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※騙華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです




5長春色/南天/教えあう

 嫌いだと、薄い唇から明確な意思表示がされる。改めて聞くまでもなく御堂筋翔が自分に向ける感情に嫌悪が混じっているとよく知っていた。

 御堂筋の義妹が読みたいという本を持っていると告げれば嫌そうな顔をしながら新開の部屋についてきた。自転車から離れている時、御堂筋はあからさまに新開を避ける。生きる世界が違うからだと嫌味のこもった顔と声で呟いているのを聞こえないふりをしたのは夏が始まる頃だ。学食から見える枝の細い木に小さな花が咲いていたのを覚えている。
 聞こえないふりをする新開の向かいで、まずそうに食事を口に運びながら御堂筋はぼそぼそと言葉を紡いでいた。愛されるために生まれてきた新開と己の違いを恨みも嘆きもせず世の摂理でそうなっているのだと。反論しない新開に、フォークを向けて最後に御堂筋は確かにだからお前は負けたのだと言った。
 自転車以外を捨てた彼に、他全てを持っている愛された男が勝つのは間違っていると言いたかったのは理解できる。けれど彼を愛していけない理由にはならない。
 食事を終えた彼が席を離れても、新開はしばらく立ち上がれなかった。御堂筋翔は、新開隼人を受け入れない。嫌悪し、違う人種だと信じている。ハンドルを握り自転車に跨っている間だけ自転車競技の選手として同列に見ることはあっても個人として新開隼人を見ようとはしなかった。それは新開が彼に歩み寄ろうとすればするほど強くなった。異常な警戒心を持ち、なんの下心があるのだと疑いの眼差しを向けられる。親しみを込めて近付けば、同じ距離だけ逃げていく。突然好きだと告げたのが悪かったのかもしれない。訂正はしなかったがそれからその言葉を繰り返さないよう留意した。次に彼を見つめることを止めた。他者からの視線に無頓着であったが好意的な物には慣れていない彼は新開の視線を酷く煩わしく感じていた。見れば見るだけ逃げられるので、彼が望む方向を向いた。見たくもない着飾った女性を見てやれば御堂筋は確かに安堵した。

 窓から見える枝に、真っ赤な実が熟れてきた。季節はすっかり変わり、構内を歩く人々の服装も冬物ばかりだ。
 義妹と電話をしている御堂筋に、視線は向けずに聞き耳を立てる。電話が終わったところでその本ならうちにあるから取りにおいでよと笑った。窓から見える女子が新開を見て嬉しそうな声をあげていたので軽く手を振る。新開の横顔に、御堂筋はまた安堵し、それからほな頼むわと言った。

 ロードを置くために玄関は広いが部屋自体は小さい。大学生の借りられる物件などこんなものだ。部屋の奥に置かれているベッドに座るように勧めれば見慣れた嫌そうな顔で小さく頷いた。他に座る場所がないのは女性を連れ込んだ時に押し倒しやすいからだと先日学食で冗談交じりに話したからだろう。女性を連れ込んだ事など一度もないが、そう告げれば御堂筋が部屋に足を踏み入れる確率が高くなると新開は確信していた。
 予想通り御堂筋が素直にベッドに腰掛けるのと同時に、密着するほど近くに腰を下ろして肩を抱いた。丸められた背のお蔭で顔の高さはほとんど変わらない。驚いた顔が振り向いた瞬間に唇を塞ぎ、力任せにシーツに押し倒す。
 やめろ放せと叫ぶ声に、口元が歪むのを感じる。暴れた指先が頬を掠り、新開の髪を掴んで強く引く。髪が引き抜かれ痛みに小さく呻いたが笑みをたたえた表情は歪まなかった。
 女ではないと叫ぶ声に知っていると返す。だってあんなに女性を見て、手を振って、と息も絶え絶えな声が縋った。押し倒され服を剥ぎ取られ脚を開かれ指を挿し込まれてもまだ御堂筋は望んだ通りに視線をそむけた新開を信じていた。信じたい事だけを信じる姿勢に苛立ちはしたが、目を曇らせ判断を誤ってくれたお蔭で無防備に部屋に来てくれたのだからこれでいい。
 抵抗に疲れ、内側の過敏な箇所を擦り続けた身体がぐったりしてから新開も服を脱ぎ捨てた。触れてもいないのに昂ぶった器官を視界に入れた御堂筋が今度こそ恐怖に染まった悲鳴を上げた。
 震えた声が再び、だってキミはあんなにと繰り返す。
「嘘だよ。あんなの」
 絶望に染まった瞳が新開の顔を見た。正面から視線が合うのは久しぶりだった。長く我慢した甲斐がある。大きな瞳に映る自分の顔は幸福に満ちていた。明るい色の髪が彼の瞳に映ると僅かに暗くなるのだとそんな些細なことさえ嬉しくなる。
「オレはね御堂筋くん。オレの方を見てくれる女の子たちにこれっぽっちも興味がないんだ。」
 うそだ、と繰り返す御堂筋の目にはかわいそうなくらい涙が溜まっていた。
「嘘じゃないよ。」
 薄い腰を掴み、ゆっくりと挿入する。逃げようとシーツの上を這うので掴んだ手に力を込めた。ひきつった息が聞こえる。暴れる手がまた髪を引いた。
「これくらいしないと信じてくれないだろ。」
 信じるからと早口で必死に許しを請われる。半分埋めたところで腰を止め、確りと目が合っていると確認する。出来る限り優しく笑ってやると、許されたのかと御堂筋が小さく息を吐く。
「御堂筋くんが信じてくれてるか、わからないからなぁ。」
 御堂筋くんが、俺の言葉を信じてくれなかったのと同じようにと付け足して腰から手を放して太腿を抱える。薄い唇が何か言う前に腰を進めた。
 解るまで教えなくちゃと言う呟きは、御堂筋には聞こえていなかった。

2015/10/25


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