白緑が消えた日の二人





肩越しに顔を埋めるやつの悲痛な泣き声が聞こえる。まあ耳に近いところで彼が泣いているのだから聞こえない方がおかしいのだが。うるさい、いいかげん泣くのはやめろよ弱虫、どうせこの悲しみもすぐにお前は忘れてしまうんだから。と、どこか悲観的ではない、どちらかというと楽観的な言葉に露草はびくりとして、俺からすぐに離れてしまった。やつの目からはポロリと透明な液体が流れていた。俺はそれが酷く美しいと思った。

そしてこう言った。

「おまえは、悲しくないのか、あいつが死んで、あいつがいなくなってお前はなんとも思わないのか、なあ。なんでだよ鶸。お前だってあいつのこと大好きだったじゃん、どうしてだよ。どうしてお前はそんな、」

露草はそのつり目からボロボロと涙を流しながら、しかもしゃくりもあげながら俺の胸倉を掴んで揺さぶった。俺の力の抜けた体はそれに応じてグラグラ、ユラユラと揺れている。俺はそんな自分が酷く滑稽で、酷く可笑しくて、酷く、哀れだと思った。



露草(といっても彼の本来の姿である樹のことだが)はその年、花をつけることがなかった。元から彼は何の種類の樹木なのかは分からなかったが、一年に一度真っ赤な花を咲かせていたはずだったのに。白緑も、俺もその花が大好きだった。飛べなくなった俺は彼の悲痛な叫び声を聞きながらその年、凍りつくかのような時間を過ごした。一刻も早く、露草の心の中から悲しみが消え去るのを願いながら。

(ああ、大好きだったよ。俺だって白緑のことが大好きだったんだよ、露草。あいつに認めてほしくて、あいつが笑うところを見たくて俺だって凄い頑張ったよ、だけどな、死んでしまったんだよ。他でもない俺のせいでな、だから俺は泣いちゃいけないんだ、あいつの死を悲しんじゃいけないんだ。俺はとんでもないことをしてしまったんだから。自分勝手な遊びのせいで俺は誰よりも守りたかった人を殺して、誰よりも好きだった人に深い深い傷と悲しみを背負わせてしまったんだから)

飛べない鳥と、花を咲かせない樹。欠落した俺達は最愛の人を亡くした悲しみを嘗めあいながら生きていくのだろう。だけれど結局季節の変わり目を感じ、思い出を一つずつ捨てていく露草はきっと俺を置いていく。最終的に、俺だけが取り残されるのだ。血だらけの羽とあいつの笑顔を思い出しては涙を流すこの時に。





(そして俺はそれを)(望んでいる、)







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