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※カウンターアイデンティティ(東御)
※注意※
東堂×御堂筋です
御堂筋君が脱皮する生き物です
同棲してます
京都弁でたらめです
































【カウンターアイデンティティ】

御堂筋翔は間違いなく人間である。あるが、どこで間違えたのか彼は脱皮をする生き物だった。自転車のために進化した結果なのだと聞き、寛容な世界はそれを受け入れていた。
 走っている最中の脱皮は比較的スムーズであり、脱ぎ捨てたそれもスピードに流されて消えていくのが常だったが部屋で行う時はひどく消耗しているように見えた。

「大丈夫か?」
 部屋の隅に蹲ってから2時間は経っている。微動だにしない姿に不安になって声をかけると小さくうめくような声がした。
「手伝った方がいいのならもう一度声を出してくれ」
 東堂の声に、蹲った御堂筋から声がもれることはなかった。いつもそうだ、と東堂は思う。どんなに苦しい時も彼は決して他人に助けを求めない。それは恋人である東堂に対してもなんら変わらない。恋人と言っても彼の走りと生きざまに惚れこんだ東堂が強引にその関係にこじつけただけであり御堂筋は少しも納得していないのだが。
 殆ど毎日自転車で外を走っているとは思えないほど白い肌が一層白くなり、じわじわと新しい皮膚から剥がれていく様は見ようによってはホラーだ。美しいと言った時、御堂筋は心底嫌な顔をしていた。膝を抱えて部屋の隅に寄りかかりじっと目を瞑っている姿を初めて見た時は具合が悪いのかと思った。脱皮をする準備なのだとあとになって知り、それ以降は邪魔をしないように離れた場所から様子を窺うようにしている。
 強引に関係を築いて強引に同居を始めたこの部屋では互いの領域を侵してはいけないというルールがある。東堂にとって必要のないルールは御堂筋のみに適用されており、自転車の置かれた部屋の彼の決めたスペースと彼が一人で眠るときに使う布団の上には東堂は入れない。したがって該当しない部屋の隅で蹲っている御堂筋に触れる事は禁止ではないのだ。
「…大丈夫か?」
 もう一度同じ質問を繰り返してタンクトップからのぞく肩に触れる。浮いた皮と粘膜が音を立てた。小さくうめく声がする。制止のようにも聞こえたが東堂は手を引かず丸まった背中に掌を滑らせた。古い皮膚の下には独特の粘りがある粘膜があり、新しい皮膚を保護しているようだった。古い皮膚の表面は渇き始めている。時間がかかりすぎたのだ。
 自転車に乗っていない御堂筋の体力は驚くほどに少ない。脱皮という現象を経験したことがないのでわからないがそれなりに体力が必要あるらしく、終わったあとはいつもぐったりとしている。途中で眠ってしまうこともよくある。それがよくないことだと知った日の事を東堂はよく覚えている。

 粘膜が渇きかけて古い皮膚が剥がれず、強引に剥したことで新しくできていた柔らかな皮膚がべりべりと剥がれた時には悲鳴をあげたものだ。御堂筋が痛みであげたのではなく、あまりにひどい光景に東堂が、だ。

 御堂筋が痛みに声をあげることはない。脱皮自体に痛みを伴うのかと聞いても返事はなかった。嫌がっているのはわかったが新しい皮膚が剥がれる惨状を再び目の当たりにするわけにもいかず東堂は丸まった背を抱きかかえるようにそっと腕を回した。
 骨の浮いている首の付け根を両手で軽く抑える。渇き始めた感触を確かめて、指に力をいれるとパリッと音がしてヒビが入った。ヒビの隙間からぬるりとした粘液が僅かに漏れる。まだ粘膜が渇ききっていないことに安堵して慎重に左右に指を離していく。粘液で滑る皮を焦らずゆっくりずらす。焦って手を速めれば新しい皮膚に傷がつくからだ。
「痛くないか?」
 返事はない。脚を抱えている体の胸と膝の隙間に手を差し入れて上体を僅かに起こし壁に着ける。俯いている時には閉じているように見えた瞳は薄く開いていた。目の周りに浮いた皮膚が渇いて入るのが気に入らないようで表情は変わらなくても不機嫌なことが分かった。
「もう少し我慢してくれ。」
 背中から肩、胸元、腹部の皮膚をゆっくり剥ぐ。自転車に乗っている時に行うようにはいかず少し剥いではちぎってを繰り返すので床の上に古い皮膚を積むことになる。服に隠された部分も、外側から引いて剥いでやる。床に密着した部分を剥ぐときは御堂筋が自分から腰を上げた。最後に顔からも古い皮膚を剥すと大きな瞳が一度ぱちりと開いてから閉じた。
「ん…」
 小さくもれた声は礼ではないが文句でもなく、ただ東堂が手を貸した事を納得したものだ。丸まっていた背中が伸ばされて壁に凭れかかる姿に苦笑した。
 洗面所と居間を蒸しタオルを手に往復し、粘液を綺麗に拭う。過敏になっている御堂筋が唇を噛んで震えているのを必死に意識の外に追い出す。
「すぐ夕飯だからな。寝るなよ。」
 返事はなかった。脱皮の後の彼はとても無口になる。体力を使い果たすせいもあるが新しい皮膚が固まるまでは僅かな空気の流れですら刺激になるからだ。数時間で治るその状態で動くことを御堂筋は極端に嫌がる。当然、触る事も許されない。
 床に積んだ皮膚を集めて立ち上がり、東堂はキッチンへ向かった。

 一度だけ強引に連れて行った病院で、脱皮をする事によって御堂筋の身体は確かに自転車選手として進化するのだが、同時に人間として必要な栄養源を急激に失うと聞いた。興味を持たない御堂筋に替わって東堂が聞いた解決策は脱皮した皮を食事として摂取するという物だった。当然御堂筋は嫌がったが東堂が試行錯誤して料理をするうちになんとか口に運ぶようになった。
 今日も、集めた皮膚をシンクに乗せ、手を洗いながらそれを見つめて味付けを考える。濃い味付けでなければ食べてくれないがあまり調味料を摂りすぎるのもよくないだろうと冷蔵庫の中身を思い出す。確か昨日作ったポテトサラダが残っていた筈だ。
 ポテトサラダを冷蔵庫から取り出し、そこに皮膚を半分ほど入れて塩を足す。渇いた皮膚はぱりぱりと音を立てて細かくなり、ジャガイモとうまく混ざった。量が多いので一日では消費できなそうだ、とジップロックに分けて冷凍庫に入れた。
 残りを細かく砕いてスープに入れる。お湯で煮込むと皮膚はほとんど溶けて消えた。厚い部分だけが残るが固くはないので簡単に噛みちぎれる。ほんの少し残しておいたそれを口に含む。薄く頼りない皮膚は東堂の口の中でじんわり溶けて消えた。
 洗ったあとなので汗のような生臭さはなく、奇妙な甘さが口に広がる。人間の皮膚としてはおかしな味だが初めて口にした時妙に納得したものだ。彼が甘さを捨てているのだ、と。

 居間の隅に座りっぱなしの彼の元へ戻ると閉じていた目がぼんやりと開いていた。
「食べれるか?」
 頷きもせず声も出さなかったが視線が一度床に落ちてから東堂の胸のあたりまで戻ったので肯定と受け取ってサラダとスープを小さな皿に盛って運んだ。
「ゆっくりでいい。」
 薄く開いた口に少量ずつサラダとスープを交互に含ませてやる。喉が上下するのを確認して同じ動作を皿が空になるまで繰り返した。
 脱皮直後の食事の量も気を付けなければいけない。食べさせすぎると御堂筋はすぐに戻してしまう。どの程度まで大丈夫なのか把握するまでに勘のいい東堂でもかなり時間を要した。大きな体に見合わず御堂筋の食事の量は少なかった。レースの調整に入れば自身で完璧に計算して過不足なく摂取するくせにシーズンが終われば別人にでもなったかのように不摂生な生活を送る。
「よし。よく食べたな。もう寝よう。」
 空になった皿を洗ってから声をかけると御堂筋がのろのろと立ち上がって洗面所に向かった。どんなに疲弊していても歯磨きだけは絶対にするのが彼だった。一日くらい、と言って怒らせた時は3日口をきいてもらえなかった。それ以来好きにさせている。
 普段の倍以上の時間をかけて歯を磨く御堂筋の横で歯を磨き、顔を洗う。帰宅直後にシャワーを浴びたので風呂に入る必要はない。御堂筋に至っては皮ごと脱いだのだからむしろ石鹸などつけない方が清潔だ。
 歯磨きを終えた御堂筋がふらふらと寝室に向かう。元々自転車から降りると途端にバランス感覚を失ったかのような歩行になるが脱皮のあとは壁にぶつかる事もしょっちゅうだった。
「…なんやの」
 掠れた声で御堂筋が言った。掴まれた腕に眉を顰めているところを見るとまだ肌が通常に戻っていないようだ。
「今日、は冷えるから。」
 それ以上言葉にせず、寝室にある大きめのベッドに向かった。自転車から離れている御堂筋は極端に人との接触を嫌う。広いベッドに二人で眠った事は数えるほどしかない。布団を干した直後にゲリラ豪雨に見舞われた日から2日と、東堂が御堂筋にゲームで勝った時くらいだ。知りながらも動きの鈍い身体をベッドに押し倒してぎゅうと抱きしめる。細い身体の喉からつぶれたような悲鳴が漏れた。
 親からはぐれた動物が必死に鳴いている声に似ている、と東堂は思った。


 一緒に暮らし始めて、初めて肌を重ねたのは半年経ってからだった。抱きたいと伝えても相手にせず、接触を嫌がる癖に無防備すぎる御堂筋に我慢しきれなくなった東堂が強引に事に及んだ。
 誰かが自分に欲情すると微塵も信じていなかったらしい彼は初夜の翌日も夢だったのではと中々事実を受け入れなかった。

「ふ、」
 先程より掠れてはいないが普段より頼りない声が漏れる。古い皮膚を脱いだばかりの身体はやわらかくとても暖かい。
「みどうすじ…」
 首筋に顔を埋めた。綺麗に拭いたが粘膜の甘い匂いは石鹸で落とさなければ残っている。唇で触れ、舌でなぞる。震える身体には抵抗するだけの力も気力も残っていない。押さえつける必要もなく、無遠慮にやわらかな肌を撫でまわした。反射で小さく跳ねる身体から非難めいた声が出ていたが甘い香りにあてられた東堂の耳には届かない。
 脱皮を終えた後の御堂筋の身体は表面だけではなく内側まですべて柔らかくなっている。慣らさずとも挿入できるほどだが矢張り大切な相手の身体だ。十分に温めたローションを垂らして太腿に唇を寄せてから指で十分に慣らす。
「んっ…んぅ」
 抵抗をあきらめた御堂筋が顔を背けて枕に顔を押し付け、布の刺激に耐え切れず頭を振った。小さく笑いを漏らして身体に布が触れにくいようにと自分より十センチ以上背の高い体を抱き起す。
 壁に寄りかかるように位置を変え、向い合せに御堂筋の身体を抱きかかえた。背中を丸めているから高い身長も気にならない。
「ふぁ、あ」
 内側を抉られる感触に御堂筋が声をもらす。不安定なバランスに怯えた細い身体が抱きついてくる事に目を細めて熱い内部を堪能するように腰を揺らした。
 「ピ、ギッ…」
 普段の何倍も敏感になっている肌に触れられ、内側を擦られてなすすべもなく元凶である東堂に抱きつくしかない事に屈辱を感じている事を聡い男は察していた。それがますます東堂を興奮させている事も知らずに御堂筋は僅かに残った体力で「キモい」と繰り返す。爪を立てようとするも柔らかくなった指先は爪が痛むのかすぐにしがみつくだけに戻り、東堂の口元は笑みの形に歪んだ。
「みどう、すじ」
 激しくは動かずゆっくり揺する。それだけで十分追い詰められるし、追い詰められた彼を見るだけで東堂も十分快感を得られた。
「はっ、あ、ぅあ…っ」
 嫌だ、と首を振る仕草が腰にクる。
「御堂筋…」
 しがみつく体を優しく剥してだらしなく垂れていた舌に唇を寄せて軽く歯を立てる。脱皮のあとの舌はつるりとしていてとても同じ生き物とは思えない感触がした。
「ん、ふ、ぐっ…」
 夢中になって舌を味わっているうちに頬を濡らす体液が唾液だけでない事に気付いた。大きな瞳から生理的な涙がぼろぼろと落ちて御堂筋だけでなく東堂の頬まで濡らしている。
「うぁ、あっ…や、やぁあ!」
 涙で潤んだ目に耐え切れなくなって腰を掴んでシーツに押し倒した。強すぎる刺激に悲鳴が上がるが止めることができなかった。


 ぐっすりと眠る御堂筋の頬に触れた。つるりとした皮膚は毛穴がないと思うほど滑らかだ。脱皮の後は特にそうだ。
 自転車に乗る回数が夏に比べて減るこの季節は部屋での脱皮が増える。そのたびに組み敷きたい衝動を抑えているのだが大体はうまくいかない。消耗し疲弊した顔を見るたびに深い後悔に襲われるのだがどうしてもやめることはできなかった。
 その理由を、御堂筋は理解しない。しようともしなかった。
 どれだけ伝えても、御堂筋は東堂の想いを理解しない。それと同じだった。刺激をすれば反応する身体を持っているにも関わらず、気持ちの方は全く反応がない。きっと、だからだろう、と東堂は自分勝手に納得した。御堂筋が心底嫌がる柔らかな肌を強引に暴きたくなるのは不感症な心のせいなのだ。
 本人に告げれば人のせいにするなと吐き捨てられるだろう。これはただ勝利のための進化の過程なのだ、と。もちろん解っている。
少し伸びた髪を耳にかけてやり、頬にキスをした。
「わかってる」
勝利の為だけ生きている歪な生き物を愛している。彼を傷付けるつもりも、穢すつもりもない。ただ愛したいだけなのだ。言い訳をして、東堂はもう一度滑らかな頬に唇を寄せた。






                      終




あとがき

お手に取ってくださりありがとうございます。
東御で片思いティストな話が書きたいけどネタがまとまらない!と思ってるうちに御堂筋君といえば脱皮だよな…と思ってなんだかまたファンタジーな話になってしましました。
東御の小説本は三冊目ですがどれも現実味のない感じばかりです。
次回があれば次回は神様パロとか妖怪パロとか書きたいです。


2014.04.27



イベントで無配したものです

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