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夏の麦茶/ツイ診断(東御)
東堂×御堂筋への今夜のお題は『もう溢れてしまいそう』です。 http://shindanmaker.com/447736






 暑すぎる。何度目かになる呟きに隣に座った御堂筋が眉を寄せた。声に出すほど暑くなるからやめろと言いたいのかもしれない。
 縁側に腰掛けてた御堂筋の手には団扇があるが、それを使う気力も炎天下に奪われているのか動く気配はない。同じように縁側から足を放り、上半身を室内に投げ出した東堂はもう一度暑い、と呟いた。

「暑いなら二階上がったらええやろ。一階には冷房ないんやから」

 御堂筋の言葉は最もで、東堂の親戚が所有するこの一軒家には冷房が二階にしかない。よほどの猛暑でなければ周囲を林に囲まれ、さらにその外側を水田に囲まれているので日中でも暑くはならない。しかし、今年はよほどの猛暑だった。
 好きに使っていいと言われた家で二階に上がらない理由はいつの間にか根競べのようになってしまったこの状況だ。

「御堂筋が上がるなら俺も上がる」

 横になっているせいで額から頭皮に流れ行く汗が煩わしい。室内の机に置かれた麦茶は入れたばかりだというのに氷が溶けはじめていた。

「ボクは別に暑ない」

 暑さですっかり赤くなった頬と裏腹に、御堂筋の口からは一度も暑いという言葉は漏れていない。東堂が言うたびに喧しいと視線を送って来るだけだ。
 午前中、まだ涼しい時間にペダルを回し、日が高くなり町内放送で熱中症警報が流れてからはこうして縁側で体を休めている。休めているはずなのに、どちらから始めたかわからない根競べのせいですっかり消耗しきっていた。

「暑い暑い言うとるのは東堂クンだけやろ。さっさと二階行ったらええやん」

「お前だって」

「暑ない」

 嘘だ、と声にする前に汗にまみれた手首を掴んでいた。団扇が小さな音を立てて乾いた土の上に落ちる。普段は低すぎる体温が気温のせいで東堂より高く感じる。眩しそうに細められた目は大きな黒目が潤んでいた。この暑さが悪いのだと頭の中で言い訳をした。


「暑い」

 掠れた声が聞こえて目を開けた。一瞬眠っていたことに焦って上半身を起こすと室内が赤く染まっていた。直接は西日が入らない部屋だが、辺りが一面夕日の色に染まっているのか室内も綺麗な赤色だった。

「…二階に行くか」

 返事はないが背を向けて畳に寝転んでいる骨ばった背中は東堂の提案を肯定していた。無造作に投げ捨てた服を拾い集めてだるい身体で立ち上がると机の上の麦茶が視界に入る。すっかり溶け切った氷で薄まった麦茶は今にもグラスから溢れそうだった。





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あきゅろす。
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