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pdr
※恋でしょうか(新御)

 中学生のころ女性と付き合った時、新開は彼女を大事にしようと決めた。結局別れたが、決意した当時の気持ちに嘘はなかった。今彼女と再会しよりを戻そうと言われても不可能ではあるが、当時を思い返しても少しも後悔はない。大事にして守りたいと強く願い、それが恋人なのだとまだ幼い新開はそう信じていた。

 付き合おうと提案したのは、他に彼と繋がる手段が見当たらなかったからだ。新開は同性愛者ではないし、御堂筋翔に対して抱いている感情が恋愛だという確証はなかった。畏怖や嫌悪に近いとすら感じていながら交際を申し込んだのは彼から離れている時間のほうがはるかに恐ろしかったからだ。
 インターハイが終わってから新開は上の空だった。箱根から京都までの距離を想い、今あの選手は何をしているのだろうかと考えた。暇を見つけては会いに行き、自転車で走る姿もそうでない姿も執拗に観察した。直接彼を見て何をしているのか確認すればするほど、視界に入れていない時なにをしているのかが気になった。自転車に乗っていない、自転車以外に時間を割いている彼が何を考えているのかすら気になり始めた頃新開は彼に付き合おうと言った。
 御堂筋翔の事を考える時間が増え、それ以外についての全てが思考の順位から落ちた。
 大事にしようとは思わなかった。細く柔らかい少女と戯れのような交際をしていたあの頃に胸に湧いた気持ちは微塵も存在しない。けれど柔らかく甘い香りのする体を抱いた時と寸分たがわず歪で人間味のない身体に欲情できた。


 初めて付き合った彼女をベッドで抱きしめた日の事を思い出し、重ねる。丸い小さな肩が少しだけ強張っていた。新開の腕にすっぽり収まってしまう身体は新開を全面的に信用し、全てを預けていた。壊れないように生きてきた中で一番と言っていいほど慎重に、丁寧に扱った。
 骨ばった肩に、不自然な形でついている筋肉。腹筋がある癖に嫌に薄い腹。身長は新開よりも高いが全体の厚みがない。薄っぺらいなとそう思った。スポーツの中でも特殊な筋肉のつき方をする競技ではあると思うが彼のそれは他の選手と比べても異常だ。美しいと称するものがいればその人間もきっと異常なんだと思う。事実新開も押し倒した体を美しいとは思わなかった。
 少しも美しくない体に、けれど新開は確かに性的興奮を覚えた。合意でもなく、交際すらあいまいな返事で成立しているかどうか怪しかったというのに京都に来るたび新開は彼を抱く。
 大事にすると誓った彼女にしたように耳元で好きだと言いながら慎重さも丁寧さもない手で薄っぺらい体を組み敷いて暴き、蹂躙した。性的快感をそれとして受け入れられない御堂筋が暴れて罵声を飛ばすたびに腹の奥から歓喜に満ちた欲が沸き上がった。罵声を飛ばしていた口から嗚咽が漏れ、睨みつけてきた瞳が涙を流す頃には新開の顔は恍惚とした色で満ちる。
 いっそ壊れてしまえばいいと願って扱い、これは果たして恋なのだろうかと自問をした。
 頭から離れず目を離せば不安でいっぱいになる感情を恋以外なんと表現していいのか解らない。大事にしたいと思わなくとも、執着していれば恋なのだろうかと薄っぺらい身体に手を這わせながら思う。
 恋愛には色々な形があると新開も知っている。性癖も同じだ。サディスティックな人間もマゾスティックな人間もいて、そういうプレイをする人種も居る。否定する気はないが、新開にその趣味はない。過去に抱きしめた少女を傷付けたい等と思った事はない。泣いていれば笑ってほしいと願った。
 御堂筋翔に対しても、彼を虐げて悦んでいるわけではない。自分しか知らないベッドの中での姿に独占欲を煽られているのだろうか。

 行為がどれだけ凄惨でも、終わったあとは極力優しく彼を扱う。鬱陶しがられるが指一本動かせない御堂筋は大人しく新開に渡された水を飲み身体を拭われる。
 シーツの上から動けない薄い身体を見ると、大事にしなくてはいけない気がした。ぐったりとした、頼りない身体だ。大事にして、守らなければとそう強く思った。

 これは恋だと確信した。純粋に、今まで見た感じたことがないほど強い気持ちを失いたくなくて、薄っぺらい体に乗り上げる。ベッドから降りて新開の手を必要としなくなった彼には沸かない感情だからだ。
 大事にして守りたいと、浮いた肩甲骨を見て強く願った。

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あきゅろす。
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