お正月リクエスト、スレナルサク






血濡れの月を見上げて、今日も俺は涙なのか返り血なのか分からない液体を嘗める。温い、苦い味。体は芯から冷えて、瞼にちらつくのは優しい恋人との記憶とすがり付いて俺のために泣いてくれた彼女の涙。ヒューヒューと霞む音、きっと俺の呼吸。ガタガタ、止まらない。何に?俺は何に怯えているんだろう。


狂ったのは、いつからか。


サクラと俺は恋人同士で、それもどちらかから告白したというわけじゃないけれど、気付いたら一緒にいたのだ。俺は幸せだった、幸福で幸福でしょうがなかった。いつか訪れる終焉を知りながらも俺は彼女だけは手放したくないと感じていた。しかし俺は一つだけサクラに嘘を、ついている。知られてはいけない、これは俺が生まれてからの絶対的な運命。俺は暗部だった。サクラは、暗部がどんなに過酷な条件下で動いているのか彼女は知っている。だから俺はサクラに黙っていた。人殺しを平気で行っている自分なんて、サクラにだけは知られたくなかったから。


ある夜、サクラに俺の姿を見られた。向こうは、あ。と反射的な声なのか驚いた声なのか分からないけれど確かに、あ、と言った。俺は何も言わなかったと思うけど、きっと心の中で叫んだと思う。ギャアアアとか、ウワアアとかそんな感じじゃなくて、もう声にもならない感じの、悲鳴。血の匂いと臓物の破片を纏わせた俺はさながら鬼のようだっただろう。俺は絶望した、これで何もかも終わった、と思った。

その後火影邸に任務完了の報告をした後、急いで帰途についた。シャワーはもう浴びてきて、血の匂いももうないだろう。だけど未だ鼻腔に残るその腐臭はとてもじゃないけれど取れそうになく、また俺は震えた。季節は桜が満開に咲き誇る春。もう寒気なんか感じることはないのに。自宅の前に着き、俯いていた顔を上げると自宅の前に彼女がいた。悲痛そうな顔でサクラは俺を見ている。緑色の目からは次々と涙が溢れ、唇が言葉を象るように動いている。

「さく、ら」

彼女の名前を途切れ途切れに呼ぶ。体中が震えている。いや、そんなこと今に始まったことじゃないんだ、もうずっと前から震えていた。こうなることを予感していたから。でもサクラは俺を拒絶せず、困ったようにずっと震えている俺の手を取った。冷たい、死体みたいな俺の手とは違う、優しくてあったかい手。俺のことをずっと守ってきた掌。

「私があんたを化け物だって言うと思った?私がそんなに酷い女だと思った?」
「違う、だって俺」
「分かってたわよ、あんたが暗部にいるってことぐらい。嘘が苦手なのよ、ナルトは」
「・・・・・・ごめん」
「ちょっと、何でそんなに震えてんのよ。もしかして風邪ひいたんじゃない?」

そうやって無理矢理俺を部屋に入れるサクラの掌は相変わらず温かい。違うよ、サクラ。風邪をひいたんじゃないんだ、何かに怯えているわけでもないんだ。サクラが俺を拒絶するなんてありえないと分かっていたんだ。だからこの震えは、この震えの意味は。



それはきっとサクラが俺の手にかかった瞬間。





あきゅろす。
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