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◇Passing
2


2.


高い声が耳を侵す。
またキーが上がって中が強くうねりはじめた。
どこから出しているのか、男である事を忘れそうになる。

痙攣する四肢。
開いた両脚を更に割り開かせ、腰を引き寄せて律動を激しくする。
身体の下に手をまわし、追い上げられて震えている中心を握りこんだ。

「っやあぁ…っ」

嬌声が悲鳴に変わる。

「たか…っきたい…っイきた…っ」

「イけよ」

「―――っ!!」

奥に叩きつけると声もなく肢体をしならせた。

「っ…」

絡み付く内壁を感じる。
身体を幾度か跳ねさせ、やがて糸が切れたように弛緩した。
波が去ったのを感じてまた律動を再開する。
ぐったりと枕に顔を埋め啜り泣く声が、すぐにあられもない嬌声に変わった。

こうなってしまえば理性など皆無に等しい。

壊してやりたい狂気。
壊してセックス漬けにして飼い殺してやりたい。
いつか電話の向こう、あいつにそうしていたように捨てないでと泣いて縋らせたい。

「っ…ゆき」

後頭に手を伸ばす。
名前を呼んだだけで高くなる声と跳ねる肩、熱を持つ自身と強くなる締め付け。
全てが愛しい。

身体を倒して背中に重なる。
角度が変わってまた高く鳴いた。
浅い呼吸。
のぞく瞳は涙に濡れて、虚ろに焦点も定まらない。

「ゆき」

耳元に低く囁く。

「ここが好きなんだろ」

鳴くくせに首を振る。

「嘘つけ」

再び身体を起き上がらせて強く穿つ。

「言えよ。好きだって」

まだ首を振る。
猫っ毛が指に絡んだ。

何度も繰り返していた言葉。
何度もあいつに縋り付いて。
言い慣れているだろうと指先に力をこめる。
髪を鷲づかみにされて痛みに呻く声が混じった。

「言えよ」

言え。
俺を好きだと。


「っ…や、だ…ぁ…っ」


頭の中で、音を立てて何かが切れた。

頭を枕に押さえ付ける。
息苦しさから激しい抵抗を感じた。
その分だけさらに力をこめる。
正常位ならきっと首を絞めていた。

やがて抵抗が止み押さえ付ける手は離さないまま、幾度か雪也が達するのを感じながら衝動に任せて腰を打ち付けた。


好きなだけ犯して最奥に欲望を吐き出すとやっと体内から自身を引き抜く。
解放されて細い腰が崩れた。

息をしている事だけ確かめて、傍らに沈んだ。


どうかしている。
自己嫌悪なんて軽いものじゃない。
罪悪感とも違う。

隣に目を向ける。
動かない頭をくしゃりと撫でた。

微かな明かりで浮かび上がる細い首筋に手をかけたい衝動が去来して、振り切るように目を閉じる。











「おはよ」

目を開けると覗き込む人形のような顔があった。

それがにこりと微笑んで、昨夜がまるで自分の欲求が見せた妄想であったかのように錯覚する。

逆光できらきらと光る少し寝癖のついた頭に触れた。
何が楽しいのか妙に機嫌の良い笑顔を浮かべている。
昨日、いや、さっきの今でどうしてこんな表情ができるのか不思議だった。
肘をついてじっとこちらをみつめている。

「…悪かった」

「ん」

指先がこちらの髪を弄ぶ。
時折額に触れてくすぐったさに目を細める。

「大丈夫だよ。ちゃんと貴仁を好きだから」

形の良い唇が囁いて、思わず眉を顰めた。

――分かっていたのか。
求めた言葉の真意。

なら始めから素直に言えと、そう口を開くより先に続きが紡れる。

「言わされて言うみたいで嫌だったんだ」

そう言って悪戯っぽく笑う。
――気の強い奴。

そうだった。昔からそんな所があったのだと思い出した。
たまに妙に頑固で。
よく他人の気持ちを自分に重ねて見る。
言えといわれて発する言葉の価値。
そんなもの考えたこともないが雪也はきっと知っている。

「妬かれるのって、嬉しいね」

それはこちらへのささやかな仕返しのつもりか。
ズレた所で脳天気に喜んでいる雪也を腕の中へ引きずりこんだ。
嬉しいなどと、今更白々しい。
妬くと言うならあの日から、あの男の本性を知った日からそうだ。
苦しいと大袈裟にはしゃぐ雪也を抱き込んで、自堕落な二度寝に入った。



END.


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