香燐が水月を殺す話





いくら男といえども強力な睡眠薬を含んだこの液体を飲み干せばただの赤子と同じようなものだった。スースーと寝息を立てる彼にゆっくりと近づいてみた。幼い寝顔が寝室の白い光りをまとっている。それはまるで小春日和の日差しのように柔らかで優しげな色だった。うちは口元に笑みを浮かべて、そして淡い色をした髪の毛をすいた。すると彼はくすぐったそうに身を捩って微笑み、うちの名前を小さく呼んでまた深い夢の中に入っていった。

「水月、うちはな、お前のことが嫌いじゃなかったよ」
「・・・・・・本当は、サスケよりも、誰よりも好きだったかもしれない」
「お前の気持ちも知っていた、だけどうちはお前を受け止めちゃいけないんだ」
「うちはきっと地獄に行く、誰に言われたわけじゃないんだけど、そんな気がするんだ」
「いっぱい殺してきた、それも抵抗する人間をだ。その中に子供もいた」
「酷い殺した方をしたんだ、実験台にして。皆最期は笑っていたよ、そりゃそうだよな、あんな事されるなら死んだ方が全然ましだ」
「それでもお前は生き残った、それでうちはお前を愛してしまったんだ。お前もうちを愛してくれた。両想いがこんなに辛いなんて思いもしなかった」
「最初はお前が嫌いだったさ、何をしてもお前にはきかない、お前はまた再生する」
「でも情を持った、という言い方のほうが正しいのか?それでだんだん、お前が憐れになってきた」
「お前は何をしても、切り刻んでも水になる。死なない、それである日分かったんだ」
「死なないんじゃなくて、死ねないんだって」
「可哀想だよ、きっとこの世の中で一番お前が憐れだって、うちは思うよ」
「なぁ、どういう気持ちなんだ?痛みも何も感じない、お前は世界がどういう風に見えるんだ?」

ただ誰も聞いていない虚無にかたりかける、彼は未だ深い眠りに沈んだまま安らかな顔を浮かべている。その笑顔も、見れるのは最後かもしれない。

「だから決めたんだ、うちが必ずお前を殺してあげるって」
「うちはおかしいか?でもこうするしか他に方法がみつからないんだ」
「お前もきっと地獄に行くだろうけど、きっと地獄を見る前に生まれ変わるよ」
「それで私は何も見えない底なしの闇の中でお前を思い続けてやるよ」
「どういうところなんだろうな。皆苦しんでいるのか、それとも鬼が泣いているのだろうか」
「うちはどんな表情をしているんだろうな・・・・・・多分笑っているかもしれないな。悲しくて、おかしくて、笑いが止まらないんだろうな」


そういい終えると眠る彼の頭をもう一度撫ぜた。きっとうちが朝起きたら彼は冷たくなっているだろう。でもそれはうちが望んだことで、それを見てきっとうちは泣きもせず笑いもせず、何もしないで腐っていくお前を見つめているんだろう。それでも眠ったまま逝けるなら彼も安らかだろう、うちだって眠ったまま死んで見たい。でもそれじゃ駄目なんだ、うちはもっと、もっと酷い死に方をしなきゃいけない。それがお前を殺したうちへの罰。そんな罰なら別に受けたって構わない、死ぬときだって別に苦なんて思わない。


「もう疲れたよな、水月。おやすみ」


ありったけの猛毒を流し込んで、死の淵へといざないましょう。その先には闇があるか、光りがあるか。うちにはもう分からないけれど。

死の淵





あきゅろす。
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