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pdr
※もしものはなし(新御)


 過去に女性と交際していた時にはこうではなかったと記憶している。
 行為の最中に口から漏れるのは愛の言葉と相手の名前、あとは荒い息ばかりだった。
 彼を抱くときも、基本は変わっていない。御堂筋くん、と名を呼び、好きだよと繰り返す。
 見られることを嫌がり、両腕を交差して顔を隠す姿に苦笑した。
「ん、あっ…う、んん」
 唇を噛み、内側に精を吐かれる不快感に耐えているのがわかりますます興奮する。達せなかった性器に触れる。やめろと言葉だけで制止するが顔を隠す両腕は退かされなかった。
「は…っあ」
 小さく痙攣し、精を吐き出す体を見下ろして目を細める。
「時々、さ」
 体内に性器を埋め込んだまま喋り出す新開に顔を覆ったままの御堂筋が開いていた口を閉じた。薄い胸が上下し、呼吸を整えているようにも見える。
「おれか、御堂筋くんが女の子だったらって想像するんだ」
 性交の最中、新開はよく御堂筋に話しかけた。それ以外の時に彼に話しかけても大抵は相手にされないからだ。自転車に乗っている時には多かれ少なかれ走りに関わる言葉しか交わさない。降りてしまえば御堂筋は新開から興味をなくす。
 仮にも恋人に対してその態度はどうかと問い詰める事はない。彼のそういう部分も含めて新開は付き合うことを決めたのだ。
 恋人として交わしたい言葉は山ほどある。彼が逃げずに聞く場所はベッドの上だけだ。寝ている時でなく、押さえ付け、体を繋げているこの瞬間だけは逃げようがない。
「…そんなん考えるならオンナノコと付き合うたらええやろ…」
 返事をしない限り腰を掴む手と体内に埋められた物から解放されない事を覆えている御堂筋がぼそりと呟いた。
「そういう意味じゃなくてさ」
 掴んだ腰を、力を緩めずに撫でる。敏感になっている肌を無遠慮に触れられて小さな声が漏れた。
「もしも、の話。おれは、君が君だから好きだし、おれだからそうなったんだし」
「ほんなら、どっちかがオンナノコやったらこうはなってなかったやろ」
 正論を返され苦笑する。女性になればそれはもう新開ではなく、御堂筋ではない。
「たださぁ、もし御堂筋くんが女の子だったらって考えたらどんなかなって想像するのが楽しくて」
 悪趣味と吐き捨てて御堂筋は顔から手を放した。シーツに肘をつき、体を放そうと起き上がる。
「ぴっ」
 腰を掴みなおして身体を倒し、鎖骨に噛みついた。まだ会話は終わっていないという言葉の代わりだ。
 ごり、と骨に歯を当てて顔を見上げれば大きな目には涙が溜まっていた。
「…オンナノヒトかて、レースはあるわ」
 ようやく聞こえた返事に満足して歯型を舐める。痛みが消えた事に息を吐いて御堂筋は不機嫌な声で言った。
「オトコでもオンナでも変わらん。ボクはレースに出て、勝てればええ」
 彼らしい返事だと思った。男でも女でも、彼の生きる道は何も変わらない。
「そうじゃなくてさ」
 潜り込んだ体が動きたせいで反応した性器を軽く揺する。くぐもった声が漏れ、睨みあげられた。
「もっとさ、女の子だったら、胸がどれくらい大きかったか、とか女の子でも背は高かったかも、とかそいういう話」
 筋肉はあるが薄い胸を確かめるように撫でる。新開の大きな手に視線をうつして御堂筋は黙り込んだ。平らな胸を揉むような仕草を逞しい手首を掴んで止め、乗り上げてくる体に視線を滑らせる。顔も体も、まじまじと見つめられることはあまりない。大きな瞳に柄にもなく照れて笑うとキモイと吐き捨てられる。
「なぁ、今どんな想像した?」
 胸から離した手で頬を包んで額を合わせた。体が密着して綺麗な歯並びが結ばれる。内側を抉られて苦しいのは解ったがまだ逃がしたくない。
「おれが女だったら、て考えてくれた?」
 真っ黒でぱさぱさとした彼の髪と、ふわふわの癖毛が混ざる感触を楽しんで聞く。ひっくり返りそうになる声を抑えて包んだ頬の真ん中から返事が零れた。
「…肉付き、ええんやろな」
 吹き出し、声をあげて笑った。御堂筋の脳内でグラマラスな女性として描かれた自分に笑いが止まらない。
 ふわふわの癖毛と、熱い唇、大きな垂れ目は女性になれば男好きするのは想像に難くない。
 顔を離し、もう一度胸に手を置いた。彼が女性になったら、と想像する。
 きっと今と変わらず、自転車に全てを注いで、削れるだけ削る。男と違いデリケートな体は今より不自然に歪み生理不順を起こしているかもしれない。男以上に筋肉のつきにくい身体は一層貧相に違いない。大きな目は幾分女性らしい色気を孕むかもしれないが男性ホルモンが減って今でも少ないまつ毛は殆ど消えるだろう。体毛はなお薄くなり、手入れをしない肌と髪は荒れているに違いない。
「キミがオンナノコやったらやらしいカラダなんやろなぁ」
 盛り上がった胸筋を見つめていう目に、急に嫉妬がこみ上げた。彼の脳に、女性の裸体があるのかと思うと喉が焼けそうになる。
 無言で足を抱えて乱暴に動く。悲鳴をあげ、逃げる体を捕まえて唇を合わせた。
「きっ、みが、ふったんやろ」
 くだらないハナシを、と続いた言葉は唾液ごと飲みこんだ。勝手すぎると新開も自覚はあったが一度火がついてしまっては止められない。
「あっ、ふぁ…」
 腰を掴み、強引に背を反らしてやる。快感から逃げる人間は背を丸め、快感をより強く感じるには背を反らすのだとどこかで聞いた。御堂筋が行為の最中背を丸めようとするのを多く見るようになってその俗説を信じるようになった。
 受け入れるための身体ではないのに、強引に快感を教え込んだ。彼が女性であったならもっとすんなりいっただろう。相手の思考に妬いた自分を棚上げして、抱いている体が女性だったら、と新開は考えた。
 目を閉じていても鮮明に思い浮かべられるほど焼き付けた彼の身体を女性に変換する。
「ん…」
 動きを止めた新開に焦れた御堂筋が声をあげた。催促するのは癪だが放置されるのも耐え切れないらしく逞しい腰を挟んだ太腿に力が入る。
「駄目だ。萎える」
「ファ?」
 突然の言葉に御堂筋の口から不満を通り越して怒りに満ちた声が出た。
「なに、いっ、うぁっ?!」
 細い両手首を掴み強く引く。関節の柔らかい身体に遠慮せず足を大きく開かせ、強く密着した。
 言ってることと行動がめちゃくちゃだと、喘ぎ声に混じって訴える声が聞こえて新開は悪い、と早口に謝った。
 余裕をなくし、跳ねる体に喉が鳴る。柔らかな脂肪も、丸みもない歪な身体だ。それを犯しているという事実が何より興奮する。
「みどう、すじくん、がさ」
 またかと細められた目が険しくなった。ふふ、と笑って心持動きを緩慢し、快感に呑まれかけている御堂筋にも聞こえるようにゆっくり言う。
「男の子でよかった」

 話の内容は何でもいい。彼が自分と思考を共有してくれる時間があるだけで新開は心底満たされた。
 女の子だったら、などとありえない夢を呟いたのは自分が彼でなければ駄目なのだと再確認するためだったのかもしれない。理由をこじつけ、何物にも代えられない体を抱きつぶすために手首を引いた。

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