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※散華/和の文字パレット弐(新御)
和の文字パレット(https://twitter.com/needbeen_s/status/5121222791576944641)使用させていただきました。

前後も落ちもないです





1濃紅/夏椿/許しあう(新御)

 夏の盛りだ。動いていなくても勝手に汗が出る。風通しは良いものの冷房を入れていない部屋はさすがに蒸しかえっていた。
「まだ食べてないのか」
 布団の上で膝を抱えている御堂筋に声を掛けるが返事はない。俯いた表情は見えないが恐らくなんの色も表していないのだろう。
 彼を連れてきてから半日が経つ。狭いテーブルに置いたスイカはすっかり生ぬるくなっている。
 障子を開ければ見えるのは青々した山脈とどこまでも続く田園。平屋の建物は広いばかりでろくな設備はない。冷房があるのも一番奥の一室だけだ。縁側から開けっ放しの部屋を覗いていた新開はサンダルを脱ぎ捨てて畳に上がった。
「もう夕飯にするからこれしまっとくぜ」
 手を付けられていないスイカを指しても矢張り声は返らない。
「なぁ」
 足音を殺して近づき、至近距離で声を掛けた。近い声にようやく御堂筋が顔を上げた。というより驚いて飛びのいた。正確には飛びのこうとした。動きを予測していた新開は逃げようとした体をあっさり布団に縫い止めて乗り上げる。
「や、やや、帰る」
 新開よりも汗をかいていない肌にじわじわと汗が滲んだ。熱さではなく数時間前の行為を思い出しての恐怖のせいだろう。
「帰ってどうするっての」
 意識して嘲笑う声を出してやれば暴れていた身体が硬直して震えだす。大きな瞳がますます見開かれ、涙の膜が張った。俯せにして押さえつけた肩から片手を放して包帯が巻かれた左ひざまで滑らせる。
「安静って言われたのに練習に出たキミが悪いんだから、少しは反省しろよ」
 膝裏の柔らかな肉を強く押せばひっくり返った悲鳴が上がった。暴れた所為でじんわりと滲んだ赤に眉をひそめる。もう一度包帯を変えなければいけない。けれど先に反省を促す仕置きをしなければ。こめかみに流れる汗が煩わしく、軽く頭を振った。



「っ、あ、あ、」
 左膝を強く圧迫したのは抑え込んだ一瞬だけで、あとは体に負担がかからぬように仰向けにして傷を庇って事を進めた。見た目に反して柔らかな身体を真ん中から半分に折っている錯覚に陥る。両足を抱え、肩にかけた。手触りがいいとは言えない肌はしかし、抱いている相手を確りと自覚させる。熱さと快感に蕩け、醜く歪んだ顔を見て御堂筋翔を組み敷いているのだと胸がざわつく。抵抗の仕方も受け入れ方も解らない幼稚な肉体は何度抱いてもシーツの上で不格好に身悶える。新開に縋る事もなければ自身の口を押えることもなく、シーツを握って快感に耐える訳でもない。行き場のない手を握り締め、時折新開を、あるいは自分を殴りつける。シーツを叩き続ける事もある。力の入っていない殴打は決して痛みを伴わない。まるで赤子だ。
「ひ、ひぅ、うっ」
「ほら」
 腰から抱え上げ、真直ぐに伸ばした脚を見上げてくる視線に入れる。
「また開いちまったろ」
 大人しくしないから、と続けて腰を打ちつけた。変色した血の色に染まった包帯に包まれた脚が痙攣し射精せずに御堂筋が達する。蠢き震える内側につられて新開も中に吐き出すと達したばかりの身体が大げさに震えた。敏感な体は埋め込まれた熱の欲にどこまでも引きずられる。どれだけ熱を込めて訴えても動かない彼の心とは真逆だった。
「ァ、っあ…ふあぁ」
 喉を反らし舌を垂らして声を上げる御堂筋に新開の言葉は届いていない。乱れたシーツで掠れた息を吐く顔に眩暈がした。ごめんなさいって言わせるつもりだったのにと呟くが意識をなくした御堂筋には聞こえていなかった。

 開けっ放しの引き戸から、塀代わりに植えられた生垣が見える。冬に咲くと思っていた花が綺麗に並んでいる。家に入る際近くで見たが、確かに冬に咲いているそれとは多少形が違っていたかもしれない。
 季節がいつなのかは解らないが数個地面に落ちていた。冬に咲くよく知る花の落ちる画像が頭に浮かぶ。映画や漫画の中で落ちる花は何を意味していたのか暑さのせいか思い出せない。
 性交後の脱力に任せて薄い身体に乗り上げたままぼんやりと外を見ていると苦しそうに呻く声がした。
「あ、ごめん。重かった?」
「…べつ、に、ええ」
 苦しげに詰まった声に苦笑いをする。御堂筋が怒らないのは新開の一部がまだ腹に埋まっているからだ。謝る気はないだろうがこれ以上怒らせたくないのが見て取れる。
「もう怒ってないよ」
 ほっと安堵の息を吐いた顔に益々笑みがこみ上げた。包帯を替えようと言えば素直に頷く。
「早く治そうな」
 汗にぬれた額を撫でる。前髪をかき分けて唇を当てた。新開の言葉に、もう一度御堂筋が頷いて大きな瞳をゆっくりと閉じる。
 射し込む陽の光はすっかり夕焼け色に染まっていた。

2015/10/19

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あきゅろす。
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