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洗礼(東御)
※同棲設定
宗教のようだと思った。
御堂筋翔をベッドに誘う時、東堂は柄になくひどく緊張する。表彰式で大勢に注目された時や、初めて女子生徒に校舎裏で告白された時の心地いい緊張ではない。背中に冷えた刃物を当てられているような、目の前に得体のしれない生き物が居るような不気味な緊張感だ。
己を削り不要を捨てて生きる体は性的快感を認めない。跪く男の必死な願いを仕方なく叶えるために小さく頷くだけだ。
風呂上りにカレンダーを見て明日は休みだなと呟き、言葉の意味を理解した彼が風呂場に向かう。たったそれだけのやりとりでふたりはセックスをする。初めての夜を除いて例外はなかった。
初めての夜、半分眠っている御堂筋を謝りながら抱いた。何が起こっているのか解らない体は思いの外暴れなかった。硬直し、震え、僅かな抵抗を見せたものの腕力も経験も適わないと悟って終わりを待っていた。最初から最後まで謝り続けた東堂に、御堂筋は一言だけ構わないと返した。もともと、東堂は以前から彼に好意を告げていた。応えなかった報いだと思ったのかもしれない。
同じ部屋に住んで、意外に無口な男にそう告げれば同じ言葉を返された。ふたりきりでいる時、御堂筋も東堂も必要以上の会話をしなかった。外でのふたりを知っている人間が見れば驚くほど室内は静かだ。心地よい静寂に彼がいなければ耐えられなくなった夜が初めての日だった。
風呂から上がった御堂筋が先に寝室に入り、ベッドに腰掛ける。居間から彼の背を追いかけてドアを閉めた。
床に膝をついて風呂上りで柔らかい皮膚に触れる。スウェットから覗く足の甲は白い。そっと持ち上げて綺麗に切りそろえられた爪先に唇を寄せた。広い爪から親指の節、甲に唇で触れる。片手で布に包まれた脹脛と膝を撫で、太腿に触れる。性を想わせない接触を終えて初めて薄い身体をシーツに押し倒した。
厚みを持たない唇と柔らかな頬に触れる時も、まだ情欲は込めない。行為の最中常にぼんやりと宙を見ている目も触れるだけの指には反応しない。
服を捲り上げ、首筋を舐めると小さく声が漏れた。途端、ぞわりと背中に薄暗い感情が沸いた。勝利する以外一切の欲を否定する身体の生理現象をこの手で引きずり出す罪悪感、背徳感、支配欲。どれが正解なのかは解らない。兎も角、小さな吐息と声を引き金にそれはセックスに変わる。
それまで行っていた接触はセックスでもなければその為の前戯でもない。
彼の身体に触れるそれ自体に意味がある。
まるで宗教だ。
反応の鈍い身体に夢中になりながら、東堂はどこかでそう思った。
2015/05/31
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