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◇Other
7


 人間落ち始めると早い。
 
 最初に落ちたのは、兄貴の女に逆レイプされた時。
 あの夜にどん底の手前まで転がり落ちてから、ずっと低空飛行を保ってた。
 それが渚の甘い蜜に吸い寄せられて、また落ちた。


 あの日以来、渚とはキメてやるのが当たり前になっていった。
 バッドトリップの恐怖よりあのとき優しかった渚を忘れられなくて、一度だけ、もう一回だけ、そう思いながらズルズル続けて、いつの間にかタガが外れたみたいに何の抵抗もなくなった。
 パニックになることもあれからない。

 初めの頃は、キマってくる前と切れた後は千鳥のことが頭に浮かんで仕方なかった。
 けれどそれもいつの間にか消えていて、ただ何度も頭の中で謝っていた。
 学校で会っても顔も見れずに、渚がいない日でも自分の教室に引きこもってる。

「ほら」

「……うん」

 渚が強要したのはあの時だけで、拒否しても何も言わないし、するのをやめる訳じゃない。
 それでも口をつけるのは、渚に優しくされたいから。

 実際、近頃の渚はひどく機嫌が良かった。
 女といる時間も短くなったような気がする。
 勧めるだけ勧めて自分はしないことも多かったけど、ドロドロにして喘がせるのが好きなのか、単純に仲間が増えて嬉しいのか。

「加減のわかんねー奴らとやると、スゲー面倒くせーことになる」
 
 渚は嬉しそうだった。

「その点波乃は言うこと聞くし、めちゃくちゃヨガってエロくなるし。やっぱお前可愛いよ」

 同じ時間と秘密を共有する。
 それを幸せだと思うこの感覚は異常なのかどうか、わからなかった。

 渚に優しくされたくて、ずっと自分だけを見て欲しかった。
 たぶん今の状況はその願望に限りなく近い所にある。
 そう思えば泣きたいくらいに切なくなった。
 叶わないと思っていたし、そのくせ諦めきれないで燻っていた希望だったから。

 渚は誰のことも愛さない。
 だけどこの関係を続けていれば、いつか自分みたいに、相手に情が移ることもあるんじゃないかと期待していた。
 そしてその相手は自分がいいと願っていた。

 もしもそれが叶うなら、他にはもう何もいらない。
 そのまま死んだって構わないとさえ思うのだ。

「……なぎさ」

「うん?」

「……」

 好き。
 好きなんだよ。

 このままずっと続けていれば、いつかこの言葉を言える日は来るのかな。

 そんなことを考えて、今のこの状況を良識人の千鳥が見たら、なんて言うだろうかと考えた。
 怒るか、きっと呆れる。
 呆れて、今度こそ見放されてしまうかもしれない。

 そう考えてこれは願望なのだと気づいた。

 ずっと願ってた幸せを前にして、なぜだか自分は、間違ってるって言って欲しいと思ってる。

 吸った煙でより一層バカになった頭が混乱してきた。
 渚にキスされて体が跳ねる。
 得も言われぬ快感が体の芯からこみ上げて、高い声が口をつく。
 渚が嬉しそうな顔をする。

 これを欲しいと思うのは間違ってるかな。
 ネジがぶっ飛んでる人間同士じゃ、上手くいくわけないのかな。

 千鳥に聞いてみたいと思う。
 あの明るい笑顔をもうしばらく見てない。

 だけど合わせる顔がない。


 落ち始めると速かった。

 いつの間にか抜け出す力も出ないほど深い所まで来てた。




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