Christmas SS
『Calling』 parallel story
築下先生好きな皆さまへ
〜『Calling』パラレルストーリー〜
窓越しに見える濃紺の空に雪がちらついている。
手を止めて見上げながら、ホワイトクリスマスになりそうだと沸いた昼の教室が思い出される。
「…先生、何か欲しいものある?」
「欲しいもの?」
築下が採点していたペンを置き軽く腕を組んだ。
伺うようにちらりと見やる。
今の時期にこんなことを唐突に尋ねる理由なんて一つに決まっているけれど、思案する築下の表情はまるで分かっていない様に見えた。
それでも全神経を集中させて答えを待つ。
「加湿器」
「……」
やっぱり分かってないと力が抜けた。
脱力する雪也を見て築下が微笑う。
「この間、夜中に咳込んでたから。寝室に一つ置きたいですね」
「っ…」
優しい表情を向けられて、思わず嬉しくなってしまう自分を慌てて振り払った。
「そうじゃなくて、先生の欲しいもの」
「雪也」
表情をそのままに即答されて言葉を失った。
みつめられて頬が熱くなる。
質問の意図を初めから分かっていたのにわざと惚けられたのだと気が付いた。
「っ…聡さん」
「……本音なんですが」
からかわれて拗ねたように名前を呼ぶと、そう言いながらあやすように頭を撫でられた。
「そうですね…雪也の手料理が食べたいですが、どこか食べに行きたい?」
ううんと首を左右に振った後で少し傾げる。
「でもそんなのでいいの?」
「十分」
「…ふぅん……じゃあ、頑張って作るね」
にこりと微笑い返す。
「楽しみにしてます。雪也は何が良い?」
聞かれて今度は悩む番になった。
見つめられて一生懸命考えてはみるが、欲しいものは思いつかない。
思いがけない指輪のプレゼントだけでも嬉しかったし、これ以上欲しいものなんてないような気がする。
ただ一緒に過ごせるだけで嬉しい。
――けれど。
先程築下が言ったことを自分で却下しただけに、こんなことを言えば間違いなく何か言われるだろうと思う。
だとしても本当に欲しいものだから、と半ば開き直って口を開いた。
「聡さん」
「駄目。さっき同じ事言いました」
「…微妙にニュアンスが違う」
やっぱりと思いながらまた少し拗ねたくなる。
だって一緒に居られるだけで嬉しいのにと見つめると、築下が仕方なさそうに笑った。
「じゃあクリスマスプレゼントはそれで良いとして、誕生日プレゼントは何がいいかな」
突然の思いがけない言葉に、喜ぶより先に驚いた。
「っ…覚えてたの?」
12月と言えばクリスマス。
まして当日に被っていれば、世間一般の大きなイベントが優先されても仕方がないような気もして、なんとなく自分から言い出せずにいた。
「当たり前でしょう。何が良い?」
「…聡さん……」
思わず目の前の腕を掴むと、するりと抜けて抱き込まれた。
「随分安上がりだね」
髪に落ちる声が笑っている。
安くないよと築下の胸に呟く。
ほかの何物にも代えがたい愛情と温もり。
それ以上を望んでいいのなら、来年も再来年も、ずっと一緒にいられますように。
〜Merry Christmas〜