鴇時が人食っています。被害者は篠之女さんです







グチリ、といやな音が響き渡る。その中にけたたましい悲鳴が混ざっているのは軽く流す。いちいち相手にしていたらきりがない。ガクガクと震えるあいつの二の腕の肉を引き離して俺の口へと持っていく。人間の肉はどの動物のものよりも不味い、だけれど同じ細胞を持っているこれらを胃袋の中に押し流す、ということは何故だか征服欲を増す。赤い、真っ赤な感情。
それでも俺がこんな奇行をするのは彼女以外の人間だけ。本音を言うと、愛しいあの子の肉も味わってみたいと思うけど、俺の中の理性がそれを拒否するんだ、困ったもんだね。

ゼェゼェと息をしているこれは篠之女紺、という俺の親友だった。だけどこいつはもう駄目。今日、俺に黙ってあの子の髪の毛を結ってあげていたから。それは俺の楽しみだったのに!彼女の柔らかな髪の毛を唯一触れるのは俺だけだと思っていたのに!

「おまえ、くるって、る」

狂ってる!?俺のこの思いが!笑っちゃうね、俺とあの子の関係は世間で言うプラトニックラブなんだよ、汚いなんてありえない!!俺はこんなにも彼女を思っていて、だからキスもしないしセックスもしない、抱きしめるときでさえ心臓が止まりそうになるのに!

ああ、またあいつがあの子の名前を呼んだ。汚い、汚いその口であの子の名前を呼ばないでよ、俺だけが呼んでいいんだ、俺だけのあのこの名前を!

耐え切れなくなった俺は篠之女の心臓に遂に刃物を突き刺す。一度だけじゃ耐えられなくて、何度も何度も。返り血が跳ね返って、肉が飛び散るのももう、どうでもいい。早くこの世から消したかった。もうこいつを見るのはうんざりだった。





篠之女紺の遺体は近くの林の中に埋めた。きっと真夏だから一週間も擦れば簡単に腐って誰が誰だか分からないほどになっているだろう。それが可笑しくて俺はつい喉の奥で笑ってしまった。

林からの帰り道、俺は土手沿いを散歩していると向こうから朽葉の姿を見つけた。朽葉は長い黒髪を下ろしていて、その手には朝、篠之女が結ってあげたはずの紐が握られている。俺は気になってどうして外したの?と尋ねたら朽葉は悲しそうに俺に微笑んで、なんでもないよ、と呟いた。朽葉の頬に涙が通った跡があった。





(おまえを、くるわせたのは)


(わたし、か?)






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