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◆Before
3

シーツに顔を押し付けて悲鳴を殺す。
何か悪い事をしたのだろうかと考えた所で思い付く理由もなかった。

「いい子だ」

先程まで口腔を蹂躙していた指先が、信じられない場所を引き裂いて体内に入り込む。
焼けるような熱と痛みに身体が悲鳴をあげる。

「暴れると傷がつく」

「…っ」

脅すような冷たい声は恐怖を植え付け、きつくシーツを握りしめて身を襲う激痛に耐える。

後孔を苛んでいた異物がやがて抜け出ていき、身体が弛緩する間もなく更なる熱が身体を貫いた。

拒絶する粘膜を無視して容赦なく捩込まれるそれに、悲鳴は声にならなかった。
ひきつる呼吸を繰り返し、されるがまま律動を受け止める。
やがて自分のものとは思えない悲鳴が口をついたが、されている事を理解するのを心が拒絶していた。
気を失いかけては突き上げられる激痛で目を覚まし、視力を失った目の前を血のような紅と暗闇の漆黒が繰り返す。
泣きじゃくりながら抜いてと懇願すると、男のそれがより深く中を刔った。
狂ったような悲鳴を上げながら、幻のようにちらつく像を追いかける。

――また明日な――

浮かびかけてはまた痛みで掻き消える姿。
貴仁。
縋るように心の中で名前を呼ぶ。
早く悪夢が終わる事を祈った。






気を失って眠りにつき、目を覚ますと朝だった。

横たわったまま僅かに身じろぐと鈍い痛みが走った。
ゆっくりと半身を起こして辺りを見回すが、ベッドも衣服も乱れはなく昨夜の名残は微塵も感じられない。
ただ身体の軋むような痛みが現実を突き付ける。

「…っ」

何だったのだろうと思う。
自分の叫び声に、男の息遣い。
ねっとりと身体を撫で回す手の平。
引き裂かれる痛み。

思い出して肌が粟立ち、振り払うように首を振る。

時計に目をやると普段よりも少し遅いが、急いで準備をすれば間に合う時間。

――貴仁。

ひどく恋しい気持ちが溢れる。
まるで悪夢のような異常な現実。
早く会って、未だ胸を去来する恐怖から解放されたかった。
日常に触れて、全て悪い夢だったのだと思わせて欲しかった。

どちらかが遅ければお互いの家の前で待つのが当然になっていたから、もうマンションの前にいるかも知れない。
準備をしようと床に足をついた時だった。

部屋のドアが開かれる。

「おはよう、雪也」

「……」

言葉もなく視線を上げた。
明るい光の中で父親の顔をしているそれ。
普段ならもうとっくに仕事に出た時間のはず。

「熱があるんだから、起きたら駄目だろう。ちゃんと寝ていなさい」

「……熱…?」

言われて見れば身体はひどく重く、怠かった。
有無を言わさぬ雰囲気に大人しくベッドの中へ戻される。

「学校には電話を入れたから大丈夫だよ」

「っ…学校行けるよ…」

「歩くのも辛いだろう。椅子にだって座ってられないな」

「っ…!」

腰に手が触れてびくりと震えると、それを見て男が笑った。
恐怖が蘇って身体が震える。
顔を背けきつく目をつむると、手の平が頭を撫でた。

「…慣れればあんなに痛い思いをすることも無くなる」

低く囁いた後、男の唇が雪也のそれに触れた。

「それじゃあ、いい子で寝ているんだよ」

茫然と天井をみつめたままドアの閉まる音を聞いた。





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あきゅろす。
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