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◇Other
4

『…あ』

 高校に入学して出欠番号が連続で、なんとなく連むようになってた伊崎渚。

 中学からの顔見知りに空き教室へ連れ込まれ、行為を終えて出たところで運悪く出くわした。
 思わず足を止めたこちらを置き去りに通り過ぎていく男を一瞥して、渚は全て察したらしかった。

 終わったなと思った。短い友情だったけど。
 別段隠すつもりもなかったのだが、渚は筋金入りの女好きで、ホモなんて軽蔑するに違いないと思った。

『なに、お前そっち系なんだ』

『…良かったら試してみる?』

 落ちる声にそう返したのは、周りに貼られたレッテル通りの卑屈なプライドだった。
 どうせ引かれるならと開き直っていたのだと思う。

 黙ってしまった渚に軽く笑って、冗談だよって言おうとしたら、思いがけない返事が返ってきて驚いた。

『男に誘われたのって、初めてだわ』

 引くのでも嫌悪するのでもなく、面白そうな顔をする。
 自分がいつも連んでた女タラシは、ネジがどこかぶっ飛んでると気付いたのはあのとき。



「っは、波乃」

「…っ………っ」

 痛い。
 
 あれから何時間やってるのかわからなかった。
 トイレと夕飯を食べたの以外、ずっと後ろに突っ込まれている。
 変な姿勢ばかり取らされているせいで、体の関節が悲鳴をあげてた。

「波乃、何か言えよ」

 痛ぇよ、バカ。

「声出せ」

 口の中に指を突っ込まれて開かされる。
 いくらぶっ飛んでるからって、一端の高校生風情が薬やってるなんて反則だ。

「鳴けよ。ほら」

「っ……っ」

 シーツにしがみつきながら、次の休憩はいつかなって考えていた。



 明け方ごろ、渚は文字通り死んだように眠りに落ちた。
 ちょうど薬効の切れ目だったらしい。
 最後の数時間はもう全然イかない渚をひたすら口で奉仕して、顎の関節がおかしくなった。

 何度か噛み合わせを確かめて、それから薄暗い室内で、横に転がる渚をぼんやり眺めた。

 思い出すのは遠く過ぎた過去のことだ。

 暗い部屋に響く押し殺した声と、自分の上で腰を振る裸の女。
 隣の部屋に明かりがついて、チンピラもどきの兄貴の怒号が部屋中に響いていた。
 ボコボコに殴られて、殺されるんだと本気で思った。

 いくら子供って言ったって、女に乗られてなんで抵抗できないのか不思議だった。
 あの時たぶん、兄貴達のやっていた薬の類を盛られていて、石になっていたのだと思う。
 だから女に上に乗られても、それが兄貴にみつかっても動けなかった。
 あの時の痛みと恐怖は忘れられない。
 だから薬は好きじゃない。
 
 今でもたまに見る夢は、出してもいない自分の声を必死に押し殺そうとするだけの、冷静に考えたらアホみたいな悪夢と、黙れと言うのに声を発する女の首を締め上げて殺す夢。

 仕返しみたいに兄貴の仲間にレイプされたときには、声を出したくても出なかった。
 死ぬほど痛くても、慣れて気持ち良くなっても出なかった。
 絞り出そうとすると奇妙な音だけ漏れて些細な会話も成立しない。
 気持ちいいせいだって思わせれば疑われることはなかったけれど、渚はたぶん気づいてる。

 渚が薬をやってたのは少しショックだった。
 だけどそれは別にいい。
 自分のしょうもない半生を知られたとしても、それも別に構わない。
 怖いのは、愛想を尽かされることだ。

 本当はものすごく面倒くさい奴だって知られたくない。
 つまんないセックスしかできないって気付かれたくない。

 だから渚が言うならなんだってしてやるし、なんだって受け入れる。
 何時間でもしゃぶるし、どんな体位でもする。

「……渚」

 動かない男の名前を呼ぶ。

 ただのヤリ友だったのに、渚のことをいつの間にか好きになってた。

 本当は優しくされたいし、自分だけを見て欲しい。
 だけど自分は男で、渚は男も女も好きだ。
 渚は誰とでもやるけれど、誰のことも愛さない。

 だから余計な期待はしない。
 そんな性分も引っくるめて、渚のことを好きでいる。




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