デイダラとサソリの学生パロ
チャイムと同時に走り出す。目的地は購買、制限時間は3分。



この世界に二人だけ



東階段から5Mちょっとの教室。息を切らしながら廊下を走り抜けて教室への扉を開け放つ。大声で「待たせたな!うん!」と一言叫んで防水加工されたデジタル時計に目を通す。ストップウォッチとタイマー、海外との時差と月の満ち欠けが分かる機能がついたとても高価なそれは高校入学のときに自分が誰よりも尊敬している芸術家であり、育ての親である叔父に貰った宝物。時計の時刻は丁度ただ今1時を指しかかったばかりであった。ジャスト3分、我ながら足の速さには誇れるものがあるから、そのタイムには満足いくものだった。しかし窓側一番前の席に座る少年の眉間には皺がよっていて、明らかに不機嫌な様子。

「遅かったな」

静かにそう呟くと、オイラをぎろりと睨みつける。その視線はまるで餓えた狼のようで、冷静な割りにこういうことはイラつく奴だ。彼の名前はサソリ、通称、旦那。しかし彼の性格はこの2年間でだいぶ分かったので、案外慣れれば気楽なものだった。そしてオイラは彼が座っている座席の隣の席から椅子を持って旦那と迎え合わせになるように座った。キラキラと外から降り注ぐ太陽光線が旦那の赤い髪を反射した。「おお!そういえば購買10個限定のカレーパン、手に入れたぞ!」「今日も一番乗りだったのかよ」「当たり前だぞ、うん」オイラは自分用に買ったヤキソバパンと炭酸飲料、そして旦那用に買ったカレーパンとウーロン茶を紙袋から取り出す。

「ったく・・・・・・ヤキソバ好きだな、お前も」
「旦那だってカレーばっかりじゃねぇか」

あんまり食いすぎると次の時間の体育でゲロってしまいそうなので軽めにおさえとく。それに学生だからそんなに金がないのであんまり使っちまうと、すぐに財布の中は其処だけ極寒地帯だ。大抵昼食の時間は他の生徒が旦那怖さに食堂や他のクラス、屋上や校庭のベンチなどで食べる為に人が全く居ないので、この教室は二人だけの世界みたいになっている。会話は案外二人になると饒舌になる旦那のおかげで長く続く。この間、美術展に行ったらモネの絵があったとか、週末に行われるバスケの地区予選とか、春の甲子園の優勝した高校のピッチングだとか。話題は尽きないが、あまりに熱心に会話していると、次の授業が体育で校庭のグラウンドに集合だということや、早くジャージに着替えないと体育の教師に叱られる、いうことも忘れてしまっているのだ。

やっぱり予想通りその日もチャイムがなるまで時が流れるのも気付かず語り合っていた。スピーカーから流れてくる機会音を聞いた瞬間、二人ハッとなって振り返る。白い壁にかけられたオイラの腕につけられたものとは違うアナログ時計。時計の分針は25分を指していて、後5分で体育が始まる。オイラと旦那は自分のロッカーからジャージをとり、急いで着替えると我先にと走り出した。二人で笑いあいながら、長い長い廊下を走り抜ける。五月の日差しが白く浮かぶ校舎。窓から見えるグランドからはクラスメイト達がこちらに向かって手を振っていた。

腕に光るデジタル時計は28分を写している。どうやら今日は旦那と二人仲良くお説教だな、と思って、旦那をちらりと見ると彼もニヤリと笑っていた。よっしゃ、それじゃぁどっちが先にグラウンドに着くか競争だな、となにも言わずともどちらも理解して、走っているスピードを更に加速させる。下駄箱で外履きに履き替え、太陽が燦々と降り注ぐ校庭へ飛び出す。はるか彼方の野球場に、仁王立ちした男の影が見える。ありゃりゃ、アレはかの有名な体育教師殿ではありませんか、と二人で顔を見合わせて、アハハ、と業とらしく笑ってみせる。すると遠くで怒鳴り声が聞こえた。

「くおらぁあ!デイダラ、サソリ!!お前ら校庭10週だぞ!」

季節は夏に差し掛かった五月。空は限りなく、青い。





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