pdr ※小動物の抗議(さかみど) 完全に縛り上げなければ、彼の身体を自由にはできない。20センチも差があるので、腕力のない彼でも押し倒すのは困難だ。自分も体力に自信があるほうではない。暴れて逃げられては目的は達成できないのだ。 練習帰りに家に呼ぶことに成功し、親がいないからと泊まるようにすすめ、疲れた身体が眠りについてから縛り始めた。手首は触れると、予想よりはるかに細かった。しっかりとした男性の身体でありながら細すぎる部分は自分より細い。 床に敷いた布団の上で、完全に拘束を終えた身体に満足して、無理に貸したサイズの合っていないジャージを引きずりおろす。外気に曝された肌が震える。ローションを垂らして指を差し入れた。焦る気持ちを抑えて慣らす。傷つけたくはなかった。 眠りから覚めず、しかし内側を探られる感触に薄い唇が小さく声を洩らし始めた。 喘ぎに似た擦れた声に興奮し、耐え切れず挿入した。体格に見合った大きさなので苦しくは無いだろうと思ったが、それでも指より質量が増した挿入物に俯せた身体が目を覚ました。 「ぴっ、ぎ、なに、な」 状況を飲み込めず混乱する背を撫でて宥める。ごめんね、と言うと裏返った声が悲鳴があがった。 「さ、サカ、ミ、チィ…ッ?」 なんで、という疑問はシーツに飲み込まれた。覆いかぶさって強く揺すると縛られた身体が痙攣した。 「きもち、いい?御堂筋くん」 「ア゛、あっ、」 逃げようともがくが背中に回され固定された手と、腰だけあげて俯せにされた身体は思う世に動かない。 乾燥しやすいと聞いていたのでタオルを巻いてからガムテープを何重にもして止めた。脚はジャージの上から止めてある。目が覚めて手足が全く動かなければ誰でも動揺するだろう。 レースで他人を威圧する男が狼狽えていて、自分の手によるものだとう事実に酷く興奮した。 「みど、すじ、くん」 初めての行為であるのに、身体は勝手に動く。雄の本能なのだろうか。 なんで、いやだと繰り返される言葉に返事をする余裕はなかった。きつい内壁に締め付けられてすぐにでも達しそうだった。動きを止めて深呼吸する。 暗い部屋でも視力のいい彼なら自分の顔が見えるかもしれないと思うと俯せにしておいてよかった気がした。 メガネをかけていても視力が彼より低いので興奮で歪んだ視界では顔が見えないと思うと少し寂しかった。 ジャージの隙間から見える骨の浮いたが震えている。汗で項に張り付いた伸びた襟足。埋められた性器から逃げようと力なくもがく腰。暗闇に浮かぶ姿に唾を飲みこむ。動きたい衝動を抑えて名前を呼んだ。 「みどうすじ、くん」 なんで、と同じ疑問がシーツに埋まった頭から聞こえる。 「なんで、って」 すきだと言葉にしてしまうのは簡単だ。恐らく間違いではないし行為の理由としては十分だ。合意の上ではなくとも好きという言葉一つで過ちを誤魔化すことができる。同じ意味での好意を持っていなくとも嫌われていない事は解っていた。 嫌われていたらふたりで出かけることも練習にでかけることも、まして家に泊まりにくることもない。無暗に他人を自分のスペースに入れない彼が許した。 許した理由が自分への好意ではない事が、縛ってまでこうするに至った原因なのかもしれないと思ったが声には出さなかった。 彼にとって自分はどこまでも無害な存在だった。レースにおいては別として、日常生活では危害を加える人間としてカテゴライズされなかった。事実、危害を加えたいとは思わなかったし、自転車から離れた弱い生き物を壊そうとも思わなかった。 数少ない、己の趣味に相槌を打ってくれる仲間で、わかりにくくはあるが他人に対してそれなりに優しい彼にもっと近づきたかった。 恋だと気付いたのは彼が自分を無害なだけの存在だと決めつけいると知った時だ。彼に好意を寄せている人間は自分以外にも存在し、そういった人間に対して彼は少なからず距離を置いて警戒していた。触れられることを嫌がり、会話も自転車以外の事は殆ど話さない。 ふたりきりの部屋で触れても、自転車に関係のない話をしても拒否されないことが初めは嬉しかった。意識されていないのだとわかるまでは。 告白をすればいいと思った。しかしそれは、彼が警戒する人間が想いを告げているのを聞いてしまった時に無駄だと知った。 自転車と勝利以外を必要としない彼は、相手が誰であっても決して受け入れないと言っていた。告白した相手は、それまで彼と信頼関係を築いていた男だった。想いを告げたあと、彼の口から男の名前を聞くことがなくなり、理解した。勝利のために全てを捨ててきた彼は、必要ないと判断すれば何でも捨てる。どんなに長く関係を築いてきた相手であってもだ。 恐らく自分も例外ではない。 傍にいられるのなら気持ちを隠してもいいなどとは思えなかった。どうしてもきみが好きだと伝えたかった。けれど離れたくはなかった。矛盾した想いを抱えたまま、眠る身体を拘束した。 「あ、やや、いや」 反応していない性器を掴んで擦り上げる。動きを止めて油断していた身体が泣きだした。やめてくれと叫ぶ声が耳に響く。 快感を与えなければ、と必死に手を動かした。行為を正当化するためではなく、想いを伝えた上で彼の傍にいるための手段が他に思いつかなかった。 彼は自身より弱い存在には意外に甘い。血のつながらない妹の存在を聞いた時納得したが、その位置にはなりたくなかった。 なりたくなかったが、利用する事にした。布団の上で泣きながら謝り、どうしても好きなのだと言えば拘束されたままでも彼は諦めてため息をつく。 ごめんねと繰り返すうちに空気が緩むのが解った。捨てられず、けれど想いを伝えて無害なだけの存在から脱する事に成功した。 もうええからこれ取って、と言う声に坂道は涙を拭わず、けれど微笑んでに頷いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |