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pdr
※呪詞(東御)
※前後も落ちもない同棲交際設定ぱちみど






「…っ、死ね…っ」
 およそ性行為の最中に似つかわしくない言葉が降ってくる。憎しみと殺意のこもった声に、しかし東堂は間違いなく興奮していた。 

 自転車では、それに関する以外の賭けをしない。登り以外で勝ち目がないからではなく、単純に自転車での勝負にそれ以外を持ち込みたくないからだ。同時に、恋人としての我儘を自転車に持ち込みたくもない。
 東堂が誘い、御堂筋はただ風呂から上がってベッドに転がる。交際のきっかけと何も変わらない行為に文句を言えば別にボクはしたくないのだからキミが嫌ならしなくてもいいとすげなく返された。ただでさえ頻度の少ない営みをゼロにされては適わないと口を閉じたが諦めきれなかった東堂はその日の練習でつい自分に課していたルールを破った。
 今日のタイムが良かった方が、負けた方の言うことを一つ聞く、という単純な賭けだった。過去にも何度かそういった条件を付けて練習をした。帰りの荷物持ちであったりインターバルでの補給食負担であったり少なからず練習や自転車にかかわりのあるものだった。だから御堂筋もあっさり頷いた。そもそも負けるつもりがなかったからなのだろうがその日のコースは東堂に有利だった。
 僅差で負けた御堂筋の心底悔しそうな顔が、東堂の言葉で更に歪んだのは予想通りだった。

「はっ…これほどキミのこと殺したい、と思ったんはじめて、やわ」
 大きさはあるが厚さのない掌を東堂の腹部に置いて言う声は怒りを孕んで震えている。怒りだけでなかったが本人はきっと認めないだろう。
「これほど、というのはこれほどじゃなければ思ったことがあるって事か」
 慣らしたがまだきつい内壁に締上げられ、心地よさに深く息をついてから言った。上機嫌な声が出てしまったのは身体的な快感と、視覚的な快感のせいだ。
「ふ、う、ぁっ…こ、ういうんする、とき、いつも…っ」
 抱かれている最中、御堂筋は殆ど言葉を発さない。声を殺し、過ぎ去るのを待っている。だから、僅かな反応を見逃さないよう必死に見つめて抱く。
 騎乗位という単語を御堂筋は最初理解できなかった。知識としては知っていたようだが東堂の口から出た言葉の意味を理解するのに数十秒かかり、ベッドの上での話だと分かると呆れを通り越して嫌悪の眼差しを向けた。
 勝ったのだからと食い下がればルールを重んじる男は次にボクが勝ったらキミとは別れると口にして忌々しげに舌打ちした。
 普段まな板の上の魚よろしく動かない御堂筋に最初から乗れと言っても無理に決まっていた。途中までは普段通りに進め、挿入が済んでから薄い身体を抱き起した。10cm以上差のある身長でも御堂筋の身体を起こすのは苦ではなかった。それなりに腕力は必要だったがなにしろ今日は彼の協力を得られた。抵抗されればできなかったが、嫌々ながらも体を起こして言われるままに姿勢を整える姿に喉を鳴らすと小さく「死ね」と言われた。
 拙い動きに刺激は得られなかったが徐々に大きくなる「死ね」と「殺す」の繰り返しに東堂の熱は上がった。感じている事を認めたくない体が赤く染まり汗がにじむ姿を見上げるのは新鮮で、隠せない事実にますます羞恥と怒りで真っ黒な瞳に水分が溜まる。
「あっ、あ、や…もぉ…」
 体力の限界がきたのか、薄い身体を倒して御堂筋が東堂の胸に額を当てた。丸まった背がかわいそうなほど震えている。
 全く動けなくなった腰を両手で掴むと怯えた声でイヤだと聞こえた。怯え震える恋人には悪いと思ったが、煽られて焦らされた熱を抑えるのは難しい。
 すまないと呟いて無遠慮に攻め立てると、何度も繰り返された憎しみの言葉が喘ぎに混じって耳元に降ってきた。
 これはまずいな、とぼんやり思った。覆いかぶさられ喘ぎ声と共に吐かれているのは確かに暴言であるはずなのにいつも以上に興奮している。今後彼が性行為とは関係ない場所で同じ言葉を吐いた時思い出さない自信がなかった。
 次に自分が勝ったら別れると御堂筋は言ったが、先に内容を言ってしまったのは失敗だったといつ気付くだろうか。勝負の条件を知っている東堂が賭けを受ける事はない。言い換えれば賭けをしない限り別れないのだという理屈さえ通る。
 頭がいいくせに、厄介な恋愛感情に対して御堂筋は笑えるほど鈍い。どんな手段を使ってでも勝利を掴むと口にし実行しながら、どんな手段を使ってでも恋愛を成就させたいという人間の気持ちは微塵も理解しない。
 そこがいい、たまらなく愚かで愛らしい。呪いに満ちた言葉を受け止めながら背はある癖に自分より軽い身体を揺すって微笑んだ。もうとっくに殺されていると快感と興奮に霞んだ頭で思いながら。

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