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pdr
※彼らの話(新御)
※なんとなくモブ注意

 何から聞きたい、と男が言うので最初から聞きたいと答えた。厚い唇が情熱的な顔が困ったように笑い長いよと前置きしてから話が始まった。

 初めて関係を持ったのはホテル。良く言うラブホテルじゃなくて、でも壁は厚かったと思う。大会の後に同室になったんだ。勿論偶然じゃなくてオレがそうホテル側に頼んでね。満室だったって言ったら全然疑わないで同じ部屋に入ってくれたよ。ツインだったからだろうけど一応その三日前には告白して交際が始まってたんだから少しは意識してほしかったな。意識されてなくたってこっちはその気なんだから先にシャワー浴びて彼が出てくる前に準備を済ませといた。今より若かったのもあるけどちょっと恥ずかしいくらい期待してさ。で、その日は案の定失敗した。もし初めて挿入までいった日を初めてって定義するなら次の話にするけどどうする?続ける?わかった。疲れてると理性が働かなくなる事があるとは聞いてたけど俺もそれでさ、シャワーから出てきたとこ捕まえてベッドに放り投げるみたいにしちゃったもんだから怒られちまった。一応謝ったけど多分相当鬼気迫った顔してたんだろうな、オレ。怒ってた顔が一気に怯えてボクなんか悪いことした、て昼間のレース走ってる時からは想像できない声で聞いてくるもんだからごめんごめん焦っただけとか優しい声、違うな、オレは優しい声のつもりで宥めたんだけど全然だめで。怯えてほんと凍ったみたいに固まっちまってて。ああそういう経験ないんだって思ったら嬉しくて優しくするとか言ったけどそっから先は彼が吐くまで正直記憶が曖昧なんだ。ん?そう吐いた。指突っ込んで掻きまわしてたし男同士でのセックスなんて吐くほど嫌な人間もいるから最初はそうなのかなって思ったんだけど、告白してから抱きついたり手を繋いだり唇以外にキスしても無反応だったから違う気がした。一旦中断してフロントに電話してシーツ変えて貰ってる間動けないと思ってた彼は歯磨きしてた。吐瀉物って歯によくないらしいからそれでだろうね。歯磨きしてる間も顔は真っ青だし何度もふらついてたけど綺麗にしてたよ。さすがにそこから続き、とはオレも言えなくて綺麗なベッドまで歩くの手伝ってな。え?何もしないで寝たのかって?まさか。長い事お預け食らってたんだから我慢なんてできる訳ねぇだろ。彼の先輩じゃあるまいし。今日は最後までしないとか童貞みたいに必死に食い下がって横向きに寝てる背中から抱きついたんだけど同じ備え付けの石鹸使ったはずなのにすげぇいい匂いすんの。あとで調べて知ったんだけど好いてる相手の匂いってのは本能的にいいものだと錯覚する事もあるらしくてもしかしたらそれだったのかも、いや話が反れたな、入れたのかって?さっきも言ったけど入れなかったよ。怖いだけだと思わせたら悪いからせめて気持ちよくしてやりてぇなって思って自分のはひとまず置いといて弄ったわけ。手とか口で。男にするのは初めてだったけどどうすれば気持ちよくなるかくらいは解ったし。けどさ、吐いたんだよ。そう、もう一回。そんで初めて、あ、気持ちよくなる事がアウトなんだって解った。見れば解ったけど自分で触ったり弄ったことなんか全くないような状態だったしストイックな感じはしてたから淡白なんだろうなとは思ってたけど吐くほど嫌いだってのは初めて知った。やっぱ生理的な反射でそれなりに反応したんだけどそれが悪かったんだろうな。ハンドル握ってる時は髪の毛一本まで完璧に制御できてる身体が意思に反してるのが怖くて怖くて怯えてて、見開いた目とか綺麗な歯ががちがちなってるのとか強張った筋肉が痙攣するのとかもうそれだけでイッちまいそうで。仮にも恋人が目の前で吐いてるのにしちゃったんだよ、自分で。こっちが夢中になって出してからちょっと落ち着いたらしくてすっげぇ信じられない物見る目で見て来てた。そりゃそうだよな。怯えて震えて吐いてるのに目の前で自分の擦って喘いで出してんだから。結局その日はもっかいシーツ変えて長い歯磨きしてんのを後ろから見るだけで終わった。ホテルの人に度の過ぎた飲酒はご遠慮くださいって言われたけど何も言い返せなかったよ。

 空になった皿をウェイトレスが下げ、半分以上減ったコップに水を継ぎ足した。自然な礼と笑みにウェイトレスだけでなく店内に居る女性の視線に色が増す。見目だけではなく、こういうところが色男たる所以なのだろう。
 じゃあ続きは別な店で酒でも飲みながらにしようという提案に乗って立ち上がる。伝票に伸ばした手が空回りオレの方が量食ったからここは払うと男が片目を閉じた。なるほど彼の恋人になりたいと望む女性が多いのはよく理解できる。しかし今現在、多くの女性が望む新開隼人の恋人という位置にいるのは初夜にシーツを吐瀉物まみれにした御堂筋翔に他ならない。
 長くなるという前置きを思い出したが今はうまく言っていると聞いた彼らの性生活について聞けるなら時間は惜しくない。
 財布の中身を確認し、同時にクレジットカードの上限額を思い出す。会計を済ませる柔らかな髪を見ながらあと何件梯子しても大丈夫かと自身の財産に相談していた。


2015/06/15




 二件目に入ったのは半個室の居酒屋だった。安値の割に料理の質は悪くないのだと男は言った。平日の夜だからか席は半分も埋まっていない。通された席で飲み物を聞く店員に、とりあえずここからここまでもってきてと良く食べる男は爽やかに言い放った。
 頼んだ料理が所狭しと机に並んでから、いただきますと声を出した後に食べながら先程の話の続きするかいと聞かれたので一度口をつけたグラスをテーブルに置いて頷いた。


 規格外ってほど大きい訳じゃねぇけど、でもやっぱり指とは違うから十分拡げなきゃって思ってた。さっき話した夜以降機会があれば押さえつけて指とかで中が馴染むようにした。そう、指だけじゃなくてちっちぇ張型だったりアナルパールだったり、今ってなんでもネットで買えるから便利だよな。まだ別々に住んでた頃だったから大体は御堂筋くんの部屋に上がり込んでやってた。風呂上がりが多かったけどそのうち警戒してうまく逃げるようになったから帰ってすぐ玄関でとか寝入り端にしたりとかな。部屋に入れてもらえなくなったりしたときもあったけど一回外でやったらよっぽど嫌だったのか風呂上がりに逃げなくなったっけ。外の話?してもいいけど大して面白かないぜ。愛用してたグローブがくたびれたから新しいの買いにいくってんで珍しく電車で出掛けたんだよ。天気悪かったのもあってさ。あ、わかるかい、そう電車。帰りが運悪くラッシュでオレも御堂筋くんも慣れてねぇもんだからあっという間に車両の隅で潰されて。オレが人混みを背にして彼を壁に押し付ける形になったんだ。御堂筋くんは顔をぶつけそうになったみたいで咄嗟に壁に手をついてたんだけどそれが悪くて。いやオレにとってはよかったんだけど。顔の真横に両手ついたまま動かせなくなっちまってた。かわいそうにとは思ったけどオレも庇えるほど余裕なくて、どころか下半身が痛いほど密着してるもんだから当然反応しちまうよな。昨日もこの肉付き悪い尻に指突っ込んでたんだとか思い出したらたまんなくなって。電車の揺れで出来た隙間からうまいこと片腕を体の間に入れてさ、御堂筋くんてベルトつけてても手入れられるくらいはいつも布余ってんだよな。たぶん骨格の形のせいだけどレーパンや余程体に合わせて作ったもんじゃなけりゃ簡単に手が入るんだよ。すぐ順応したオレに比べて御堂筋くんは壁に体ひっつけて縮こまるだけで逃げも抵抗もできなくて、大して肉のついてない尻を片手で直接揉んでから乾いたまんまの指いれたら変な声あげるもんだから近くの乗客が不審がってたなぁ。ほら、時々出すあの悲鳴っていうか、鳥の鳴き声みたいな。オレあれ好きなんだけどさすがに満員電車の中じゃちょっとな。本人もやばいって思ったみたいで顔の横についてた手で口押さえてさ。密着してるから籠ったみたいな息がすげぇ近くに聞こえてますます興奮しちまったんだよ。次の駅までかなり長かったし乗り換えの多い駅まではかなりかかるからって少しだけ潜らせた指動かして肩とかうなじがぴくぴくすんのガン見してた。ていうか、そこしか見えなかったから。動けねぇし。でも鳥肌とか震え方とか、不健康な色の肌が赤くなるとことか、限られた視界だから逆によく見えるとこもあるのは新発見だったよ。くっついてる部分が多いから感じてる誤魔化されなかったし。で、まぁ、気持ちよくなってくると吐いちゃうのは相変わらずだったから胃が痙攣してるな、ってわかったところで辞めて駅につくのと同時に抱えるみたいにして降りた。家の最寄じゃなかったけどこの際構ってられなかったし。いや吐いちゃいそうだったからじゃなくてこっちがもう限界だった。駅から最寄りのホテルに、今度はよく言うラブホテルなんだけど男同士でも大丈夫なとこに入ってもう吐くか意識なくすかしそうなくらい真っ青なのも構わないで服引っぺがしちゃって。だって緊張だか恐怖だかわかんないけどその時ちょっと勃ってたんだよ。今までどれだけやっても後ろだけじゃ反応しなかったのに。電車の中でそれに気づいた時ちょっと泣きそうになってたと思う。ああ今までのは無駄じゃなかったんだオレの手で感じてくれてたんだって思ったらもうなんか何も考えられなくなっちまって、初めてする時は優しくとか吐かないようになるまでじっくり慣らしてからとかっての全部吹っ飛んでローション代わりに鞄に入ってた買ったばっかのスレ防止用クリームぶちまけて突っ込んでた。電車酔いもあってか抵抗らしい抵抗もなかったな。入れた時はお互い痛くて少し動けなくて、でもちょっと馴染んできたらやっぱほら、興奮なんか全然冷めてないし。入れた状態で掴んでみたら骨ばった腰の感触とか女の子とは違ってどう考えても性的対象じゃないってのに相手かってすっげえ実感できて硬直して声も出ない人間に突っ込みながら喘いじまってさ、大の男が喘ぐもんだからますます驚いて怯えて泣き出しちゃったんだよ。もうやだとかゆるしてとか言ってた気がする。頭に血が上ってて覚えてなくてもったいないことしたなぁ。一回後ろできもちいの覚えたら結構体が素直に引きずられるみたいで、ううん体質とかあるのかもしれないけど。夢中で揺さぶってたらすえた臭いがすっから吐いちゃったんだなって解ったんだ。吐いたって事は突っ込まれて動かされて感じたんだなってそう思ったら気遣う余裕とか、いやそれまでも十分気遣えてなかったけどもっとなくなってシーツが吐いたモンと涙と涎でぐっちゃぐちゃだわ見開いた目白黒させてるわ大きな口から不気味なくらい綺麗に並んだ歯と長い舌が見えててとてもじゃないけど色っぽいとは程遠い中でキツすぎる中に出してた。二回、かなたぶん。三回かもしれないけどその辺でゴムつけてないことに気付いたんだけど気失ってぐったりしてるの見たら抜くの勿体なくて。だって動かすと小さく呻くんだよ。萎えるわけないだろそんなの。細いとこは異常なくらい細いのに筋肉ついてるとこはオレといい勝負なんだよね。太腿とか、質は違うけど。そのよく鍛えられたとこが男に突っ込まれて痙攣してるの見たら意識ないからやめろって言われてもちょっとな。うん、でも日が昇る前にはやめたと思う。ラブホって基本的に窓とか全部閉まってっからわかんねぇけど。ちゃんと起きる前にはフロントに電話してシーツも替えてもらったし顔も口も綺麗にしておいたけど起きた時めちゃくちゃ怒ってたな。え、当然だって?なんで?出したもんも処理しといたのに。

 一呼吸置いてから男は、ところでそれ貰っていいかいと自分で頼まなかった料理に手を伸ばし返事をする前に口に入れた。頼んでいた料理はとうに空になった皿を店員が下げた後だった。
 挿入を初体験とするなら今のが初体験の話だけどまだ続ける?とメニューを開きながら甘い声が尋ねる。できれば今の関係になるまでの過程を聞きたいのだと言うと男は楽しそうに笑って唇を鳴らしてから呼び出しボタンを押した。
 ここからここまで、とメニューを指して言う声に財布の中身を再度確認し、呼び出しボタンの横に掲示されている対応クレジットカードの一覧も見た。
 メニューを繰り返して確認する若い女性店員は明らかに注文過多である以上に男の整った顔に動揺していた。時折ちらりと視線を向け、笑い返されるたびに頬を染めて慌てて逸らす少女のような仕草に、先程までこの男が語っていた内容は絶対に聞かせてはいけないなと思った。

2015/06/17


 注文したものを全て平らげた男はデザートも端から端まで注文し、店員を驚かせた。溶けそうなものから手を付ける姿を見ていると食うかいと聞かれたが満腹だったので遠慮する。
 冷房の効いた室内でも少しずつ溶けはじめたバニラアイスを口に運びスプーンを舐めた分厚い唇が食事中にする話じゃないなと呟いた。


 吐かなくなったのがいつからかははっきり覚えてないんだよ。ていうか今でも時々吐くし。別にセックスは無理強いしてる訳じゃないからそこんとこ間違えないでほしいんだけどさ。もう体質だと思うんだよなアレ。体質っていうか思い込みからくる、なんてんだろうな、強迫観念?ほら御堂筋くんて自転車のために生きてるようなとこあるだろ。オレだってそれなりにそうやって生きてるし寿一もそういうとこあるけど御堂筋くんはちょっと違うんだよな。たとえばオレや寿一は自転車から離れたとしてそりゃ虚しかったり一時的に落ち込んだりもするだろうけど他に趣味もあれば特技だってある。寿一なんて自転車一筋に見えて文武両道だし、御堂筋くんも勉強出来るけど種類が違う。勉強するのが当たり前で成績がいい事になんの疑問ももたずにやる事と、自転車に乗るために成績をよくするのは別だろ。ああ、ごめん今は違う話だよな。そうそう吐かないでセックスできるようになったあたりの話だっけ。何年か前のレースで脚痛めて安静にしないといけない期間が少しだけあってさ。いや勿論無理はさせなかったよ。安静なんだから。自転車乗れない、筋トレも駄目、て言われるとレース後で気が抜けてる御堂筋くんてすごく大人しいんだ。ぼんやりして一日中一言もしゃべらないなんてこともざらでさ。ちょうど引っ越した頃でまだ家具もそろってなくて。うん、同棲はじめた頃。オレはベッド派だったんだけど御堂筋くんが布団派で、布団並べて寝てたんだよね。その日も朝ぼんやりしてる御堂筋くんに声かけても返事が無くてただ黙って洗面所に歯磨きにいって、で、戻ってきた。また眠るんだなってすぐわかったからオレも歯磨きして戻った。なんでって歯磨きしないとキスさせてもらえねぇから。寝起きの口には菌が多いって昔テレビでやってたろ。部屋に戻ると目開けたまま横になって天井見てたから視線遮るみたいにして覆いかぶさったんだけど反応なくて。少しさみしかったからそのまま顔中にキスしたんだけどそれでも動かねぇから首とか耳とか噛んでみてさ。本当に動かねんだよ。体温低いから死んでるみたいだなってぞっとして心臓に耳当てたら小さく息が漏れる音がしたんだ。ふ、て。演技じみたあの笑い声じゃなくてすごい自然に出た笑い声だった。表情は殆ど変わってなかったけど確かに笑った声で、やけに嬉しかったなぁアレ。嬉しくて少しだけ開いてた唇に指突っ込んで舌引っ張り出して自分のと絡めてた。御堂筋くんの舌って見た目より薄いんだよ。知ってたかい?いやおめさんが知ってたら困るけど。長いし幅はあるけど薄いんだよな、ほんとに。普段あんだけ出してるのに触られるの嫌いだし。舌触られるの好きなやつなんてめったにいねぇとは思うけど御堂筋くんはかなり嫌いだぜ。あとここ、上顎っての?口の上のとこ、内側の。触るとすごい嫌がる。何でってたぶん感じるからだろうな。暫く口ん中弄ってたらさすがに嫌がって布団被ろうとすっから引っぺがしてからもっかいかけた。勿論一緒に入ってな。動きにくかったけど熱い中でちょっと体温上がってる肌に触んの最高に気持ちよかった。半分寝てるみたいな顔も可愛かったし布団中で服脱いで外に出すのってちょっと楽しいだろ。わかんないか。布団の中で全部脱いで脱がしてさ。潜ってテーピングで荒れてるとことかアバラとか触って舐めたんだけど今まで眠ってた場所だからなんていうか匂いが、いや、御堂筋くんてそんなに体臭きつくないんだけど、すごく興奮してさ、ごめんって一言だけ謝って布団の脇に常備してあったローションひっつかんでちょっと慣らして突っ込んじまった。眠そうな声でやだやだ言って逃げようとしたけどこっちも必死だから布団の上で組み合いみたいになってちょっと笑えた。這って逃げようとしてたから後ろから入れたんだけどそれが初めてだったかな後ろからは。それが思ったよりいいとこ当たるみたいでなんかもうすごくて。言葉は嫌がってんだけどもうとろとろなんだよな、声が。聞かされてる方もたまんないだろそんなの。逃げようとして床に伸ばしてる手もなんかすぐ握りしめて震えちゃってるし。たださ、すげーきもちいって言いながら揺すってたらカオ見えないからだろってろくに喋れもしないくせに言ってきてカチンときちゃったんだよ。いやだってさ、恋人とセックスしてんのに顔が見えない方がいいんだろって言われたんだぜ。それじゃあオレが誰かの代わりに抱いてるみてぇじゃん。だからひっくり返して正面から顔見て何回も名前呼んでやった。この方が興奮するって言ったらうそだなんて言ってさ。あ、それ食わないなら貰っていい?サンキュ。どこまで話したっけ。そうだ、誰抱いてるかわかったほうが興奮するしその相手がおめさんだってのが一番興奮するって教えたんだ。泣きながらうそだ違うって言うからさ、わかったごめんなさいって言うまで。ん?仕方ねぇだろわかってくれないんだから。まぁ不可抗力ってやつだろ。なんだよ、ちゃんと起きてからは安静期間の世話全部したんだからいいだろ。謝るまでどれくらいかかったって?そうだなぁ結構かかったと思うけどたぶん昼過ぎくらいには。声出なくなって枯れてるのが色っぽいんだよ。元々高いけどひっくり返るみたいになっちゃってさ。喉反らすからあんま目立たない喉仏が可愛くてつい噛み付いちまうんだよ。見えるとこに痕残すと怒られるけど。喉舐めたり噛み付いたりしながら口に指突っ込んでまた感じる場所触って、そうすっとすごい反応よくてさ。あ、本人は否定するし最中でも認めないけどナカがすげぇ素直に吸い付いてくるから。健気で可愛いよな。その日は吐かなかったぜ。胃に何も入ってなかったからじゃなくて、吐くときは胃液まで吐いてんだから。

 やっぱ食事中にする話じゃないよなという言葉と共にスプーンが置かれた。店員がラストオーダーの時間ですが、と個室のドアから顔を出す。じゃあお茶漬けくださいと男が言った。味はと聞き返す店員に全部と応える。足早に去っていく店員の背を見つめ、厨房ではこのテーブルが話題になっているのではと考えていると、向かいから穏やかな声がした。
 まだ続けるかい、という優しい声がベッドで恋人に脅迫まがいの睦言を吐いていると想像して寒気を覚えた。

2015/06/18



 客数は少なかったが値段の割に洒落た店構えと品ぞろえの所為かやけに賑やかに感じた。学生と思しきグループにとって安価で楽しめるバーと言う場所は貴重なのだろう。バーと聞いて静かな場所を想像していただけに面食らっていると柔らかな髪質と同じように柔らかな声で男が静かなとこでできる話じゃないだろと笑った。
 なるほど確かに、酔って盛り上がっている学生の耳に他の客の声など入らないだろう。騒音で店員にも声は聞こえそうにない。


 御堂筋くんから誘うことは殆どねぇんだ。全くの間違いじゃないかって?いやそれがごくまれにあるんだよ。ひでぇな、勘違いじゃないって。まぁ、勿論本心からじゃなくて乱暴にされるくらいならって打算はあると思うけど。自転車さえ乗ってれば他の欲求全てないことにできる御堂筋くんとは違うから疲れて溜まってると時々無茶しちまうんだよな。さっきの話も無茶させてたとか言うなよ。さっきのは仕方ないだろ、ほら、状況が悪かったっていうかさ。そういうのじゃなくて普段家で普通にする時の話だって。オフで翌日休みの日とか、大会直後とか。大会直後の話?いいけど別に大して普通の時と変わらねぇぜ。あ、いやちょっと違うかな。岸神って覚えてるか?ほら京都伏見の。御堂筋くんの一個下のさ。あいつ未だにレースのたびにマッサージに来てるんだよ。チームも違うくせに。ん?怒ってねぇよ。そう見える?レースのあとオレが先に行ってればそのまま連れて帰るかホテルでマッサージするんだけど岸神が先についてると慣れてるせいか任せてるんだよ。始めてるの邪魔すんのも悪いし終わるまで待ってんだ。で、終わって部屋に戻ると結構高確率で御堂筋くんが誘ってくれるんだよな。他の男に触られてたって思うとちょっと気が立って先に押し倒すこともあるからもうちょっと我慢すればもっと誘ってもらえるのかもな。ああ、気が立ってるのバレてるからひどくされる前に先手打ってるって可能性もあるか。どうやってって別に、部屋入ったらドアの前で動かねんだよ。いつまでもドアの前で俯いてて、どうしたって聞きに戻ると下向いたまますげーちっちゃい声でさ、せんの、ってそれだけ。余裕があれば何をとかどうしてほしいのとか意地悪もしたいんだけど御堂筋くんがレース出てる時って一緒のレース出てるか、出れない時ってのはそれだけ忙しくて疲れてる時だから全然余裕ないんだよ。震えた小さい声で下向いて自分のシャツの裾握って震えながら言われたらするに決まってんだろって言っておっぱじめるしかできねぇって。大体ドアに押し付けて前と後ろから2回ずつくらいしてからベッドだな。ホテルだと誰か通るかってのがまたいいんだけど自宅だと角部屋だからあんまスリルないんだよ。御堂筋くんが立ってられなくなったらベッドいくってのが正しいかなぁ。向こうから誘った時はベッドにも素直に行くから。オレからの時はベッド以外でしたらベッド行くのめちゃくちゃ嫌がるんだよ。どうせ行っても終わらないからって。その通りだけど。そうそう、ベッドにしたんだよ。布団でもよかったんだけど身体つらい日は布団よりベッドからの方が歩きやすいって聞いたし動けないとこに飯食わせるのもベッドの方がよかったから。介護で布団よりベッドがいいっての本当だったんだな。いや、オレが動けなくなることはまだないけど。だからセックスの翌日の話だよ。なんだ、わからなかった?にしても動けなくなってトイレ行くのもよろけてんの見ると万一事故とかで御堂筋くんが動けなくなったらこういう感じなのかなってちょっと想像しちまうよな。あってほしいわけじゃないからな、念のため。ただそうなっても全然苦じゃなく面倒見れる自信があるってだけで。たとえ話だよ。たとえ話。

 学生でも気軽に来れるとはいえ矢張り居酒屋とは違う。値段を見てウィスキーを選んでいるとさっき出させたしここはオレが払うよと男が笑った。優しく慈愛に満ちた笑みは、恋人が動けなくなったらとたとえ話をしている時と同じだった。


2015/07/02

 まだ帰らなくていいのと聞かれて時計を見た。終電なくなるよと言われて彼の住居は電車に乗らなくてもいい場所なのだと思い出す。一駅くらい歩いて帰れるので大丈夫だと返せば男は苦笑いした。そんなに楽しい話でもないだろなんて笑う顔はすれ違う女性が頬を染める程魅力的だった。
 駅の向こうがうちだから、駅まで送るよと言われ仕方なく頷いた。短い距離ではあるが歩きながら話の続きを聞いて次の約束をしようと決める。途中コンビニに寄り、彼はレジカウンターに置かれたフランク商品をいくつかと中華まんを買った。缶コーヒー一つで足りるのと聞かれたが先程までの食事で十分腹は膨れていた。一度出口に向かった足を止めてから思い出したように店内に戻った男が買ってきたのは毛先の柔らかい歯ブラシで、切らせているのかと想像したが聞くのはやめた。
 袋はいいですと言った小さな商品をポケットに入れてから街灯を見上げて厚い唇からバーで語られた言葉の続きが零れだした。

 喧嘩はあんまりしねぇなぁ。御堂筋くんが一方的にオレのやることに怒ったり文句を言う事はあるけどオレは別に御堂筋くんが風呂上りに体も拭かないで歩こうが使った爪切り床に置き忘れてようがテレビつけたまま眠ってようが気にしないし。あ、これはオレが怒られた話だから御堂筋くんがやったわけじゃなくてな?御堂筋くんは自分の事はきっちり自分でするし一緒に住んで家事分担してもオレが関わらせてもらえるモンなんてたかが知れてるしさ。オレが怒るのは御堂筋くんがあんま自分を大事にしない時なんだけど彼ホントに自転車以外、ていうか自転車においても勝てれば怪我しようがどうでもいいみたいなとこあるからそれがすごくヤなんだよな。だからそういう時怒るんだけど、いや、怒ってるんだけど通じなくて。道の上にいないペダルを回してない御堂筋くんてなんかまるで外国人とか宇宙人なのかって思うくらい言葉が通じなくて。怒ってる時もそうだけど、ほらなんていうか、好きだとか愛してるとかそういうのも全部通じない。暖簾に腕押しってこういうのを言うのかも。もっとひどいかもしれないな。水みたいな。水に手突っ込んで掻きまわしても引っこ抜いたら何の形跡もないだろ。それと同じ。オレの言葉なんてなんの影響も与えない。ん?うまくいってるって本当。なんだよ疑うなって。怒ってるって進行形みたいな言い方したから?ああまぁ、怒ってるよ。昨日のレースおめさんも来てただろ。だったら見たよな。顔の傷。代謝いいからこれまでも痕になってないけどそのうち顎なくなるんじゃないかって心配になるんだよ。歯磨きはしつこいくらいにしてて、大事にしてるくせに。昨日もさ、ああそう、昨日の話だよ。あんまり動かすなってのにほんと丁寧に歯磨きするんだよ。口開けたり閉めたり、動かすもんだから貼ってたガーゼが剥がれかかって、で、煩わしいからって自分で剥しやがって。絶対痛いはずなのに何時十分も磨いてるからふさがりかけてた傷口が嫌に開いてさ。レースの結果に納得がいかない日って結構そうなんだよ。風呂入って早く寝ろってどんなに言ってもこっちも見やしねぇ。だから背中蹴っ飛ばして、勿論怪我はさせてないから大丈夫。風呂にひっぱってたんだけど服引っぺがすまで歯ブラシ手から放さないからちょっとイラついて折っちまったんだよ。怒るかなって思ったけどオレのすることなんかどうでもいいみたいに目逸らすからとりあえず服全部洗面所に放って浴槽に入れて。レース後すぐシャワー浴びてるから汚くはなかったけど絆創膏とか湿布とかそのままだったんだよな。今考えると服と一緒に剥しとくべきだったな。湯の中に入れたら本人の意思は反応しなかったけど体は疲れてっから力抜けて無表情な目もちょっととろんとして可愛いと思ったけど傷だらけの身体見たらもうイライラするどころじゃなくて。だってどう考えたって回避できた傷がほとんどなんだぜ。勿論競技上避けられないもんもあるのは解ってるよ。でも御堂筋くんは避けないし避けないことが正解だと思ってる。それで勝敗が決まるってわけでもないのに自分を傷付けないと勝てないと信じ込んでる節だってある。だからわからせないといけないんだよ。どうやってってそんなの。言ったって通じないだからひとつしかないだろ。痛い目見せるとかそういうのだよ。でも言った通り傷だらけの相手をこれ以上痛めつけるわけにもいかねぇし、ていうか恋人だし。そもそも御堂筋くんは自分の身体を虐めるタイプだから痛くても反省しないっての。じゃあなにかってそりゃあ彼が吐くほど嫌なことするしかないだろ。今はもう吐かないけど。全くってわけじゃないけど体調がいい日とか胃に何も入ってない時は胃液も吐かないし。服脱ぐのめんどくさくて着たまま湯船入ったら気持ち悪かったけど頭に血上ってたからそれどこじゃなくてあったまりはじめてた身体押さえつけてぼんやりしてるとこにキスしたらようやくこっちが怒ってなにしようとしてるのかわかったみたいで暴れるから思わず笑っちまったよね。本当自転車と関係ないとこにいる御堂筋って抜けてるっていうかさぁ。お湯が入るからとか痛いとか喚いて暴れてたけどうちの浴槽そんな広くないから全然意味なくて暴れたせいで指がますます奥に入ったりしてひっくり返った声上げてたのは可愛かったな。滑ってお湯飲んで苦しそうでさ、ああいうのドジっ子とかいうのかな。違う?溺れかけて必死になるから抵抗とかほとんどできてなくてレースで疲れてたのもあるだろうけどそのうち動かなくなったから息ができるようにだけ起こしてやったんだけど、そこで反省してごめんなさいって言えばまだ許してもよかったんだけど。そもそも何で怒られてるのかわかってないから死ねって言われて。ん、よく言われる。特にセックスの時は。反省してねぇなぁって思ったから湯船から出ないで突っ込んだんだけどアレあんまよくないな。お湯入っても滑りがよくなるわけじゃないし。女の子相手だと違うのかな。いつもより痛がっちゃうし。声が反響してたのはよかったよ。ただどっちも背高いし幅もそこそこあるから狭いのなんのって。やたらぶつかるし動きは制限されて不完全燃焼っていうか。なんとか楽な姿勢って思ってあの無暗に長い脚だけお湯から出すようにして向い合せに腰に跨らせて、背中支えて胸に噛み付いてた。悔しいけど身長結構違うからその姿勢で顔合わせるのはきつかったし。そんで胸んとこ噛んでたら血のニオイがするわけ。顎のとこもう間近で見るとひっでぇの。こんなにしなくてもあのカーブなら曲がれただろって言ってもやかましいとかはよ抜けとかそればっかで。怒るのと興奮するのが似てるからか文句言う声に反応して出しちゃって。そしたらお湯が入ってたせいかいつもより大げさに腰とか跳ねて泣き声みたいな悲鳴上げるんだよ。さすがに可哀想かなってちょっと抜いたらそれでまたお湯が入るからやだやだって泣くわけ。痛いのかってきいてもやだって言うだけで会話になんねぇの。おかしいなと思って抜いた分入れても、あ、オレは全然萎えてなかったから。あっちは立ってもいなかったけど。で、もっかい突っ込んだらすごい悲鳴上げて痙攣するもんだからこれは痛いわけじゃないんだなって解って観察したんだよ。そしたら暴れてると思った足が腰挟み込んでるし溺れないためだけだと思ってたけど指が食い込むくらい二の腕掴まれてて少し動くとそれがますます強くなるわけ。歯磨きしたばっかのつるっつるの歯が間抜けに開いてて薄っぺらくて長い舌がやけに赤くて、いつもほとんど色のない唇も真っ赤で。目なんかもう蕩けてるって感じじゃなくてふわふわしてた。わかんないかなぁ、もう普段の彼から想像できない顔なんだよとにかく。声も途中からイヤだって言わなくなったし。なんて言ってたって、うーん、難しいな。もう言葉らしい言葉はそのあと言わなくなったから。あ、でもオレが話しかけるとちゃんと応えてくれたんだぜ。繰り返すみたいに。水吸って膨らんだ絆創膏とか湿布とか剥して傷がついたとこ触ったらますます嬉しそうに手足絡めてくれて動きにくいけど湯船も悪くねぇなってちょっと思ったな。でもやっぱ狭いからさ。御堂筋くんが一回イッてからベッドに運んでもっかい突っ込んでさ。ああそうだ床もシーツも濡れっ放しなんだよなぁ。ちゃんと掃除しないとまた怒られちまう。起きてればだけど。だから昨日の話だって。そのまま今朝までしてたから掃除してないんだよ。食事の約束破るわけにもいかねぇから出てきただけ。

 歯ブラシをポケットから取り出し、さらにその奥に入っていた携帯電話を開いて時間を確かめた横顔は幸福に満ちていた。彼と待ち合わせをして落ち合い、食事をしてからの時間はほんの数時間だ。その数時間の間、彼の恋人がどこで何をしているのか気にかけなかったと言えば嘘になる。
 昨日レースで競った姿を思い出すが目の前の男の口から出てきた痴態に結び付けることはとてもできなかった。
 終電の近い駅に向かう人は皆早足で、自分もそれに倣わなくてはいけないと知っていながら幸福そうな男の顔から目が離せない。これから帰って彼を待つ恋人に美しい笑みを向け愛を囁くのだと思うと寒気がした。彼の言葉の通りであれば愛を知らなかった少年は強引な雪解けを迎えさせられて心を開いたのかもしれない。抱かれ慣れた身体を持て余し今も家で、彼が帰るのを今かと待ちわびている。
 じゃあ、また。そう言って足早に階段を上がる背中は横顔と同じに幸せを滲ませている。恋人の待つ家に帰る背中だ。
 家で待つ恋人はどうなのだろうとふと思った。改札を抜け、ベルの鳴り響くホームを走る。ドアが締まる直前に滑り込んだ。混雑した車内の窓際から見える建物の灯りがやけに眩しい。あの光の中に先程別れたばかりの男と、その恋人の住む部屋があるのかと想像した。終電に満ちる疲労と奇妙な安堵に包まれ、冷たいガラスに当てた手をぎゅっと握った。アルコールを普段よりもとったというのに恐らく今夜は眠れないだろうな、と他人事のように思いながら。

2015/10/07

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