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◇Passing
2


2.


逃れられないそれに凌辱を受けながら、どれほど経った頃か。

「――き、起きろ。ゆき」

「っ…あ…」

探していた声が聞こえて、呼ばれるまま意識が急速に覚醒した。

「っ…ぁ…たか…」

揺れる視界に姿をみとめて腕を伸ばして縋った。
寝ていただけなのに全速力で走った後のように息が苦しい。

「うなされてた」

手の平が額に滲む汗を拭ってくれる。

「っ…父さ…が…い…っ」

ぎゅうとしがみつくと抱き込む腕に力がこめられた。

「夢だ。ここには居ねぇよ」

「う、ん…」

厚い胸に頬を擦り付ける。
夢。夢だから大丈夫。
分かっていても身体が震える。
確かめるようにその背に掌を這わせていると、落ち着かせるように背を撫で返してくれる。

「…ごめんね、こんなので…」

幸せなのに、もうずっと前の事なのに。
こんな風に夜中に迷惑をかけて。

「お前が悪いんじゃねぇよ」

頭を撫でられて涙が溢れた。
甘えた自分が顔を出す。

「っ…どこ、行ってたの……電話も…出てくれな…っ」

「ずっとここに居ただろ」

「…嘘…っ」

「夢だ」

「…どっち…?」

「こっちが現実」

「っ…」

「ごめんな」

髪にキスが落ちる。
強張っていた身体から力が抜けた。
謝罪は過去にした事へだろうか。

「…もう、置いてかないで」

「ああ」

今なら何を言っても許される気がして、甘えたわがままが口をつく。
その返事さえ優しくて、髪を指で梳かれながら、脚を絡ませた時だった。

「っ!」

弾かれたように身体を離して距離をとる。
撫でていた手が止まり、下肢へ当たったそれに貴仁も気付いたのだと分かる。

「……うそ、なんで…っ」

シーツの中を覗き込み、言葉を失った。
確かに反応を示している自身。

「…っ」

自分の身体なのだから感じたなら気付かないはずがない。
目覚めてから今までの、ささやかな睦み合いのせいとは思えなかった。
信じ難い事実に血の気が引いていく。

まさか、夢で。
あの男の暴行による凌辱の記憶で――

「っ…!」

引き攣った呼吸が唇から零れた。
気付いてしまった事実に嫌悪して中心から熱が引いていく。
顔も見れずにじっと俯き、それでもなお信じ難いことに欲望は留まり蟠る。
いたたまれずに両腕で顔を覆った。

「っ…見ないで…」

軽蔑したに違いない。
怯えた振りをしておきながら、身体は淫夢でも見たが如く反応していたなんて。

どんな罵声を浴びせられたって、呆れて見捨てられたって仕方がない。

長い間沈黙に晒されて、耐え切れずに身を縮こまらせた時だった。

「っ…や…!」

閉じた両足の間に伸びた手が微かに熱を帯びているそれに触れる。
簡単に手中に納められ、柔々と刺激を与え始めた。

「っ嫌…やめて…っやだ…っ」

弱々しい抵抗を遮りシーツを剥ぎ取られて、先の情事で朱の散った白い肌があらわになる。
手の動きを止めないままに貴仁が雪也の身体を組み敷いた。

「っ…たか…」

「散々ヤった後に、他の男の夢なんざ見てんじゃねぇよ」

「…っ」

地の底を這うような低音。見上げた瞳の鋭さに声が出なくなる。
獰猛にギラついたそれは、情欲の色とも違っていた。

「…しっかり仕込まれてんじゃねぇ」

突き付けられた言葉の意味を理解して、嫌々と首を振る。
あんな男の事など、あんな男にされた事など忘れたいのに。

「っ…っ!んぁ…っ」

突然、がり、と音がするほどに首筋に強く噛み付かれ、一瞬遅れて痛みが走った。

「あっ…あ、あ…っ」

首筋の熱い痛みと下肢から突き上げる快楽と。
訳もわからず見開いた双眸から涙が零れた。
舌先がそれを掬い、耳元に熱い息と低い声が吹き込まれる。

「仕込み直してやる」

――夢なんか見れないくらいに。

「っひぁ…!」

瞬間、掌に包まれた熱が弾けた。
反射的で唐突な絶頂に目の前が白くスパークする。
眠りに就く前に既に幾度となく達した身体は疲弊して、深くベッドに沈み込んだ。
全て吐き出させるように未だ続く愛撫に、言葉を忘れたように口唇からは喘ぐ息しか出てこない。

「あっ…あっ…は、ぁ…っやめ…!」

薄く量の少ないそれを絡ませた指先が後孔へ滑り、止めさせようと重い腕を持ち上げる。





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あきゅろす。
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