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pdr
※家族の肖像(新御)


 子供ができた、と新開が口にすると御堂筋は大きな瞳をくるりとしてから綺麗な歯を見せて笑った。意外な表情に眉を上げると更に意外な言葉が薄い唇から飛び出した。
「おめでとさんやなぁ。今時出来ちゃった婚も珍しないしなぁ。で?式はいつなん?」
 新開の記憶が正しければ御堂筋は半年前から自分の恋人だ。強引にこじつけたとはいえそれなりにうまく生活している。同棲の条件として引き受けた家事全般も新開は楽しんでいたしなにより愛しい相手と暮らせることは幸せだった。





 性的な接触を嫌う御堂筋をなだめすかしてベッドに運び、怯える身体を徐々に開いていった。
 自転車で速く走るため以外に存在する全ての器官を否定する身体に快感を教え込んだ。自身では制御できない感覚に追い詰められる姿に興奮し、焦ってはいけないと思いつつも薄い身体を夢中で貪った。
 異変に気付いたのは彼の身体を犯し尽くした何度目かの朝だった。
 寝ぼけた顔で起きてきた御堂筋が新開ですらやりすぎたと思った行為をきれいさっぱい忘れていた。確かに最後には意識が曖昧でろれつも回っていなかったし快感に呑まれて気絶したが記憶が飛ぶほどだっただろうかと首を捻った。
 それから、朝になると性交の記憶が消えていることが多くなった。どころか最中に意識が曖昧になる事が増えた。ろれつが回らず、新開の名前を呼ばずただ怯えてたすけてと繰り返す。
 快感が深まっている間の事なので新開自身も追い詰められている。御堂筋の名を呼んでも怯えて震えるだけなので涙の溜まった目に煽られて確認を忘れてしまう。
 ふと、混乱し怯えている御堂筋の名を呼んでみた。

「あきら、くん」
 脚を抱え、性器を埋め込んだ体がびくりと跳ねあがる。それまで意味のある言葉を発さなかった声が新開に疑問を向けた。
「な、ん…なんで、ボク、のなまえ」
 頭に上っていた血がゆっくりと降りた。快感に追い詰められて、ではない。ろれつの回っていない口調はどこか幼かった。
「だれ…?」
 怯え見開かれた目に映っているのは間違いなく自分だ。御堂筋翔の恋人という立場を強引に勝ち取った新開隼人。
「なに、しとるん…ここ、どこ…ぅあっ?!」
 腰を掴んで一度精を放った場所をぐるりと掻きまわした。快感に慣れた身体は意識が追い付かずとも素直に反応する。
「ぁ、あっ、なに、や、イヤや」
 暴れる体を抑え込み違和感を覚えた。これは誰だ。目の前にいるのは御堂筋翔で、大切な恋人。そのはずなのに行為を拒んで暴れる姿はまるで
「大丈夫だ。怖くないよ。翔くん」
 幼い子供に言うように優しく宥めると快感と穏やかな声にほんの少し落ち着いた瞳が新開を捉えた。
「翔くん」
「…なんで、ぼくのなまえ、しっとるん…」
 不思議そうな幼い声。ぞくりと背中に悪寒が走った。

 感じている快感を認めたくない御堂筋は意識を閉ざすことで己を守ろうとした。閉ざしきれなかった意識の隙間で呼ばれた翔という名に、無防備な幼い彼が顔を出したのだと新開は結論付けた。
 快感に溺れるたびにそれを嫌悪して忘れようとした御堂筋の意識は名を呼ばれた事で間違った方向に導かれた。否、新開からすれば何も間違っていなかった。

 すぐにでも揺さぶって抱き潰したい衝動を、強く目を閉じて抑え込んで性器を抜いた。埋め込まれていた質量が抜けていく感触に翔が小さく声を漏らす。
「…なん…」
「オレはね、キミが大事なんだ」
 柔らかな頬に触れて言うと未だ快感を残し赤く染まった目じりが僅かに緩んだ。
「そうだなぁ、たとえばキミのお母さんと同じくらい、ね」
 にこりと微笑んでやれば、普段であれば決して見れない照れくさそうな顔で笑い返される。
 ほんまに?と聞く掠れた声は確かに歓喜に満ちていた。




「あのさぁ御堂筋くん。オレとキミは今付き合ってて同棲してるんだけど」
「せやね」
 興味なさげに言い、ソファで雑誌を捲る恋人にため息を吐く。
「それでオレが子供ができた、て言ったらまず誰とのかとか浮気なのかって聞くべきじゃないか?」
 まさか祝いの言葉をいただけるとは思わなかったよと皮肉を言って隣に腰を下ろすとわざとらしい質問が飛んできた。
「誰との子ぉなん?浮気ぃ?」
 楽しげに聞く声に新開が期待していた音は含まれていない。もっと怒りや猜疑心を込めるべきじゃないのかそのセリフは。
「浮気じゃないよ。」
 頬杖をついて御堂筋の顔を覗き込むが雑誌から視線を外さない御堂筋とは目が合わない。
「ほな誰との子ぉなん」
 かつて道の上で彼にしたのと同じポーズをしたまま振り向くのを待つ。雑誌を読み終えるまで同じ姿勢でいることを覚悟していたが思ったよりも早く大きな瞳は新開の指先に向いた。
「…ファ?」
「だから、オレと、キミの子」
 ピストルを模した指先で打ち抜くように御堂筋を指す。
「なんの冗談…」
「冗談じゃないぜ。」
 雑誌をテーブルに置いた手首を掴み、ソファに薄い身体を押し付けた。
「は、今日はしたないて言うたやん。何考え―」
「普通の恋人同士と同じに、ちゃんとセックスして出来た子供だぜ」
 掴んだ両手首を強く握って顔を寄せる。
「…出来るわけないやろ」
 男同士で、と続く言葉を唇を合わせて飲みこんだ。

 快感を認めたがらない御堂筋はきっと今夜も己の作った殻に逃げ込むに違いない。完全に扉を閉めて鍵をかける前に優しく声をかければ分厚い殻の隙間を開くことができる。僅かな隙間から御堂筋翔を全て捕まえることはできない。けれど自分と彼との関係の中で生まれた歪んだ幼い精神だけは引きずり出すことができる。
 紛れもなく彼と自分の子供だ。
 純粋に、しかし淫らに笑う少年の名を新開はまるで父親のように優しい声で何度も繰り返す。柔らかな声に、腕の中の身体は教えた通りに新開を父と呼んだ。

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あきゅろす。
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