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pdr
キスの日(東御)
同棲設定






 同じ部屋で生活を共にするようになったが、そろって何かする事はほとんどない。あるとすれば朝晩の歯磨きだけだ。
 食事も練習も別々にするが、御堂筋が歯磨きを始めると東堂はそれに倣って隣で歯を磨く。同じだけの時間をかけて磨いているのに、仕上がりは御堂筋のほうが綺麗だ。東堂も歯磨きが下手なわけではない。丁寧に磨いている自信もある。けれど不気味な程並びのいい歯が磨かれたあとの輝きには到底かなわない。
「終わった」
「ん」
 先に歯磨きを終えた御堂筋に告げると細長い指が頬に触れた。促されるままに口を開けると大きな瞳がすうっと細められて口内に視線が走る。心地よい緊張に東堂も目を細めた。
 右下奥から、ゆっくりと前歯へ滑り左側へ。上に向けられた目が右上奥に向けられるまで東堂は口を閉じない。細められた目の動きが好きだ。何かを企むでも疎むでもなく、レース中の余裕ぶりながら切羽詰った雰囲気も感じない。
「ええよ」
 小さな呟きに、今度は東堂が御堂筋の頬に手を伸ばす。柔らかな頬は何度触れても飽きなかった。歯磨き以外、体の手入れは一切しない癖に白い肌は滑らかだった。乾燥肌だと本人は言うが、手袋をつけるための言い訳に過ぎない。手に触れるのも触れられるのも嫌がる臆病な彼は分厚い手袋をつけて自身を守っている。
 少し背伸びをして薄い唇に口づける。歯磨きのあと御堂筋が確認をして頷いた時だけ許されるささやかな行為で、恋人としてのたった一つの証明。
 舌先で唇をつつけばうっすらと口を開くので遠慮なく口内を舐める。普段恥ずかしげもなく晒している長い舌が逃げるので追いかけて甘噛みした。跳ねる肩に手を置いてから逃げないように背中に回した。
 歯磨きの時間と同じくらい長いキスをするために、東堂は毎日恋人の横で丁寧に歯を磨く。焦って少しでも磨き残しがあれば御堂筋は絶対に頷かない。明日も小さな願いが叶いますようにと祈り、東堂は歯磨き粉の味がするキスを終えた。

2015/5/23

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