小南受祭提出作品、その2





小南がある朝空を見上げていると一羽の鳥が彼女の肩に止まった。その鳥は生きているものと違ってグニョグニョと柔らかかったし、土色だった。きっとこの鳥の製作者が自分を殺そうと思えばきっと自分も死んでいる。だけれど彼女が今生きていたのは彼が心から慕っていた人だったから。


「おはよう、デイダラ」
そう言うと小南は鳥の嘴に挟まっていた便箋を抜き取る。鳥は頷くようにして頭を振ると元来た道を戻っていくように羽ばたいて行った。それを小南は眼を細めながら眺め、冬になって若干高くなった太陽の下にいる鳥の製作者であるデイダラの顔を思い出した。

「今年は少し寒いわね・・・・・・」

まるで其処にデイダラが居るように小南は呟くと封筒の中身を確かめた。其処には彼が今までの任務で培ってきた知識や彼女への遠まわしな愛情表現、慕ってきた相棒を失った悲しみや新たな相棒への愚痴が長々と綴られていた。彼の性格はよほど忍らしくなかったせいか、彼の文体は面白い。

影を象徴した彼女の生い立ちからはデイダラのようにまさに太陽を想像させる存在とは縁薄かった。いや、本当はもっと記憶を手繰り寄せれば明るい性格で、それこそ日の光が似合う少年や、雨の中でもまるで真夏の日差しのように煌いていた恩師の姿もあるのだが、彼女にとってそれは他でもない過去のことだった。


『元気ですか、オイラはまぁまぁ元気です。
姐御に直接会えないのは凄く寂しいけど、抜け出したらトビとかリーダーに怒られそうなのでやめておきます。
別に怒られるのは構わないけどあいつらしつこいからな、姐御もそうおもうだろ?』

以前まで彼をしかりつけているのはサソリだった。しかし彼は木ノ葉の忍との戦闘で帰らぬ人となり、その穴埋めとしてトビが入った。小南は時折見せるデイダラの悲しそうな表情を思い出しては手紙の文面に白い手を這わせた。

自分が傷つくよりも、自分が不幸にあうことよりも大切なものが死ぬのは酷く悲しい。彼女もまた、戦争孤児だったせいか親や兄弟を亡くす苦しみを知っている。昨日まで笑っていた人が、平然と語り合っていた人がある日突然この世から消えてしまう。忘れたと思ったころにその記憶は失ったときと同じくらいの痛みを蘇らせる。

幸せで、忘れたくないと思う記憶ばかりが薄れて、擦れてしまうのに、こんな悲しい記憶だけが古い金属にこびり付いた錆みたいに取れようとしない。


『そういえばオイラ久しぶりに岩隠れに行ってみました。
凄く懐かしくて、泣きそうになりましたが、でもトビがいたから我慢しました。
だってあいつ、いつもオイラのことからかってくるから』

子供のように拗ねた顔を思い出して、暗い気持ちだった小南の顔は綻んだ。暁の中でも年少のほうのデイダラは、大人ぶってはいるもののまだまだ幼さが残る思考を持っていた。しかしそれも後数年で急激に薄まるだろう。最近は落ち着いてきたし、口答えも割と少なくなった。

しかしそれはサソリの教育の賜物であり、トビの出現によってまた彼の中で隠れようとしていた少年が顔を出すだろう。でもそれもまた彼のいいところなのだ。小南はそんなデイダラが好きだった。いつまでも彼は純粋で清らかな、そして我侭な子供のままだろう。変わらぬ事も美しい。そしてそれが彼女にとって嬉しかった。だけれど、もうきっとこの手紙のやり取りも終わってしまうだろう。終焉は、近い。



「デイダラ・・・・・・」

ため息を吐くように小南は手紙の差出人の名前を呟く。彼はこれから死ぬだろう。彼のツーマンセルであるトビはただの一介の忍ではない。赤い眼を持った、恐ろしい力を持つ男。彼は鼻で笑いながら「デイダラには駒になってもらう」と呟いていた。きっと、デイダラはサスケに負けるだろう。そしてサスケの力量を図る為の道具であり、そして負けず嫌いな彼の性格はきっと彼を全力で殺しに向かう。

小南は手紙を読み返して、涙を流した。この涙も未だかれなかったか、と小南は呆然と他人事のように思いながら、彼の名前をただただ呟いた。


彼から貰った手紙はこれが最後の一枚となり、そして後々彼の死が彼女に伝達されたのはデイダラが死んで三日後のことだった。





“オイラ、きっとこの戦いで死ぬかもしれない。そんな気がします。

だから、今言ってしまいます。


あなたのことが好きでした。

世界でもなく、芸術の賞賛でもなく、名誉とか金でもなくて、


小南、あなたの幸せを、何よりも望んでいたのかもしれません。”





恋文





さようなら、オイラの痛みを分かってくれた人。






あきゅろす。
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