朽葉と鴇は両想いです





唐突に話がしたいといわれて鴇が死にそうな顔で私の部屋に入ってきた。いつもは女がどうとか煩いくせに、と疑問を帯びたが握られた手がこの時期にしてはあまりにも冷たくてそんな思いはどこかに飛んでいった。

もとから奇妙な奴だとは思っていたが今日は一段と変だった。顔全体をグルグルと包帯で巻いて、唯一覗けるのは右目だけか。しかし口調も笑顔もいつもどおりで、私がその顔は如何したんだとからかうとニコリと目が笑って私の体をフワリと抱きしめた。
いつもより積極的な鴇に若干違和感を覚えて背中に手を回すとなだらかなはずの其処はごつごつととがって鉄のような感触がした。頭を撫ぜる手もいつもの何倍も冷たくて悪寒さえした。しかし其れは他でもない六合鴇時であり他の誰でもないはずなのだ。

「如何したんだ?こんなに甘えたがって・・・・・・」
「さあね」
「しらばっくれるな。それにその包帯もだ」
「イメチェンだよ、イメチェン」

不思議な異国の言葉を呟いた鴇の声は酷く穏やかだった。其れなのにその間にも鴇の体はゴキゴキ、と厭な音を立てて変形していって、固くなっていくのを感じていた。大好きだった鴇の温度は徐々に冷たくなっていって、ただ走馬灯のように思い出ばかりが横切っていった。

「俺ね、朽葉と一緒に居れる方法を考えたんだ」
「朽葉はきっと悲しいと思うんだけど、これしか方法がなかった」
「人でいられなくなるけど、朽葉と一緒になれるならいいと思った」

肩越しに聞こえてくる声はもう人のものではなかった。姿は昔の鴇ではなくなっていたけれど、そんなのはどうでも良かった。彼が私のためにしてくれたことを、私は如何拒絶できるというのだろう。それでも私が今こんなに涙が出そうなのは彼がした行為が嬉しいとかじゃなくて、彼が人間でなくなったことでもない、私の為に彼が己をないがしろにしてしまったのが、とても悲しかったのだ。




其れでも私は彼のことを突き放すことはできないのだろう。人ではない己を愛してくれた彼のように、私もまたどんな彼も愛しているのだから。

なきがら






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