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pdr
※揺華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです



11伽羅色/秋桜/なぐさめあう

 声を上げて泣く姿はまるで幼い子供だ。実際、行為の最中に御堂筋の精神状態が幼児のそれになる事はままあった。
「ふ、うぇ、やや、や」
 快感が強ければ強いほど御堂筋は泣きじゃくる。身体を繋いだ当初は痛みに怒声を飛ばしていたが涙を流すことは殆どなかった。慣れるにつれて痛みが減り、代わりに増えたのは怯えた瞳と涙だった。
「泣きたいのはこっちなんだけどなぁ」
 好きだと告げて抱きしめてキスをし、体を交わらせる。幸福に満ちたはずのベッドの中で、恋人である少年は怯えた子供の顔で泣く。骨ばった指に自分のそれを絡め、ぎゅうと握る。新開と同じだけ陽に当たっている肌は、並べてみれば奇妙なほど色の差があった。御堂筋の不健康な肌に比べると、自分の肌はまるで日本人以外の人種に見えた。焦げた色だ。
 指を絡めた手を引いて重ねていた身体を起こす。強く握りすぎた指のせいで骨が痛む。けれど同じ痛みを感じている筈の御堂筋はどこか安心していた。
 レースの最中、体に痛みを覚えるほど御堂筋は悦んでいる。本人は否定するが新開は見逃さなかった。勝つために何かしていると実感できるのだろう。痛みを伴う必要などないとどれだけ新開が説いても御堂筋は受け入れない。そもそも新開の仮定を認めていない。痛みで悦ぶなど変態ではないかと言う。なにが違うのだと常に喉まで出かかって新開は口をつぐむ。自転車への妄執は変態的と呼んで違いない。
「ぁ、あ」
 指を絡めたまま起こした体が震えて止まっていた涙が溢れだす。口から漏れる声は舌たらずになっていた。ぐらりと揺れる身体は自転車に乗っている時の安定感は微塵もなく茎の細い草花を彷彿とさせる。花弁の薄い中心からぼろりと零れたのはけれど蜜ではなく血液から色素を抜いた体液だ。
「泣かないでくれよ」
 限界が近付き、新開も眉を下げて肩を震わせる。指を解いて泣きぬれた頬に触れてから薄い身体を抱きしめた。
「ふ、ぁあ、あ」
「、御堂筋く、ん?」
 怯えて震えていた手が一瞬彷徨ってから新開の首に回された。行為の最中一度も御堂筋から新開に触れた事はない。初めての接触に動揺し、昂ぶっていた身体が緩む。
 荒い息を整えながら、御堂筋の薄い掌が新開の髪に触れた。ゆっくりと上下する感触に泣きじゃくる子供が何をしたいのか理解した途端に目を見開く。
「ーっ」
 泣きたいのはこっちのほうだと熱のこもった声で確かに吐いた。嘘は一つもなかったが、実際に泣いた事は一度もなかった。
 骨ばった肩に落ちた体液が汗ではなく自身の涙だと理解するのに数十秒かかり、耳元で泣きじゃくる声が寝息に変わっているのにその倍かかった。 
 泣き疲れて眠るなどまさに子供だ。すっかり毒気を抜かれた新開は頬を伝う涙を汗にまみれた肩で拭って苦笑する。
「起きてくれよ、まだ終わってない」
 密着した体を引き剥がして押し倒したい衝動と、初めて回された腕を解きたくない名残惜しさの間で複雑な感情が揺れた。背中に回していた腕をゆっくりと上げ、御堂筋がしたように髪を撫でる。穏やかな寝息に小さく、けれど確かに安堵の息が混ざった。
 
2015/11/07

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