[携帯モード] [URL送信]

pdr
※床敷(東御)
※前後も落ちもない





 すっかり力の抜けた膝裏に手を差し入れて閉じようとする脚を左右に割り開く。ほんの十数分前まで睨みつけてきた瞳は大きく見開かれてはいるが焦点が合っていない。薄い唇から垂れた舌は唾液で光っていた。
「あっ…は、…ぅ」
 長距離を走ったあとに似ている乾いた呼吸に混じって普段は聞けない甘い声が漏れる。曖昧になった意識でも開こうとする手に抗っているのが彼らしいと唇を歪めた。
「御堂筋」
 太腿の間に体を入れて名前を呼んでやれば意識を戻した顔と視線が合う。文句を言いかけた口は僅かな振動でも感じる感覚に飲みこまれた。
「ひぅっ…や、ぁっあ、も、と…とって」
 自身で手を伸ばさないのは伸ばすたびに抑え込んで感じる場所に何度も口付けたせいだろう。両手首を抑え込んで口づけられる場所は限られていたし今までどれだけ触れても無反応だった箇所は今日に限ってすっかり御堂筋の新しい性感帯になっていた。
「まだダメだ。」
「んぁっ、なん…っなんで、なんで」
 流れる涙を拭うことも忘れて縋る瞳で問いかけてくる声にぞくぞくと背中が震える。泣き顔に興奮する嗜好はなかったが涙の原因が快感だと思うだけで触っても居ない箇所が異常に熱を持った。

 男同士の性行為に関して詳しく調べたのは男と付き合い始めてからだった。御堂筋翔という人間に惚れ、恋人になりたいと願った時はまだ抱こうとも抱かれたいとも思わなかったが他の人間を抱いて発散するのは主義に反し、同居を始めて少し経ってから触れていいか尋ねた。
 構わないと頷いた御堂筋はしかし、ボクは不感症やけど、と付け足した。まだ触れ合い互いに出してしまえば終わりでいいと思っていたのでキスをして性器に触れ、自分が満足した後にも御堂筋は少し汗をかいただけで始める前と何も変わっていない事に僅かな不満はあったが男同士であるしそういうものなのだと無理に納得していた。
 思いつく限り触れ、自分が気持ちいいと思うように手を動かし嫌がられても舐めてやっても御堂筋は反応しなかった。
 意地になっていたかもしれない。男同士の性交を調べて、保健の教科書の図解でしか知らなかった前立腺に詳しくなり、ネット通販で見た事もない道具を購入した。医療器具とされている小さな道具と、あとは興味本位でクリックして籠に入れた。

 指を入れていいかと尋ねれば嫌そうな顔をしたが触れ合うだけの行為で全く反応しない自分に不満を持たれていると判断したのか今日だけやと風呂に入って行った。
 丁寧に洗われた場所にローションを垂らし、小指を挿し入れた。違和感に歪んだ顔はすぐに無表情に変わった。いつもと同じ、意識を反らして他ごとを考えている顔だった。
 少し慣らしてから見えない位置に隠しておいたエネマグラと呼ばれる小さい医療器具を当てると表情を変えないままそれは何かと視線で聞いてきた。

 駄目ならばそれでいいと思っていた実験は予想以上に効果を見せた。異物を挿入して僅かもしないうちに表情が変わり、シーツを両手で胸元に引き寄せた薄い身体が強張って跳ねた。痛いのかと焦ったのは一瞬で、今まで一度も反応したことがなかった性器が僅かに硬度を持っている事に感動した。
「な、ん…ぁ、東ド、うく…それ、や」
 怯えて抜こうと伸ばした手首を掴み、興奮に身を任せて鎖骨に噛み付いた。
「ひ―ッ!」
 触れるだけの行為では一度も聞いたことが無い悲鳴だった。



「初めてでこれだけ感じるなら後ろだけでイケるんじゃないか」
 両手首をシーツに押し付け正面から目を合わせて言うと言葉の意味を数秒遅れて理解した瞳に益々涙が溜まる。
「むり、無理や、って…」
 まともな射精も未経験な、歪な身体が未知の快感に怯えて震える。そもそも絶頂という感覚が解らないのかもしれない。感覚を共有することは不可能で、射精せずに達したとして見ただけで解る自信はない。それでもようやく恋人が見せた性の反応に興奮は収まらず震える唇に噛み付いて長い舌を味わった。乱暴に貪るうちにひきつった声と共に骨ばった身体が大げさに跳ねた。肩に走る痛みに、剥そうと躍起になっていた手が逆にしがみついていると気付く。爪痕が残る程強く握られた手が弛緩し、痙攣していた身体も小さく震えながら力を失った。唇を放して下肢を見やれば硬度を持ったままのそこから精を吐きだしたあとは見えない。鍛え上げられた太腿の筋肉がぴくぴくとひきつっているのを見て達したのだと解った。
 至近距離で覗き込んだ瞳は開いていたが意識はない。行為の中で初めて与えることが出来たと性行為に似つかわしくない達成感と充実感を覚える。もっと与えたいとさえ思った。
「…ん、っぅ、あっ?!」
 硬度を持ったままの、長身に似合わない幼い性器を掴んで擦り上げる。長い脚が暴れるが力は入っていなかった。
「い、っイヤ、いやや東堂、く、あっ、ああぁ、あ」
 止めようと伸ばされた手が空を掻き、彷徨ったあとに顔を抑えた。表情を見られたくないのか声を抑えたいのか、もしくは両方だろう。引き剥がして顔を見たかったが未だ射精していない可哀想な箇所を追い詰めるのが優先だった。透明な先走りだけで濡れそぼった陰茎を手のひれで擦り、先端を指で嬲る。後ろに入れたままの器具に刺激されっぱなしの身体がかわいそうなほど震え、跳ねて痙攣を繰り返した。射精を伴わない絶頂を何度も迎えているのは明らかだった。
「ぁ、ぁ…ぅぁぁ…」
 泣き叫び続けた声はすっかり枯れ、両手は力なくシーツの上に投げ出されている。レース後と同じ汗で塗れた身体は、けれどレースでは見られない強い色香を放っていた。今すぐ小さな器具を引き抜いて長い事放置された自身をねじ込みたくなり、慌てて首を振る。手の中で震える愛しい身体の一部を吐精に導くことに専念するため力を込めた。
「ひぅ、んっ!い〜〜っ!」
「え、」
 快感から逃げて丸めようとしていた背が逆に反り返り、腰から下ががくがくと震えた。限界を迎えた箇所からは透明な液体が吹き出し、経験も知識もある射精よりもずっと長い時間続いた。粘度も量も色も、明らかに違う。臭いから尿でない事は解ったがあまりの事に頭が真っ白になり痙攣して意識を完全に飛ばした体をしばらく呆然と見下ろした。
「…なんだったかな」
 アダルトビデオで女性に起こる生理現象として記憶していた。射精より先にとんでもない経験をさせてしまったなと呟いて汗で張り付いた前髪を掻き上げる。
 入れっぱなしだった器具を引き抜くと、小さく声が漏れたがこれ以上の無体を強いるのは気が引けて熱のこもった声から必死に意識をそらした。

 頬を軽く叩きどれだけ声を掛けても御堂筋は目を覚まさなかった。滾った熱を自分で処理し、水浸しになったシーツから動かない体をなんとか退かして拭い客用の布団に転がす。ずぶぬれのシーツと布団は明日なんとかすればいいと決め、泥のように眠っている恋人の背中に抱きついて目を閉じた。



2015/06/16

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!