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※距離(東御

 シーツに押し付けられた顔からくぐもった声が漏れた。顔の両脇に置かれた削い指は変色するほど強くシーツを掴んでいる。
 強張った手首を掴み後ろに引いた。振りほどこうとする力は殆ど意味をなさなかった。元々御堂筋の腕力では東堂には適わない。嫌々と振る首がシーツを乱す。
「声を聞かせろ」
 手を引き、深く抉ると僅かにシーツから顔が浮く。
「ひっ、ひぐっぅや、やや」
 殺そうとして失敗した声に背中が震えた。
 周囲に隠れての交際はもうすぐ3年目になる。初めて会ったのは御堂筋がまだ小学生の頃だった。大会で優勝した選手を囲む中に、一人も家族や友人がいなかった事に興味を引かれた東堂は帰路を一人歩く彼をつけた。二人きりになってから話しかけて驚いた。レースで他者を貶める発言や戦略を軽蔑しながら惹かれた理由を、東堂はそこで初めて理解した。
 強く、ともすれば仲間の屍すら乗り越えていきかねない選手はどこか高潔な命を感じさせていた。共に走る仲間も祝福してくれる友人や家族も必要としない御堂筋翔の孤高な魂。
 求められることは多かったが誰かを求めることがなかった東堂は、彼に会って初めて他人を心から欲しいと願った。
 柔らかく暖かな女子とは違う。骨ばって歪んだ身体に欲情して押し倒したのは彼がまだ中学に上がる前だった。その頃はまだ自分の方が背が高ったのにな、と泣き声を漏らすのを見て息を吐く。
「ぅ、はぁ、はっ…」

 身長こそすっかり抜かされたがセックスにおける反応は最初と何も変わらない。二人きりになり、無言で手を繋ぐと途端に身体を硬直させる。逃げることすらできず大きな目を見開いて東堂の手の動きを追う。
 耳に唇を寄せ、小さく名を呼ぶと肩が跳ねる。額と頬、首にキスをして優しくベッドに押し倒す。
 服を一枚ずつ剥いで、つけっぱなしになっているテーピングを剥してベッドの下に投げ捨てる。荒れた肌に触れると硬直した体が震えた。
 太腿を撫で、敏感な場所に舌を這わす。初めて肌を重ねた頃には生えていなかったが今はうっすらと生えている場所にも舌で触れ、嫌がる腰を押さえ付ける。どんなに拒否していても、両手で東堂を引き剥がすことはしない。腕力で勝てないことをよく解っているからだ。

「ぁっ、あ、や、イヤや、東ドウ、く」
 自身の身体を制御できない恐怖に怯える声に興奮し、狭い内側に吐精した。避妊具の重要性を理解はしているが無自覚に怪しい色香を放つ肢体に夢中になるといつも精を吐き出すまで忘却してしまう。
 びくびくと痙攣する身体を見下ろした。学生の身で京都までは遠すぎる。次にいつ会えるのか考えるだけで胸がぎゅうと締め付けられた。
 性器を抜き、ぐったりした体を仰向けにして汗で張り付いた前髪をはらい顔を見つめる。
「…ん、」
 足を抱え直すと眠たげな目が一瞬で覚醒して睨みつけてきた。すまないと早口に謝って脱力した身体に覆いかぶさる。
 来年、彼と初めてインターハイで同じ道を走る。大会で会っても互いに知り合いではない風を装うと決めていた。きっと彼は王者である箱根学園を挑発し、罵倒し、あらゆる手段で追い詰めるのだろう。
 走る彼を見つめている時、自分がどんな顔をしているのか東堂は知らない。抱いている時に愛しい物を見る蕩けた目で見ている自覚はあるが道の上の彼を見ている時、他の誰を見る時とも違う、彼にだけ向ける目を向けている。何も考えられず、饒舌な口からは言葉がひとつも出ない。他人のふりなどするまでもなく選手としての彼を前にした自分は普段と違う無口な男になるのだ。

 これから練習量が増える。きっと次に恋人として会えるのはインターハイの後だろうと寂しい気持ちで東堂は恋人を抱いた。

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あきゅろす。
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