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※捕華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです





22萌葱色/柘榴/殴りあう

 チカリ、と視界に星が舞う。歯も折れなければ口の中も切れていないが頬に走る熱に似た痛みで何が怒ったのか理解する。先程まで目の前にいたはずの恋人はいない。壁が見える。正面から真横に顔が向いた理由はひとつ。
「…なってないな」
「はァあ?」
 笑いを含んだ新開の言葉に、ひっくり返り怒りに満ちた声が重なる。
「殴り方」
 体重の掛け方も踏込も手の握り方も。喧嘩慣れしていないのが簡単に解る。握った拳が震えていた。かわいそうなほど怒りに満ちた瞳に睨まれて背中に快感が走った。
 絶対に触れてはいけない場所に触れた。どんな感情でもいいから、自分に向けてほしいという願いを叶えるために。
「こうするんだよ」
 怒りで鈍った御堂筋は新開の腕を防げなかった。彼が大事にしている歯は傷付けない。力いっぱい肩を掴み、逆の手で作った拳を鳩尾に叩き込んだ。
「か、はっ―」
 呼吸がつまり声も出せず薄い身体が床に崩れる。痙攣する姿に目を細めた。
「ねぇ御堂筋くん。先に手を出したのはそっちだぜ。これって正当防衛っていうんだろ」
 膝をつき、荒い息とともに唾液を吐く顔を覗き込む。焦点の合っていない目にがっかりした。もっと睨んで、恨んでほしい。まだ足りない。
 掠れた息が漏れる口がぱくぱくと動く。間違いなく「かえせ」と必死に叫んでいた。御堂筋翔が彼であるために手放せない唯一を新開は隠した。触れてはいけないデリケートな部分。でも足りない。彼が自分に向ける感情は、自分が彼に向けているものと比べるとあまりに希薄だ。
 腹部を抑えて横ばいになっている体を仰向けにし、力が入らないうちに下着ごとズボンを剥ぎ取って放り投げる。
「バイクには傷一つ付けてないし、返せば元通りだけどさ」
 徐々に呼吸が整った顔が新開の言葉に眉をひそめた。
「乗れなくなったら、キミはオレのこともっと嫌いになってくれるだろ」
 暴力を振られると予感したのか一瞬強張った足が咄嗟に新開の肩を蹴る。何も身に着けていないと気付いたのは新開が骨ばった足首を掴んでからだ。
「い―」
「だって他に思いつかないんだ」
 掴んだ足首を引き寄せ、くるぶしに唇を寄せた。暴れるので手加減せずに足首を握る。ぎちりと嫌な音がして、痛みに悲鳴が上がった。
「こっちを見てくれる方法」
 がむしゃらに暴れる長い手足は喧嘩慣れしていなければ組み敷かれた記憶も対処も持たない。もとよりそのつもりで押さえつけている新開にとって、赤子の手を捻るようなものという言葉がしっくりときた。目の前に見えるのはそんな可愛らしい生き物ではなかったが。

「ぁ、あ、ぁ」
「ほら、わかる?」
 筋張った見た目からは想像できないほど柔らかな関節と筋肉は新開の望む姿勢を容易に叶える。そらそうとする顎を掴み、乱暴に下肢に向ける。見たくない箇所が視界に入り、大きな瞳が見開かれてから強く閉じた。
「ふ、ちゃんと見て」
 締め付けられる快感にすぐにでも射精しそうになるが唇を噛んで耐え、顎から放した手で柔らかな頬を叩いた。乾いた音の後に、悲痛な泣き声が響く。
「うっ、ぅ…ぃ、やや」
 見なければ痛みを与えられると覚えた目が、泣きながら結合部に視線を向けた。ぞくぞくと背中に快感が走る。少しも反応していない御堂筋の身体も、嫌悪と恐怖にまみれた真っ黒な瞳も、全て求めたままに新開に向いている。
「−、んぅ、ぁ」
 僅かに混ざった甘い音に唇が歪んだ。
「きもち、いい?」
 よくないと僅かに首が振れれる。けれど腰を動かして刺激してやれば細い首を逸らして獣じみた喘ぎ声を漏らした。
「これをさ、本当に気持ちよくなるまですると、のれなくなるんだって」
 ゆっくりと言葉をかみしめて言い、それから耳元に口を寄せて更にゆっくりと「じてんしゃ」と呟く。
 言葉の意味を理解し暴れはじめる前に、もう一度頬に痛みを与えた。痛みに怯え、快感を嫌悪する瞳の中には確かに新開に対する憎しみがある。
 今だけは自分を見てくれている。決して自分に向けられない筈の視線。どんな感情であっても構わないから振り向いてほしいと願ったもの。
 まるで足の先から彼を食んでいくようだと感動した。どんな料理よりも満腹感を覚え、味に感動する。この方法があってよかった、もし他にないのなら比喩でなく本当に御堂筋翔を胃におさめなければ気が済まなかった。
 抵抗を無意味と悟った身体は諦めて嵐が過ぎ去るのを待つ。力を抜いた身体に優しく微笑んで、なにもわかっていないねと心の中で語りかけた。終われば逃げられると信じている愚かでかわいい子供を逃がさないために新開は彼の大事なものを奪った。新開を殺せば二度と戻らず、御堂筋が逃げても戻らない。
「ちゃんと、こっち見て」
 うつろになった目に、一度は消えた苛立ちを覚えた。まだ痛みを強く感じているであろう身体は新開の言った自転車に乗れなくなる意味を理解していない。解る頃には例え自転車を返されても元のようには走れない。
 はやく、と新開は願う。はやく彼が絶望して同じ所まで落ちてきてくれますように。

2015/11/20

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