捏造注意!




え?僕の初恋の話を聞きたいって。君も本当に物好きだよねぇ・・・・・・重吾。でもまあ、いいか。サスケも寝ちゃってるし、香燐も当分買出しから帰ってこないだろうからね。





彼女との出会いは木漏れ日が差し込む森だった。最愛の兄を奪われ、殺すことに快楽を覚えてしまった僕は里から刺客を差し向けられ、躍起になって逃げ惑い、死に掛けていたんだ。朦朧とする意識の中、僕が気絶する前に見たのは美しい女性の姿。その時のことを僕は忘れはしないだろう。彼女が差し出してくれた手の温もりも、心配そうな表情も、声も、僕にとっての今までの心の支えとなっていたから。

目を覚ますと古びた小屋に僕は寝かされていた。傷と泥だらけだった体もキレイにされていて、僕は一瞬現状を理解できなかった。どうして自分はここにいて、どうして布団で寝ているのだろう、と辺りを見渡していると、あの一瞬だけ見た彼女が僕の額に手を置いていたんだ。彼女はそれこそ花が綻んだように笑い、無事だったのねと言うと僕の体を抱き起こしてくれた。女性は近くで見るとその美しさをましていて、肌のきめの細かさや睫毛の長さ、瞳がとてもきれいな事に僕は改めて気付いて、心もそれに比例するくらい美しい人なのだと感心したよ。抱き起こされた僕の口に、彼女はコップを近づけ、ゆっくりと水を流し込んだ。四日ぶりに飲んだ水の味だった。
数日経てば僕の体調も回復し、歩くことも出来るまでになっていた。小屋から彼女と一緒に出て、街を歩く。彼女と僕の身を案じて僕は顔を隠してくれた。少しの金でパンと野菜と肉を買って元の小屋に二人で手をつないで帰っていく。後は兵糧丸で飢えを凌いでいけばいい。彼女のその優しい笑顔を一日でも永く見れればそれで、と僕は思っていたから。それでも最強の暗部がいると言われる霧隠れがそう易々と僕を逃がすなんてありえなかった。そしてまた、僕もそれをどこかで予感していたのかもしれない。

それでも僕は、その暖かな手を振り切って逃げるということが出来ずにいた。



それから僕らは約三年、穏やかで優しい生活を送っていたんだ。僕の身長はいつの間にか伸びていた、見上げていた彼女を追い越すぐらいになっていた。その間も僕の中の彼女の存在がいつか失った兄よりも大きくなって、憧憬と親愛で埋め尽くされていたはずの彼女への想いも貪欲で、薄汚い、性欲を孕んだものへと化けていった。押し殺していた狂気も、彼女の寝顔を見るたびに時折顔を出し、何度懐からクナイを抜き出したか分からない。それでも僅かながらの理性が僕を押し留めていたんだ。
しかし終りというのはいつも突然にやってくるものだね。その日も僕らはそんな悲劇なんて毛頭考えもせず、麗かな春の陽気を浴びながら二人小屋の外で洗濯をしていた。熱心に洗濯をする彼女の横で、僕の掌の中には小さな小さな指輪を握っていた。それは世間で言うエンゲージリングというものにはよほど遠かったけれど、彼女に黙って貯金をして、節約して、手に入れたものだった。愛しさと狂気が入り混じったこの感情を僕は如何呼ぶのか、僕はもう知っていから。
彼女の名前を呼ぼうと口を開いたその時だった。茂みからクナイが飛び出し、その切っ先は迷いもせずに彼女の左胸に突き刺さったのだ。驚いたように目を見開く彼女を見つめながら、僕は瞬時に何事かを判断した。クナイには霧隠れのものを表す里の刻印が彫られていて、それを放ったのが僕を追っていた暗部だということを知った。

永遠のときがながれたような錯覚を覚えた。僕は久しぶりに感じる生きたものの血潮に興奮を覚えつつ、だけれど心のどこかで深い深い海の底の様な暗く、悲しいものを感じていた。暗部の人数は四人、神童と謳われた僕には彼等を始末することは簡単で、ものの数分で其処は血の海と化した。生臭い、独特の匂いをかぎながら僕はすぐに彼女の元へ駆け寄る。不幸中の幸いか、彼女はまだ生きていた。生きていた、というよりもかろうじて息をしていた、というものだったけれど。駆け寄った僕に気付いた彼女は、ニコリと笑っていた。きっと肺を傷つけながら体を貫いたのだろう、口の端から泡が出ている。僕はそれを拭ってやると彼女は目を瞑って大きく息を吐いた。その音を聞きながら僕は彼女の名前を呼ぼうと再度口を開く。だけれど彼女の名前を僕が呟くことはもう弐度と無かった。



ねえ、重吾。何故あの時僕が彼女の名前を呼ばなかったか、知りたくないかい。え?知りたい?クスクス、重吾はやっぱり知りたがりなんだね。あの時、僕は呼ばなかったんじゃなくて、呼べなかった。僕は知らなかったんだ、彼女の名前を。知っていると思っていたんだ、ずっと。・・・・・・?そんなことありえないって?そうだよね、普通はありえないよね、でも、現に僕は彼女の名前を呼べなかった。でも、そんなこと考えている暇なんてなかった。僕はあの時、彼女の苦しむ姿を見ながら僕はどうやってこの思いを伝えようか考えていたんだ。どんどん冷たくなっていく彼女を抱きしめて、僕は生まれて初めて女の人にキスをした。可笑しいだろ、彼女は瀕死の状態なのに、普通の人間は、そんなことしないはずだ。病院に連れて行くなり、手当てをするなり彼女を生かすという選択肢はあったはずなのに。僕はあえて、人外の道を選んでしまったのかもしれないね。そう思えば、いくらか納得が行くよ。彼女の名前を聞かなかったことを。彼女はビックリしたような表情をしていたなぁ・・・・・・だけどすぐに、あの人はとても幸せそうに笑っていた。今でも忘れられないよ。無知、て言う言葉は、本当はこの世の中で一番残酷だって思うから。その後彼女は僕の頭をあの時みたいに撫ぜて、すぐに死んじゃった。でもあの時、あの人は死んでおいてよかったと今では思うんだ。あのまま生きていたら、きっと彼女は死ぬことも出来ずに僕の腕の中でもがき苦しんで、曲がった愛情を与え続けられながら狂っていったに違いない。だから僕は、こうなることをどこかで望んでたのかもしれないね、あの人への愛情を自覚した日から。
それと僕がね、何で水に執着するか知ってる?知らないよね、だってこれは誰にも話したことは無いからさ。彼女が死んだ日、僕は彼女を近くの湖に沈めたんだ。あの人みたいに清らかで優しい人は、水の中で眠らせるのが一番いいんじゃないかって思ったからさ。だからかもしれない、僕が毎日狂ったように水を摂取するのも。心のどこかで、一つになることが出来なかった彼女と、またこうやって会える気がしたんだ。まあそれも、ただの幻想だけれど。ああそれと指輪もね、彼女の左手の薬指に差し込んだんだ。僕は青が好きで、その指輪にはイミテーションの青いサファイアがはめ込まれていた。僕が彼女を湖に沈めて、それがちゃんと底に沈むかどうか確認する間、木漏れ日に反射して、それがいつまでもキラキラと輝いて、とってもきれいだと思った。紛い物でも、光りを放つことぐらい許されることに、僕はある意味救われたのかもしれないね。だけれど、その湖も僕らが過ごした小屋も、もう何処を探しても無いんだ。近くの大きな川に飲み込まれてしまって、僕がその場所に行ったときはもう、そこには濁流しか存在しなかった。呆然とその濁流を見ているとき、僕には喪失感しか残っていなかった。僕と彼女の思い出何もかも、流れてしまったような感じだったから。










あの日々ですら

偶像













人生初の夢です。夢、といえるか分からない上に大変報われない内容でスイマセンでした。しかもたっぷり捏造を含み、それでいてヒロインが死んでいますね。精進しなおしてきます。
哀歌の鎖様に投稿した作品です。




あきゅろす。
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