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pdr
※衣装(東御)
※未来捏造







 ドアを閉じ、鍵をかけるのと同時に振り向いて唇を合わせた。歯が当たり、抗議の声が上がるが返事をする余裕などなく薄い唇と長い舌を貪る。普段はしない香水の香りに苛立ちと興奮を覚えた。唇を放してすぐ一見ピアスに見えるイヤリングに噛み付いて外す。両側とも剥してから吐き捨てて間近で目を合わせると大きな目が呆れていた。
 香水に混じって嗅ぎ慣れない整髪剤の香りがした。

 東堂尽八はモデルをしている。レーサーとして活動しながらなのでそればかりにかかりきりにはなれないが一定のファン層に支えられ知名度はあった。モデルとして入っている事務所とレーサーとして所属しているチームで折り合いをつけ、所属チーム以外の自転車の広告に起用されたりもしていた。
 特徴的な喋り方はファンを選ぶという判断から映像での仕事はなく、東堂自身仕事にもレースにも集中できる状態がベストだったので異論はなかった。東堂が喋っている姿を見たければレースに足を運べば良く、学生時代のファンクラブよろしく皆わきまえて応援をしてくれた。
 御堂筋翔と交際を始めたきっかけは東堂の仕事だった。意外にも美しい物を好む御堂筋が、ファッション雑誌で東堂の写っている写真を見ているところに遭遇した。同一人物とは思えないと何度も言われ、密かにファンだったのだと酔った彼が漏らす姿を不覚にも可愛いと思った。美しいものを理解できる人間には美しい部分が必ずあるという持論の東堂は、今まで美しいと微塵も思わなかった存在に興味を持った。
 それから長期間かけて互いを解り合っていったのかと言えばそうではなく、酔った勢いで直後に東堂が御堂筋を部屋に連れ込んで関係が出来た。帰国していた彼が京都に帰る終電を逃したのも、彼が乗る駅の近くに東堂のマンションがあったのも偶然だった。欲求不満になるような生活はしていなかったし無責任に酔った人間を連れ込み抱く趣味もなく、なにより東堂は男に興味がなかった。
 酔っていたからなどという言い訳は、過去を振り返れば言い訳にもならなかった。かつてのチームメイトやライバル、後輩とも酒を飲み交わす機会は何度もあったし、潰れた相手を部屋に運んだことも何度もあった。欲情し、半分眠っている男を抱いたのは彼が初めてだった。

 真っ白なシャツは似合わないと思っていたが、濃紺のアウターに合せたそれは彼にしっくりきた。首から二つ下げられているアクセサリーもそれ単体で見れば派手すぎるが色が白く骨の浮いた肌によく馴染んでいた。
 彼が好まない堅く分厚いジーンズから太いベルトを引き抜く。下着だけは見慣れたものでやけに安心した。
「ん…っ、ベッド、で」
 せめてベッドへ行けと言う訴えを二度目の口づけで却下して薄い身体をドアに押し付ける。成人し、プロになった今でも彼の身体は他の選手よりも薄かった。

 その日、東堂は珍しく寝坊をした。休暇の御堂筋が隣のベッドで本を読んでいる姿を見つめていたせいだとは本人には言えないが、兎も角朝大騒ぎをして家を出た。
 スタジオで撮影を始める頃になって携帯電話を忘れたと気付いた。なくてもなんとかなると開き直るのと同時に、スタジオの入り口からざわめきが聞こえた。振り返った先に居たのは御堂筋で、プロレーサーとして有名な彼は守衛にもファンがいたせいか東堂の忘れ物を持ってきたと告げただけで入館を許可されたらしい。
 それから先の事は何度御堂筋に謝っても足りないと東堂は思っている。女性の多いスタジオだったのが悪かった。御堂筋翔という一見化け物じみた選手はしかし、スタイルも顔も黙っていれば悪くないのだと誰かが言いだし、スタイリストもカメラマンも調子に乗って彼を弄り倒した。
 スムーズに終わる筈だった撮影の時間は押しに押して、次に控えていた事務所から苦情を言われて東堂と御堂筋はようやく解放された。
 着替える時間もなく、使用した服はそのまま着て帰っていいと言われた。車で着替えたらいいと東堂が言ったものの、慣れない撮影に疲れた御堂筋は乗り込み荷台に乗せた愛車を固定するなり眠ってしまった。
 運転するスタッフは携帯電話を届けに来た御堂筋と東堂の関係を尋ねなかった。聞かれなかったので東堂も話さず、ただ半分眠っている御堂筋をマンションに連れて行く時にだけ彼は実家が京都だからと一言だけ説明した。

 カメラを向けられポーズをとらされている御堂筋はまるで別人だった。照明で照らされた瞳がきらきらと光って見えた。
「っ、あ…っ」
 戯れにつけられた香水に苛立つ。ドアに手を着かせ背後から腰を抱えて挿入した。10センチ以上身長の高い御堂筋はしかし、脱力し膝を折っているので難なく行為を進められる。ローションもなく体液だけで解した部分がぎちぎちと締め付けた。
「…ふっ…」
 痛みを和らげるために感じる箇所を突き、わき腹を撫でるとドアに縋りついた手が震えた。整髪剤で不自然に跳ねている髪が振られる。
「似合わない、な」
 髪も服も、スタッフは皆絶賛していた。東堂一人不機嫌になり撮影時にまで表情を指摘された。並んで撮った写真は御堂筋所属のチームが許可すれば来月発売の男性ファッション誌に載る事になっている。普段と違う東堂の表情をカメラマンは一度咎めたが、寒色系をモチーフとした衣装には寧ろいいと冷たい瞳を写真に収めていた。
「あっ、あっ、うぁ」
 崩れ落ちそうになる体を抱きしめ、内側に吐精する。つられて御堂筋も達し、二人そろって玄関に座り込んだ。
「…シャワー…」
 ぼんやりとした声にすまないと小さく呟いて、香水に混じって香る汗の香りに安堵する。服も髪も装飾も見慣れない彼はしかし、確かに御堂筋翔の香りがした。

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あきゅろす。
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