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pdr
※▼壊華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです






19潤色/猫柳/惹かれあう
 
 雪が降り出しそうな空だ。天窓から見える雲の色に新開は息を吐く。ため息に近い息は室内なので白くはない。一歩外に出れは吐く息は白く、新開の嫌いな冷気に体が包まれるに違いない。暦の上では春だと言うのに気温はちっとも上がらない。
「御堂筋くん」
 真っ黒な瞳がぼんやりと宙を見つめている。
「明日の朝も冷えそうだよ」
 繋がった箇所から卑猥な音が響くが、力なくシーツに横たわる御堂筋は眉ひとつ動かさなかった。嬌声もうめき声も上げなくなったのはいつからだったろうと性交で上がった体温のまま考えるが熱に浮かされた思考は鈍く、壁にかけられたカレンダーを見ても思い出せない。白い壁にかけられたカレンダーから小さな体に視線を戻す。自由を切り落とされて新開の手がなければベッドから降りることもできない愛しい体。
 いとしい顔を見つめながら見たばかりのカレンダーの文字に違和感を覚える。買い物で出た街は確かに凍えるような寒さで、けれど春先を告げる植物を見た。カレンダーに記された月はそれに合わない。捲り忘れたのだろうか。
 表情も顔色も変化はないが、生理的な反射で埋められた性器を締め上げられた。快感に小さく声を漏らし、シーツに沈んでいた身体に腕を回して力を込める。耐えずに内側に吐き出し、抱きしめたまま体を起こす。暴れることもなく、繋がった箇所から下の重みもない。決して抱きしめ返されない寂しさはあるがそうする以外の選択肢はとうに消えていたので後悔はなかった。
「軽いね」
 道すがら見かけた植物を思い出す。名前に動物を含む植物だと初めて知った時、その形状に覚えた恐怖を誰も理解してくれなかった。まるで可愛い生き物の一部を切り取ったように見えたのだと誰に訴えても共感は得られず、幼いながらに新開は自身の感性を恥じた。
 膝の上に抱いた御堂筋からは呼吸しか聞こえない。かつてのギラついた生命力も恐ろしさも消えている。それだけではなく、新開を押し退けていた腕も新開から逃げようとした脚も。不幸な事故だった。誰もが彼を憐み同情し、慰めの言葉を口にした。
 新開だけが一人、虚ろな顔をした御堂筋に良かったね、と告げた。もう君の呪いは解けたのだと。返事は、その日からない。
 家族に迷惑をかけたくない御堂筋は、ただ一人祝福の言葉を吐いた新開の申し出を受け入れた。何故とは聞かなかった。心底嬉しそうな顔で俺と住もうと話す男から逃げる術を思いつかなかったのかもしれない。新開にとって御堂筋を襲った喪失はこのうえなく幸運な出来事だった。誤魔化すことも逃げられることもなくなった想い人を前にして嬉しそうな顔をしないわけがない。只々微笑む新開に、御堂筋は確かに綺麗だと呟いた。
 新開の思考は幼い頃と変わらず誰にも理解されなかったが寂しさは感じなかった。寂しさも、悲しさも感じず、幸福だけで胸が満ちる。空調の整った部屋では寒さも暑さも感じず、悲しみも怒りもない。時間の流れすら消えている気がする。確かなのは逃げることのなくなった御堂筋翔を抱いている事実だけだ。
 カレンダーの日付が狂っているのか、あるいは自身が壊れたのか新開にはどうでもよく思えた。

2015/11/19


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