◇Passing
■Passing 1
Passing
1.
物心ついた頃から一緒にいた。
思えば子供の頃から正反対な性格で、けれどどうしてかいつも側にいた。
両親といる時間より、貴仁といる時間の方がきっと長かったと思う。
貴仁はびっくりするほど面倒見が良くて、何かと雪也を気にかけてはあらゆるものから守ってくれていた。
お互いが隣にいて当たり前の存在。
それが、どうしてこんな風に好きになってしまったのかは分からない。
けれど、父親に犯されたせいだとだけは思いたくない。
まだ気付いて間もない恋心。
この大切な淡い思いを、汚されたくなかった。
週末に小学校上がりのメンバーで集まって、その中の一人の家でアルコール片手に大富豪大会。
配られたカードを眺めながら、まだ中学に入学して1年も経たないのに問題の学年と目を付けられているのは、こんな事ばかりしているからに違いないと考える。
まだ肌に馴染まない制服の上着を脱ぎ捨て、慣れないアルコールでほてる身体を冷ましていた。
「はい一気!」
連敗で空けたそばから紙コップに注がれる焼酎。
まさに潰れる一歩手前で掴んだそれをすっと引き抜かれた。
定まらない視線で追うと貴仁が口を付けている。
「っ……」
あっという間に流し込むその様に見とれた。
「じゃあ次配るぜ〜」
雪也の代理に貴仁が飲むのは既に黙認されている。
どうせならチーム戦にしてしまえばいいのに、貴仁は負け続ける雪也の分を片っ端から飲み続けた。
低下した思考力ではどのカードを出せばいいのか考えられず、どんどん泥沼にはまる。
その上貴仁とは逆の隣から覗き込んだ友人が、自分に有利なアドバイスばかりを雪也に吹き込む。
言われるままにカードを出せば、ちゃっかりと上がりの声がしてまた大貧民。
それを何度も繰り返して、みんなが漸く飽きた頃、やっと解放された。
一人呻きながら床にうずくまる。
「大丈夫か?一回吐くか」
「いい…平気…」
身体を起こして差し出された水を飲み干した。
ベッドを背もたれに座り貴仁にもたれ掛かる。
身体を摩ってくれる手が心地良い。
飲んだ量は大して変わらないか、あるいは貴仁の方が多いくらいなのに、少しも崩れないのが不思議だった。
落ちそうな意識に瞼が重い。
周囲では、ほどよく酔っ払った友人達がテレビゲームで馬鹿騒ぎをしていて、段々と不公平さに腹が立ってくる。
「……なんでいっつも僕だけなの」
完全な八つ当たり。
力の入らない腕で貴仁を叩く。
「絡むな酔っ払い」
むきになってバシバシと叩いても、愉しそうに窘められる。
きっとネコパンチ程度にしか思われていない。
馬鹿らしくなってまたぐったりと貴仁にもたれた。
頭痛が酷くなった気がする。
よしよしと頭を撫でる手。
同学年の中でも成長が早くて、さほど変わらなかった身長も今では10センチ以上違う。
変声してすっかり低くなった声で、時折身体が痛いと愚痴る様がなんだか大人っぽく見えた。
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