[携帯モード] [URL送信]

pdr
※視華/和の文字パレット弐(新御)

和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです





23狐色/姫こぶし/言いあう

 はじめは、狐狸に化かされたのだと思った。道の上での彼とそれ以外の姿があまりに違いすぎた。二重人格と言われれば納得できるほどの豹変ぶりで、新開はそれが好きでもあり嫌いでもあった。
 御堂筋が大学に入って二年目の春、新開は彼の部屋に転がり込んだ。自転車での移動を主とする御堂筋のアパートは家賃の割に広く、成人男性が一人増えたところで問題はなかった。
 人間が二人で生活をする。二人の間には少なからず摩擦が産まれて揉める事もあるだろうと暮らし始めた頃新開は不安と共に期待をしていた。初めて出会った御堂筋の口上や挑発を日常で聞く事になるのかと。不安と、僅かな期待は同じ部屋に住んで一週間で消えた。
 部屋の中で、御堂筋はとことん新開を無視した。無視という言葉では生ぬるく、まるで空気以下であるかのように振舞った。話しかけても返事をせず、家事も完全に自分一人の分のみを一人でこなしていた。存在を認識して欲しくなって御堂筋の私物を隠してみても何の反応もなかった。
「普通、自分の物を隠されたら怒るものだろ」
 その日も御堂筋の靴を全て自分の鞄に隠していた。しばらく探していたが、諦めた御堂筋がクリートを履いて出かけようとしたところを捕まえた。つぶさに観察していたので彼が歩いて五分のコンビニへ先日隠した調味料を買いに行くだけなのは解っていた。
 御堂筋に構ってほしい故のいたずらにもルールはあり、自転車の道具や事柄には手を出さない。
「なんとか言えよ」
 両肩を掴んで振り向かせても視線を逸らされる。新開の同居を受け入れた日も今も、御堂筋は決して存在を認めたわけではなかった。居ようが居まいが関係ない、新開が何をしてもどこまでも自分には関係ないと決めつけている。
「オレはさ、御堂筋くん」
  玄関マットの上に引き倒した体は力を抜いて宙を見ていた。乗り上げて見下ろしているのに、自分は存在していないのかと錯覚しそうになる。
「最初からうまく行くなんて勿論思ってねぇよ。」
 御堂筋が、新開の行動に無頓着でいられるのは何故か少し考えれば簡単に解る。慣れているのだ。幼い頃か、或いはつい最近まで、理不尽に虐げらても耐える方法として相手を認識しなうなった。見えない、聞こえないようにと目と耳を塞いで過ぎ去るのを待っている。
「一緒に住めば喧嘩もするだろうってさ、」
 口に出して初めて、自分は御堂筋と喧嘩をしたかったのだと気付いた。喧嘩どころか会話もない生活で見えたのは彼が自身を守る方法だ。
「御堂筋」
 視線を向けない顔を、こちらに向ける方法はなにか。嫌がらせや子供じみた悪戯ではなく、痛みを伴う暴力でもない。

 春は恋の季節だと昔どこかで聞いた。玄関口の小さな窓から見える花を見て思い出す。喧嘩をしたかったのも、そもそも一緒に住みたいと感じたのも恋だったからだ。しっくりと当てはまった気持ちに喜びが沸く。好きでなければ、欲情するはずもない。二度目の欲を震える体の内側に吐き出して「好きだよ」と繰り返した。
 どんなに拒否をしても生理的な反応をする体までは制御できない。ようやく自分の手で彼の反応を引き出せた。怯えた瞳を見れば行為が初めてであると解る。うれしい。素直にそう思えた。涙に塗れた大きな目と視線が合う。背中がぞわりと粟立った。
「ようやくこっち見てくれた」

2015/11/03
 

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!