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pdr
羽(東+御/まなんちょ)
※謎パロ




 山神などというあだ名をつけられたが、東堂は人間のいうところの天使に近い生き物だった。何か大きな意思に命令され、使命を果たす。その間は人間として過ごし、任務を遂行する時にのみ正体を明かしていいとされていた。
 大きな意思が神なのかと問われればそれは解らない。解るのは逆らえない何か大きな力だと言うことだけだ。
 
 同じ生き物として出会ったのは東堂が三年に上がった年に入った後輩の真波山岳だった。彼は出会った時既に任務を半分終えていた。人間としての人生に楽しみを見出した後輩はもう少しの間だけここに残ると言った。
 探し物が見つからない東堂は、それを見つけた真波を羨ましく思えた。二つ結びのメガネの少女と仲睦まじく廊下を歩く仲間は確かに愛に満ちている。美しく、儚い宝石を探し出して愛するのが東堂たちの使命だった。普通の人間とは愛するの意味が異なっている。真波はまだ使命を終えていない。
 人間は薄々その存在に気付いている。誰かが口にしていたのを東堂も聞いたことがある。

 神に愛された人間は早くに亡くなる。

 仲のいい友人はいた。競い合う好敵手も、信頼に足る仲間も。
 人間としての目線で可愛いと思う少女と交際もした。真波を真似たわけではないが彼の愛を理解しようと努力もした。けれど捧げるに値する命に東堂は出会えなかった。
 見つけたのは三年目の大会だった。
 美しいとも、儚いとも思えず、むしろ逆とさえ思えたのに目が離せなかった。
 醜く愚かで歪な少年の名前には皮肉にも羽という文字が入っていた。

 真っ黒な制服に身を包み片脚を庇って歩く背を追いかける。大会が終わってすぐの真夏日に彼が何故冬服を着ているのか不思議に思ったが着いた先で納得した。墓の前で手を合わせる身体の真後ろに立った。
 振り返った顔が驚きに満ちる。何故ここに居るのか何をしているのか気候とした唇から音は出なかった。 
 強く抱きしめた体は大会で見た通り歪んでいる。予感は正しかった。醜く愚かな内側は、信心深い清らかなそれとなんら変わらない。対象が何であれ狂うほどに信じているものがある人間は熱心な信者と同じだ。
 軋むほど強く抱き、驚きで声の出ない体に頬を寄せる。これだ、間違いない。
 すぐにでも連れ去ってしまいたかった。正面に見えた墓石がなければきっとそうしていただろう。
 墓の前で手を合わせた彼は敗北を悔いていた。ここで勝利を報告できなかった後悔はロードに乗る身として理解できる。ならば、と東堂は口元をほころばせて思った。ならば彼が心から誇れる勝利をここで報告したならばその時は。



 強い風が吹いた。反射的に強く目を閉じ、次に開いた時には目の前にいた男は消えていた。見慣れない青い制服に、見た事のあるカチューシャを着けた男。確かに目の前に現れ、理解不能な行動をした筈が、一瞬の間に消えた。
 大会の疲れだろうか。報告を終えた母の墓を一度だけ振り返り首を振って真夏の幻を振り払った。きっと見間違いだと小さく呟いて歩き出す。
 男が消える直前背中に見えた羽は大会で真波の背に見えたものと酷似していた。

2015/05/25

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あきゅろす。
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