くちはのひとりごと





萱草はお人よしだった。まあそれも彼が認める人や、私や犬神とかなり範囲は狭く、彼が気に食わないやつにはそれはそれは辛辣で。だけれど、その差別が私には心地よかった。彼が私にだけ向ける眼差しの温かいことや、本当に気分がいいときに寄りかかってくるときの重みも、私には安らぎを与えた。まあ少なくても、好きと嫌いか、どちらかの言葉で言い表せば断然好きの部類に入っていた。

だから許せなかったのだ、私を棄てたことが。私を置いてどこかにいってしまったことが。必ず戻るから、そういって私の頭を撫ぜた後、あいつは弐度とそこには帰ってこなかったのだ。ずっと一緒にいよう、俺はお前の見方だから。俺だけはお前の傍にいるから。そういって私を抱きしめた彼の温もりも、今では私の中から幻となって消えていた。




なあ、萱草。お前は今どんな気分だ?昔、あの寒い日に置いていった私を目の前にして。今でも、今でも私のことが大切なのか?今でも誓えるのか、永遠を。また抱きしめるのか、その偽りの愛情で。













あきゅろす。
無料HPエムペ!