◇Passing
2
2.
気付けば背中に柔らかなソファの感触。
解放された口唇から大きく息を吸い込んだ。
慰めるように頭を撫でられ、指先が髪を梳いて目元にキスが落ちる。
自分でも気づかない内に滲んでいた涙が掬われ、そのまま肌を伝った唇が耳に触れた。
「っ…待っ…あ…っ」
息を整える暇もない。
脇腹を這う手の平に抗うと耳朶を噛まれてびくりと震える。
「…一人で顔赤くして、何考えてた?」
揶揄する声音と共に熱い息が吹き込まれた。
「っ…」
胸を這った指先が尖りに触れる。
「やらしい事考えてたんだろ」
「ちっ…が…っ…ぁっ」
乱暴に捻り上げられて泣きそうな声が漏れた。
耳元を離れた唇が首筋に触れて、次の瞬間熱い痛みが走る。
「いっ…」
繰り返しながら肌を滑って肩に下りる。
すぐに尖りに溜まる熱に意識をとられ執拗な愛撫から逃げるように身をよじらせた。
「っや、ぁ…っ」
咎めるように強く押し潰されて捻り上げられる。
「っ…も…やだ…ぁ…」
音を上げるとピンと弾かれて解放された。
知らず溢れていた涙が視界を覆っている。
与えられる快楽に全神経が囚われて、分からないまま流される。
肌を這って下腹に触れる手を咄嗟に引き止めた。
「たっ…かひと…っ」
「あ?」
無視して両脚が割り開かれる。
「まっ…待って…まだ…っ」
恥ずかしい。
「……」
「っ…」
色情を隠しもしない視線に射竦められて紡げなくなる。
流されてしまいそうで、けれどこのまま流されたら羞恥で死んでしまいそうで。
瞳から逃げるように顔を手の甲で隠す。
続く緊張から解放されたい一心で口を開いた。
「あ……明るいから……っ」
長い沈黙があって、身体が離れていく気配を感じた。
恐る恐る手を浮かせて様子を伺う。
冷めかけたコーヒーを口にする姿を確認してそろそろと身を起こした。
乱れた衣服を直しながらソファの端に座り込む。
「……」
ちらと目を向けるが興味を失ったような横顔があるだけ。
冷静さを取り戻した脳から急速に血の気が引いていく。
「…貴仁」
「……」
横顔は振り向かない。
「…たかひと…?」
不安が胸に込み上げる。
欝陶しいと思ったのかも知れない。
当然だろうと思う。
今更恥じらう方がおかしい。
けれど、これでは前と何も変わらない。
貴仁は不機嫌で、こちらは萎縮して。
嫌だった。
「たかひ…っ」
袖を掴もうと伸ばした手が、途中で掴まれる。
振り向いた瞳は一瞬柔らかい色を持ったように見えた。
すぐに消えて意地の悪いそれに変わる。
「心配しなくても、続きは後でしてやるよ」
「っ…」
「明るくなけりゃいいんだろ」
青ざめていた頬に血の気が戻る。
言葉を失くして、口角を吊り上げる貴仁をみつめた。
遊ばれたのだと気付く。
「っ……信じらんない」
顔を背け、思わず口をついた。
「拗ねるな」
髪を払う指。落ちるキス。
それだけで嬉しくて、声が少し笑っているのもどうでも良くなる。
何だか丸め込まれている気がするなんて、一瞬過ぎるひねくれた考えは照れ隠し。
頭に乗った手をとると、やんわりと指が絡んだ。
顔をあげて、今度はこちらからキスをする。
やっぱり少し、意地悪く受け止めてくれる貴方を
ただ、愛してる。
END.
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