◆Before
1
中学に入って間もない頃だった。
友人達と別れて貴仁と二人歩く、いつもと同じ夕暮れ。
「ゆき、今日飯は?」
「父さんが早いって言ってたから、大丈夫」
「そうか、じゃあ明日な」
「うん。バイバイ」
貴仁とマンションの前で別れて一人5階の部屋に向かう。
両親は仕事で家を空ける事が多く、食事などは幼馴染みの貴仁の家で世話になる事も少なくなかった。
けれどそのおかげで一通り家事は覚えたし、父親も料理はできたから男二人で特に不便を感じる事もなかった。
時計を見上げて宿題を片付け、そろそろ来るかなと立ち上がる。
母親が作って行ったおかずに合わせて簡単に夕食の仕度をし、風呂の湯を沸かした所でちょうど帰ってきた声がした。
「おかえりなさい」
廊下に顔を出して玄関に声をかける。
「お風呂沸いたけどどうする?ご飯もできてるよ」
後についてリビングに入り、上着をソファに置いてネクタイを緩める父親を見上げた。
「ご飯にしようか。お腹空いただろう?」
「うん」
素直に頷くと父親が笑い、つられて笑いながらキッチンに戻る。
着替えを済ませた父親に手伝われながら夕食を並べ終えると、向かい合って席に着いた。
食事の合間に学校や勉強について他愛もない話をする。
両親とも普通の家庭より一緒にいる時間が少ない分、家にいる時はよく話を聞いてくれた。
きつく叱られた記憶もなく、優しくて好きだった。
いつもと同じように夕食を終え、いつもと同じように食後を過ごす。
風呂から上がり自室で仕事をしている父親に声をかけて、自分の寝室に入った。
何も変わらない。
何も知らないままベッドに入り、眠りについた。
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