けられて、頬が朱に染まった。
「違…っ!」
開きかけた唇を塞がれて言葉が止まる。
「“初めて”か」
揶揄を含んだような言い方に再び口を開きかけて止めた。
形の良い唇が弧を描く。満足気な笑み。
それだけで、何もかもどうでも良くなる。
積み重なった疲労で身体が悲鳴を上げていることも、もう少し優しくしてくれたって、と顔を出しそうになる不満も。
貴仁が満足してもらえたのならそれでいいと思える。
いつの間にか不安も恐怖もどこかへ消え去っていて、温かな腕の中で穏やかな眠りについた。
end.
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