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pdr
※葬華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです




9煤竹色/小手毬/いがみあう

 寝起きの恋人が普段以上に鈍いのは十分に解っている。解っているから新開は寝起きに彼を乱暴に扱わない。殆どの場合は、だ。
「―いっ」
 自身の寝床から引きずり起こされ、普段は足を踏み入れない新開の寝室に放り込まれた御堂筋が受け身もとれずに床に転がった。顔を上げて睨まれるより早く乗り上げてパジャマ代わりに着ているワイシャツを力任せに開く。小さなボタンが床に転がった。
「なに、すん」
「うるさい」
 眠気から覚めきっていない声と頭で、必死に新開を罵る言葉を大きな口から零れる。普段の饒舌で気の利いた罵声からは考えられないほど稚拙な言葉の波に思わず唇が歪んだ。
「御堂筋くんってさぁ」
 楽しげな、しかし低い声に組み敷いた身体が強張って黙り込む。二人で暮らしている中で、御堂筋の口から発せられる声は不機嫌なものばかりだ。引き換え新開の口から出るのは飄々とした、或いは上機嫌な声が多い。低い声が出る時がいつなのか覚えている体は本人の意思と無関係に震えだした。
「わざとなの?」
「なに、が」
「なにが?」
 スポンサーやチームメイトとの集まりに、本人は参加を渋っていた。大人なのだからと背を押され出たそこで、花束を渡されて素直に持ち帰ってきた。小さな花が集まり作られた球状の形は愛らしく、けれど渡した相手を彷彿とさせる名前に新開は苛立った。花言葉が友情であると知っていても、渡した男が御堂筋を見る視線にそれ以外の感情があるとも知っている。
 帰宅してすぐに居間のテーブルに乗った花束を見つけて捨てた。ゴミ箱にではなく、ベランダに置かれたプランターの土に埋めた。そうすることで彼に向けられた想いを埋葬した気になれた。
 無言で見下ろす新開の目から逃れようと身をよじる肩を押さえつけ、未だ笑みを湛えた唇から言葉を紡いだ。
「人の事馬鹿にするの得意だよな。」
 言っている意味がわからない、と大きな瞳が訝しげに新開を見上げる。キミのほうこそ人を馬鹿にして、と先よりは目の覚めた、しかし常に比べればずっと語彙のない反論が返ってきた。
「そうやってわからないフリしてれば飽きると思ってるんだろ?」
 ズボンと下着を引きずりおろして縮こまった性器に触れる。びくりと跳ねた身体は今度こそ自覚を持って震えはじめた。
「本当にわからないってんなら、おめさん相当な腑抜けだぜ」
 実際のところ御堂筋は恐らくわかっていない。反応の鈍い個所をきつく掴んで悲鳴を聞きながら新開は笑った。人から向けられる感情を、御堂筋は受け入れない。わからないのではなく信じない。相手が誰でも同じで、恋人と言う肩書を手に入れた新開ですら御堂筋の視界に入った事はない。
「い、た」
 抵抗をするには薄すぎる掌が新開を押し返す。強く閉じた目には涙が浮かんでいた。震える体、熱い胸板に沿えるように当てられた掌、痛みに耐える歪んだ顔。こみあげる笑みが抑えきれない。
 無反応な器官を無遠慮に握る。ひきつった悲鳴に、新開はついに声を出して笑った。

2015/11/05

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あきゅろす。
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