pdr 迷子/和の文字パレット(東御) 和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/505144195518971905/photo/1)使用させていただきました。 東御 6.丹色/薫風/空回る ※不思議系 ※狐パロ 東堂がその道に入ったのは偶然だった。小学校の修学旅行には制約が多く自由時間も多くない。集合時間までのわずかな間に珍しい場所がないものかとうろついた先にその細道はあった。勘のいい事を自負している東堂は知らない道でも迷うことはないだろうと結論付け、見知らぬ土地の路地裏に足を踏み入れた。 何度か角を曲がるうちに京都と呼ぶにふさわしい裏道に出た。竹林が茂り、遠目に橙の鳥居が見える。不思議な事にどれだけ歩いても鳥居までの道のりがわからない。直線に見える石畳はしかし、ゆるやかなカーブを描いているようで知らず鳥居から遠ざかっているような気さえしてくる。 初夏の日暮れは遅い筈なのに、鳥居の色に近付いてきた空に東堂は首を傾げた。時計に目をやるが裏道に入った時間から5分と経っていなかった。狐狸の仕業、と昔祖母が言った事を思い出す。幼い頃、祖母に寝物語を姉と共にねだった時、狐狸に化かされた話をよくしてくれた。不思議な生き物の話に東堂も胸が弾んだことを覚えている。 振り向けば帰り道は見える。けれど遠くに見える鳥居がどうしても気になり前に進んでしまう。夕焼け色に染まった周囲に怯えて東堂が引き返す姿を彼らは楽しみにしてるのだろうか。 はて、祖母の話ではどうすることが正解だったろうかと東堂は一度足を止めた。恐ろしい物が向かってくる場合は恐れず進め、道に迷った時はひたすらにまっすぐ進めと教わったがこの場合の対処は聞いた覚えがない。進んでもたどり着かぬ場所が見えていて、後ろにはすぐに帰れる道がある。 横道はないだろうかと見回すと視界の隅で何かが逃げた。竹林の陰に怯えるように隠れたそれは予想の通りの、否予想以上に小さな狐の尻尾だった。 まだ子狐かと化かし方の稚拙さに納得し、怯えさせぬように身を屈めて呼びかける。 「あの場所にはどうしたら行ける?」 びくりと尻尾が揺れた。けれど逃げる気配はない。言葉がわかるかどうかは半分賭けだったが、恐る恐る出された顔は言葉を理解しているように見えた。 「…いけへん」 震えた小さな声は化かすための物ではなかった。瞬時に東堂は空間の意味を理解した。 あの鳥居は、恐らくこの子狐が守りたい何かなのだ。東堂は偶々そこに通じる道に迷い込み、稚拙な術しか使えぬ子狐がこうして東堂を迷わせたに違いない。だから帰る道はあっさりわかるのだろう。 怯えた子狐の瞳は真っ黒だった。紫の甚平から伸びる素足は瞳と対照的に真っ白だ。短い髪は黒く、そこから伸びる耳も尻尾同様に一目で狐とわかる。 「悪いことをしたな」 え、と小さな口が開いた。 「お前の大切なものを踏み荒らすつもりはなかった。すぐに帰るから許してくれ」 小さな口から覗く白い歯は、作り物のように綺麗に並んでいた。 「そうだ。これをやろう」 ポケットに入れてあった飴を取り出し差し出すが、警戒してるのか小さな子供は竹林の奥から出てこようとしなかった。 「ここに置いておくから」 石畳の上に、透明な袋に入った飴玉を置く。元来た道を見ればやはりすぐに覚えのある看板が見えた。逆方向に見える鳥居が名残惜しくもあるが、不安げな子狐の瞳には勝てそうにない。 元来た道に足を向けた瞬間、背後から強い風が吹いた。夏の葉の香る爽やかな風だ。あまりの突風に目を閉じ、開いた時には竹林は綺麗に消えていた。 結局飴玉は受け取ってくれなかったな。と乱れた髪を整えて東堂は笑った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |