萱草→←朽葉で報われない話。朽葉が死んでいます




朽葉はもう何も言わない、冷たくなった手を握っても逆に俺の体温が奪われてしまう気がした。でもそんなの構わない。いっそ奪いつくされて俺もそっちに言ってしまいたいなんて考えた。それほど、俺は朽葉を愛していた。

最期、彼女がなんていったのか、俺は分からない。それでも朽葉は寿命を迎えたのだから、俺としては嬉しかった。犬神憑きの寿命は短い。彼女の祖父こそ長生きしたものの、こんなに色濃く血を引いているのはきっと朽葉くらいだ。


「私には、私には夢があった」

死に際に呟いた彼女の言葉。呪われた血を受け継ぐ女は涙を流している。俺はその涙の止め方なんて分からなかったので、ただただ黙って聞くしかなかった。俺には何も言えなかった。朽葉はボロボロと涙を流して俺の手を掴んだ。俺はその手を握り返すことも躊躇った。

「私は、普通に、恋をして、愛する、男と、結ばれて、子供を、生んで、その子に、看取られ、たかった」

ああ、なんて可哀想な朽葉。人の普通が、こいつには憧れだった。祖父との言いつけを最後まで守った朽葉は今、愛する男のことを忘れてこんな無表情の、なんとも思っていない男に看取られて死んでいく。

「かんぞ、」


その後、朽葉の唇が何かを呟いた。俺は聞く気にもなれなくてぼんやりと握られていた手が緩んでいくのをただ感じた。




俺はたぶん朽葉が生まれる前からずっと彼女を愛していた。もちろん彼女は知らないと思う、否、一生知らなくていいのだ。だって朽葉もまた、俺のことを愛していたんだ。俺も、朽葉も最後まで思いを伝えなければ俺達の関係はそこで完結する。いいんだよ、これで。さあ、朽葉。泣くのはやめてくれ。


すぐに俺も、そこに行くから。



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あきゅろす。
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