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pdr
※耐華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです






16珊瑚色/都忘れ/待ちあう

 新開隼人は待っている。
「御堂筋くん」
 枕に押し付けられた顔はどんな表情をしているのかわからない。首筋から耳に血が集まり、白い肌がぼんやりと染まっているので羞恥と快感に追い詰められているのは解るがそれだけだ。
 掴んだ腰だけを上げた姿勢は苦しいだろうと知っていながら既に一時間近く強いている。埋め込んだ性器は何度か限界を迎えていたが萎える気配はなく、俯せた身体は少し前から追い上げられた状態で震え続けていた。
 後ろで得る快感は前のそれとは違いスイッチが入ってしまえば終わりが見えなくなり気が狂いそうになるのだと俗っぽい記事で読んだ記憶がある。なるほど確かに組み敷くたびに怯えて逃げる彼は行為の最中に自我をなくして悶えるようになっていると新開は納得した。どこまでも自身の心身を制御したがる男は我を失う快感から逃げようとする。逃げられれば追いたくなるのは生き物の本能で、同時にあの夏に見た背中が脳裏に蘇って手放せなくなっていた。
「御堂筋くん」
 ゆっくりと名前を呼んで腰を動かす。さすがに気だるさを感じてはいたが、小さく跳ねる腰や震える太腿を見つめると幸福で胸が満ちた。
 一度覚えた快感を忘れるのは難しい。あとは注意深く見つめ続けて彼が受け入れる瞬間を待つだけだ。好意に好意を返されなくても、新開の言葉に小さく頷いてくれるだけでいい。そのたった一瞬を、新開は待っている。好きだと告げて交際を始めてから、恋人である彼にも言わない小さな秘密だ。

 御堂筋翔は待っている。
 行為が終わったのは深夜だった。何時なのかは解らず、確かめる気力もない。風呂に釣れていかれて体を清められたのは覚えているが浴槽の中で彼が楽しげに話していた内容は頭に入らなかった。というより眠気で聞こえなかった。
 ベッドに戻り、替えられたシーツに沈んで目を閉じる。すぐにでも意識を手放したかったがキッチンに向かった新開の足音に僅かに覚醒してしまう。肌に感じるシーツの感触と、水道の音に思考がぐるぐるとまわる。
 新開が御堂筋に告白をしてから今日に至るまでの長い間、一度として期待される言葉は厚い唇から出なかった。代わりに出てくるのは御堂筋が嫌悪する甘ったるい愛の言葉だ。薄っぺらく、軽く、厭な香りのする言葉。認めた記憶もないのにベッドに引きずり込まれて拒否し続けている行為を繰り返され、すっかり慣れてしまった体に吐き気を覚えながら終わるまで耐える。
 顔を見られたくないと言えばわかったと微笑んで俯せることを許す癖に行為そのものを止めるといういう選択肢はなかった。
 水道の音に続いて食器、鍋かもしれないが半分眠りに落ちている頭にはわからない音が聞こえた。これから調理をするのだろうかと言う彼の食欲に対する呆れを感じ、しかし自分にはわからないだけでもう明け方なのかもしれないとも思った。
 指ひとつ動かせない疲労の中で、耳元に新開の声が蘇る。今すぐ耳を塞ぎたかったが腕は上がらない。吹き込まれる声は教え込まれた悪寒に似た何かを呼び覚まし、御堂筋から自由を奪う。
 早く、そう願って御堂筋は閉じた瞼に力を込める。早く彼が目を覚ましますように。男女問わずに好かれ、どんな相手でも選び放題の男が戯れに始めた遊び。御堂筋にとって新開の交際の申し出はそれ以外の何物でもない。遊びであり、勘違いだ。目を覚まし、飽きて別れようと告げられるのを耳をふさぎ目を閉じてセックスと同じように耐えている。
 熱のこもった美しい目が相応しい相手に向けられる日が来るのはそう遠くないと信じていた。好きだと言われて交際を始めてから、名目上恋人である彼に対する秘密だ。
 もう少し耐えればきっと、と枕に押し付けた口で小さく繰り返している事を新開は知らない



2015/11/15

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