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pdr
※弾華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです




3柿色/鳳仙花/立ちあう

 触れると弾け、実に内包されていた種がはじけ飛ぶ。そんな植物がある。花はあるが果肉はなく、種だけが宙を飛ぶ。種を残すためだけ。命を持つ主として何も間違っていない。たった一つの目的を果たして枯れる。
 新開の想う男もまた、たった一つの目的のために生きている。先に挙げた植物との違いは種を残すのが目的ではない部分だ。たった一つを求め、叶えれば枯れるように消えるのだろう。美しくも醜く、哀れであり愛らしくもあった。
 レースで一位をとった少年は祝福の声を誰からも受け取らず帰路についていた。同校の選手が途中まで道を共にしていたが言葉を投げても返さない彼に諦めたのかいつの間にか立ち去っていた。一人になった少年の背後に自転車を寄せる。大学の補講を終えてから駆け付けたがゴールは見れた。
「おめでとう」
 夕日に照らされた瞳がちらりと新開を見てすぐに前を向く。ゆったりとしたペースで回されていたペダルが加速する。置いて行かれないように新開も足に力を込める。大会直後とはいえ御堂筋のペースは普段と変わらない。どうせ帰る家は同じなのに何故逃げるのかと眉を寄せた。
「なぁ、どっかで飯食っていこう」
「いらん」
 そっけない声にほんの少しだけ苛立つ。大会を勝利で終えた御堂筋は時たまひどく無口で無表情になる。ほとんどの場合はレース後の興奮を残して饒舌になり新開に対して嫌味を言ったりもする。今日は珍しく不機嫌だなぁと唇を尖らす。
 川沿いのサイクリングコースが二人の部屋までの近道だ。大分陽も落ちており人気はない。
「御堂筋くん」
 ペダルを強く踏み真横に並ぶ。今度は視線も寄越されなかった。
「三つ目の街灯まで勝負しよう」
 イヤだと答えが返る前に加速する。勝負に誘い、スタートを切ってしまえば御堂筋は抗えない衝動でついてくる。レース直後の不意打ちに勝てる見込みがないと知りながらそれでも。
 公道での競争なので勿論本気の加速はしない。互いにどれだけ加減すればいいのか知っているのでいい勝負にはなる。三つ目の明かりの下で声を出して短く笑うと不機嫌な目にじろりと睨まれる。
「オレの勝ち」
 返事はない。解っていた。

 賭けごとというほどではない。二人暮らしの狭い部屋で御堂筋に話をしてくれと懇願する新開に、勝てたらええよと住み始めた頃に呟かれた。自転車での勝負だとすぐに解り、勝つたびに新開は御堂筋から話を聞く。彼の小さな頃の話、好きな食べ物や季節の話。自転車と関係ない御堂筋翔の話を、新開は聞きたがった。ただ聞くだけではないので御堂筋は嫌がったが自身が口にした「勝ったら」を律儀に守り続けている。
「…ぅあ」
 疲弊した身体を抱く時は極力負担をかけないように心掛ける。抱かないと言う選択肢はない。レース直後、気分が高揚していてもそうでなくても御堂筋翔の目は厭に他人を誘う。他人を、ではなく自分をなのだろうかと新開は思う。疲労のにじむ真っ黒な瞳は確かに欲を持っている。ように見える。告げればきっと都合のいい解釈だと御堂筋は反論するだろう。性交を嫌う御堂筋が誰かを誘う筈はないと解っていながら細い手首を掴んで壁に床にシーツに押し付けて自由を奪って貪る。
「なぁ、まだ全部聞いてない」
 ベッドの中で話を聞きたがる新開に御堂筋はよく「変態」と罵る。特に変わったプレイをしているわけでもないのに心外だ。
「それで、御堂筋くんはさ」
「−っ、い、ぎ」
 奥まで挿入してから状態を起こし、更に腰を強く押しつける。尻たぶを両手で掴み左右に開くように揉めばシーツを掴んだ手がびくりと跳ねた。
「ぁ、あ」
 生理的な涙が溢れる目を見つめて笑う。名前を呼び、言葉の続きを強請る。どんなに強請ろうと涙が溢れる程追い詰めた彼からまともな言葉が出ないのは十分に知っていた。
「みどうすじ、くん」
 新開の声に内側が反応する。行為の最中に会話を促す理由はそれだった。新開に尋ねられ、回答を考えて口にする。反射を仕込まれた脳は教え込まれた声につられて回答を探そうと必死になり、必死になる脳は体に叩き込まれる快感で混乱する。
 身体を密着させて耳元でゆっくりと囁けば、返事の代わりに悲鳴に似た嬌声があがった。
 泣き叫ぶ声も痙攣する身体も、歪で醜く哀れと呼ぶに相応しいと新開は思う。子供をつくるわけでもなければ御堂筋が嫌がっている限り愛を育む行為にすらなりえない。
 どうせ、と新開は思う。どうせ御堂筋翔は子供をつくる気はない。彼を抱いて初めて雄として不完全な体を知り、治療を勧めたが一度もまともに取り合って貰った事はない。ペダルさえ回せて勝利をつかめればそれでいいのだと御堂筋は言う。唯一の目的であり、叶えば終わる目標だ。
 種を内包した果肉の少ない果実を持つ植物を思い出す。新開が抱き潰したい身体は触れれば弾ける儚く不器用な果実以上に、中身がない。弾けて消えても種を残しはしない。果肉もなく、果皮だけだ。
 好きだよと囁くと、腕の中の身体がぶるりと震える。ああ、果皮が弾けたと不思議な安堵に包まれて新開は目を閉じた。
 
2015/10/29

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