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※贖華/和の文字パレット弐(新御)


和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです



10山鳩色/福寿草/寄せあう
 
 初めてその植物の名を知った時、仲間の事を思い出した。
 次にその花言葉を知って、愛しい恋人の事を思い描いた。愛しい恋人、愛しいと、思いたい恋人だ。
 思い浮かべた仲間に、かつて相談したことがある。自分は本当に恋人を愛しているのか解らない。愛したいと確かにそう思ってはいるが、彼が嫌がる行為を強いているのだと。色恋に疎い仲間は少しの間考えてから新開の望む言葉をくれた。望む言葉をくれると、知っていて相談を持ちかけたのだから当然だ。
 仲間を彷彿とさせる植物は。彼と同じ色をしていた。

「寿一がさ、本当に好きでもない相手とはセックスできないって言ったんだ」
 何度目になるか解らない行為の中で、上がった息を整えもしないで言う。御堂筋の身体はすっかり力が抜け、新開の声に返事をする余裕もない。
「御堂筋くんもそう思うだろ」
 薄い唇は確かに否定の言葉を吐いているが音として漏れるのはひっくり返った喘ぎ声だけだ。シーツに沈んだ体も抵抗を忘れて反射で跳ねて震え、結合部から濡れた音が聞こえていた。
「好きでなければこんなこと、できないもんな」
 うっとりと吐き出した声は自分でも目眩がするほど甘かった。愛しい相手を抱いているのだ。甘い声が出るのも当然だ。痙攣しっぱなしの薄い身体に目を細める。未だに萎えない性器が彼の内臓を抉っていると思うと暫くは興奮が冷めそうにない。
「なぁ、好きだよ」
 開いた目は普段のような真っ黒さはなく、薄く白んでいた。新開にそう見えただけなのかもしれない。
 力なくそらされた喉に唇を当てる。熱のこもった息を吐けば内側がきゅうと締まった。
「みどうすじくん」
 好きだと告げても、御堂筋は信じない。信じるわけがないことを、愛を口にしながら新開も知っている。
 厳粛で公正な精神を持っていると信じて疑わなかった友であり仲間に裏切られた日を新開はよく覚えている。自身もかつて競技を裏切り汚してた新開にはそれを責めることができなかった。
「すきだよ」
 見ていて不安になるほど細長い手足は昆虫のようだと、シーツに縫い付けるたびに感じる。少しも欲情する要素はない。ないはずなのに、彼に触れる時はどんな女性を前にした時よりも感情が高ぶった。
 失った高潔さを彼が持っている。二度と手に入らないうつくしい宝物だ。羨望と敬意と恐怖が入り混じり、いつしか汚して落とそうと夢中になっていた。認めたくない醜い感情を、新開は愛情だと偽る事で誤魔化した。相談を持ちかけられた仲間も恐らくは気付いていただろう。同じ罪を持った男は、新開の醜さを共に愛情で覆って逃げた。
 内側に吐き出される熱に、意識のないまま薄い腰が震える。理不尽に振るわれる暴力的な行為から逃げる術を御堂筋は持っていなかった。
「なぁ御堂筋くん」
 微笑んだつもりだったが、新開の顔は情けなく歪んでいた。
 すきだよ、と縋るように呟いた声は幾度目かの御堂筋の悲鳴にかき消された。

2015/11/06

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