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共有人(東御/新御)
※過去未来捏造
※キャラ崩壊(最低な方向に)






 東堂尽八と新開隼人は酷く女癖が悪い。無駄に顔がいいので言い寄られては拒まず受け入れを繰り返す。部室で修羅場が展開され事も荒北が来るまではしょっちゅうだった。荒北が入部してからは部室での修羅場を許さず睨みを利かせて女性を追い返し、ふたりから知らない女の香りがすれば引っぱたいて二度とするなと怒鳴った。その甲斐あって東堂も新開も派手な女遊びは控えるようになった。荒北が鼻を利かせて初めて発覚する程度の遊びなら咎める必要もないと部の誰もが判断した。
 もともとふたりとも顔も良ければ話術にも長け、なにより女性の扱いを心得ていた。というより人間の扱いにだ。東堂は幼い事から旅館の手伝いをして色々な人間を観察してそうなったらしい。新開はというと中学時代に女性に興味がなかった東堂と違い、その頃から頻繁に年齢問わずで女性と付き合っては別れを繰り返し部室で繰り広げられる修羅場がままごとと呼べるような本物の修羅場を何度も経験した結果だと聞いた。
 なんにせよ、そのうち刺されるのではないかと荒北は顔のいい仲間二人を見てため息をついた。

 高校を卒業する頃、ふたりから全く女性の香りがしないことに気付いた。受験や就活で騒がしかった期間は兎も角冬休みや卒業式のあとも全くなかったので荒北はふたりがようやく生活を改めたのだと感心していた。
 二年経って、それが全くの間違いであったと知った。

 福富の携帯に届いたメールそのまま荒北の元へ転送され、講義中であったにも関わらず荒北は通話ボタンを押していた。金城に咎められ講義を追い出されて改めて福富に電話をかけるといつになく困惑している声が聞こえた。
「福ちゃんアレ、どういうコト?」
『オレも詳しくはわからない。メールのままの意味じゃないのか』
「ケド、二人同時にってのはおかしいだロォ?」
『…そう思うか』
 福富も荒北と同じ違和感を覚えてメールを転送したのだろう。東堂と新開から同時に届いた、恋人と同棲していますというメール。全く同じタイミングで、しかも遊びに来いと記載された住所は同じ。これではまるで二人が交際しているようだ。
 週末遊びに行くと連絡し、荒北も同行することにした。

 駅で再会した福富は土産に箱根名物のまんじゅうを持っていた。過去に謝罪に使われたそれを見るに東堂と新開の恋人に謝罪をする必要性を感じているのかもしれない。謝るような惨状でなければいいがと重い足取りで辿りついたのは新しくはないがそれなりにいい一軒家だった。
「やぁ寿一、靖友、よく来たね」
「一軒家って随分じゃネェの。高くネェの」
 玄関を入るとすぐリビングに続くドアがあった。リビングを通らなければ二階にいけない造りは子供を持つ家族を連想させる。
「賃貸でね、三人で割ればアパート借りるよりいいぜ」
 へぇ、と返事をしかけて荒北の動きが止まる。新開の言葉の違和感に気付かない福富は机の上に土産を置いて部屋の中を見回していた。
「今、何人っつった?」
 一軒家だと知って、東堂と新開、二人にそれぞれ恋人ができて四人でシェアハウスとやらをしているのだと決めつけていた。新開の言葉に眩暈がする。まさかシェアしているのは家ではなく恋人とは。
「三人。俺と、尽八と」
 タイミングがいいのか悪いのか、新開の言葉を遮って玄関が開く音がした。やかましい声と共に東堂が居間に入ってくる。大きな買い物袋は来客をもてなすための食材や飲み物が入っていた。
「久しぶりだなフク!荒北!相変わらず人相が悪い!」
 煩い声に反論する気になれず頭を叩くとますますやかましくなったが構っていられない。下手をすると福富が土下座をしかねない状況ではないかと荒北は内心で焦る。合意の上であれば男ふたりを恋人として同棲する女が居ても問題はないが福富からすればかつての仲間が一人の女性に迷惑をかけているように映るかもしれない。恋人らしき人物が不在のうちにさっさと帰ってしまおうとして、東堂のあとから遅れて部屋に入ってきた影に唖然とした。
「…御堂筋?」
 壁にかけられていたテレビをもの珍しそうに見ていた福富が振り返って呼んだ名前は確かに部屋に現れた人物の名前だった。けれど何故彼が居るのか、名前を呼んだ福富も、ぽかんと口を開けたままの荒北にもわからなかった。
「おかえり御堂筋くん。こないだ話したけど寿一と靖友。今日夕飯一緒に食うから」
 明るい声で話す新開をちらりと見ただけで御堂筋は階段を上がって行った。あまりに静かな姿に、大会で見た人間と別人なのではと過るがどう見てもあの御堂筋翔だ。
「まてまてまて!おい!御堂筋!お前だお前ェ!ちょっとこっち来い!そんでここ座れ!」
 階段を半分まで上がっていた御堂筋の腕を掴みリビングのテーブルに強引に座らせる。迷惑そうな顔はしたが予想していたような嫌味や罵声はなかった。
「オイ!説明しろ!なんでこいつがここに居ンだ!」
「驚く気持ちも解るけどあんまり怒鳴るなよ靖友。」
 混乱して口を開けずにいる福富に代わって怒鳴り続けていた荒北の声から耳を守るように新開も東堂も両手で耳を塞いでいた。その姿勢に苛つき、荒北の口からは声量は下がったものの怒気が含まれた声が出る。
「オイ東堂。どういう事だ」
 両手を耳から外し髪を整えている男に視線をやれば不思議そうに首をかしげた。
「どういうこと?メールしただろう。恋人と同居しているから遊びに来いと」
 至って自然な言葉に福富がようやく現状を把握し始めたのか御堂筋の向かいに腰を下ろして三人の顔を見回す。
「つまり、御堂筋が恋人なのか?」
 改めて声に出して頭痛がしたのかこめかみを抑える福富に倣って荒北も額に手を当てた。人数についての発言にはまだ福富は気づいていない。
 ああ、と肯定する声が重なった。
「どっちのだ?」
 続いた質問にもふたりの声が重なり、荒北はついに頭を抱えた。
「「両方」」


 話について来れなくなった福富を先に帰して荒北は御堂筋の隣に座った。向かい側に座らされたふたりは何故怒られているのか解っていない顔だった。
「ナァお前らどういうことなのか解るように説明してくれ。何でこれがお前ら二人の恋人なわけェ?」
「なんでもなにも」
「好きだから」
 示しを合わせたようにぴったりの口調で答える二人に御堂筋も反論せず土産のまんじゅうを口に運んでいた。
「経緯を!わかるように経緯を話せ!」
 隣でもくもくと土産を口に運ぶ二つ年下の選手が意外に大人しい事も、その姿を愛しげに見るかつての仲間にも嫌な予感しかしなかった。けれどここで何も聞かずに帰るのはもっと後悔しそうだ、とその時は思っていた。
 すべてを聞いた後聞かなければよかったと酷く後悔するなど知らずに。

 時間にすれば十五分にも満たなかった。
 インターハイで御堂筋に心奪われた男二人はなんの躊躇もなく卒業後に京都に向かい、打ち合わせをしていなかったにも関わらず遭遇した駅で偶然発見した御堂筋をこれ幸いとトイレに連れ込んだ。その場で最後まで致さなかっただけでもましだろうと言われて一度荒北の手が出たが、殴られなかった方の美形も直後にホテルで年下に働いた無体を口にして頬に重い一撃をお見舞いされた。
 高校を卒業したあとは家を出ると決めていた御堂筋の住居を二人で決め、先に彼の居候先の人間を籠絡したらしい。この二人ならばそれが可能なのは荒北も痛いほど知っていた。大学の寮を数か月で出た新開を家族は不審がったらしいが東堂が近場に住むから家賃折半を申し出たのだと話せば皆納得した。
 同時に御堂筋が卒業し、一軒家であったから三人での同居もなんら不自然ではなく受け入れられたのだ。
 不自然なのは彼らの性生活だったが家族はただの自転車仲間でよきライバル同士が同じ屋根の下で暮らしていると信じ切っている。ここには間違いなく加害者と被害者がいるのに誰もそれを知らず、仮に荒北が訴えても誰も信じないだろう。事実荒北ですら言葉だけでそれを聞いたなら信じられなかったはずだ。
短い時間の中で疲弊しきった荒北はそれ以上怒鳴る気にもなれず、最後まで大人しく座っていた御堂筋に早くこんな男どもなど捨てて家を出ろとだけ真剣に伝えた。
 自転車から離れた御堂筋の目はどこかぼんやりとしていて、荒北の言葉にもまともな反応は見せなかった。鈍い返事をする御堂筋に益々疲れが沸いて、荒北は駅から離れた一軒家をあとにした。
 帰宅してすぐ、御堂筋と交換した連絡先に、面と向かって聞きにくかった情事の話を打ち込んだ。返事は来ないと思っていたが数時間後にメールを報せるバイブが聞こえた時は思わず声をあげてしまった。
 乱暴をされているようなら言えと、短い文面で送ったメールへの返信は同じように短く、けれど荒北は頭を殴られたような衝撃を受け、そのまま再び三人が住む家に向かっていた。

「は?」
「だから!男同士でもナマは駄目なんて知ってんだろォ!」
 興味本位で調べた事がある荒北と違い、行為に至っている人間が知らないはずがない。深夜近くに怒鳴り込んできた旧友に新開は厭な顔こそしなかったものの言葉の内容に眉をひそめた。
「何で靖友がそんなこと知ってんの?」
 不機嫌そうな顔には嫉妬が見える。めんどくせぇなと吐き捨ててメールの画面を見せると新開はああ、と小さく頷いてから玄関先で話すのもなんだからと荒北を居間に招き入れた。
「いっつも腹痛くとか返信来たら常識疑うだロ」
「御堂筋くんお腹弱いからなぁ」
 玄関の頼りない灯りを抜け、て新開がスイッチを入れた蛍光灯の明かりに目を細める。チャイムを連打しドアを叩いたにも関わらず新開は眠そうなそぶりもなくドアを開いた。一階には風呂とトイレ以外に居間ともう一室、ちいさな和室があった。和室にはロード関連の書籍やメディアが保存されていて足の踏み場もなかったので寝室は二階なのだろう。
 一階の電気が消えていたのなら新開は二階にいた筈だが眠気を帯びていない表情はどういうことなのか荒北にはまだ解っていなかった。
「腹が弱いとかそういう問題じゃなくて。そもそも合意でもない癖にナマで突っ込むなっての」
「合意じゃない?」
「って本人が言ってんだヨ」
 メールには確かにしたくないのにされると書かれていた。詳しく聞かなくとも御堂筋は流されて行為に及んでいるだけで意味すら理解していないようだった。何か嫌な事をされていると、まるで幼い子供が悪い大人に厭らしいことをされているような印象を受けた。
「ふぅん」
 少し考え込んだ新開が、口元に当てていた手を放して人差し指を立てた。
「聞いてみる?直接」
 二階に向けられた指に、荒北はようやく深夜の訪問に寝ぼけた貌を見せなかった男の表情を理解してしまった。

 防音の行き届いている家だ。最初に感じたのはそれだった。一階では少しも行為の気配を感じなかったが流石にドアの前までくれば僅かに漏れてくる音や声に室内で起こっている事を嫌でも感じてしまう。
 他人の性行為を見る趣味はない。もし一言でも彼が救いを求めるか嫌だと口にしていれば二人を殴ってでも引き剥がして早急に保護するつもりだった。ドアの向こう側から漏れてくる嬌声には確かに拒絶が混じっている、気がした。はっきりと言葉を聞くには見たくもない情事をみなければいけない。決心してドアノブを握るのと、背中に痛みが走ったのは同時だった。
「―は」
「悪いな靖友。何度も殴られるのはやっぱ痛ぇし」
 感じた痛みは局所的だったにも関わらず、全身に感じた衝撃で脚が崩れる。振り返った先にいた新開の手元を見て、漫画でしか見たことねぇよそんなもん、と内心で呟いてから意識を手放した。
 スタンガンで意識を失っていたのはほんの数分だった。解ったのは目を開いて最初に時計が見えたからだ。
「あ、起きた?」
「…起きた、じゃ、ねぇ、だろ」
 口がうまく動かない。罵ってやりたいというのに声が出ない。
「てめ…」
「ぅ、ぁっ」
 痺れた唇で不満を浴びせようとした声は、甘ったるい鳴き声と粘着質な水音に遮られた。
「ぁ、あっ、あ」
 見るなと頭が警報を鳴らす。けれど転がされた身体の向きは必然的にそれが視界に入ってしまう。感覚の戻った手足が何かで縛られているのは解ったが響く音と気配に思考が止まった。
「んっ、ぁ、あっ」
「ああ、起きたのか」
 新開と同じ言葉を、東堂も口にする。聞いたことのない、聞きたくもない熱のこもった声だった。
 怒鳴り返すつもりの喉が虚しく音を立てた。東堂が組み敷いている体は昼間に見た御堂筋翔で、よく知る顔の筈だ。シーツに落ちた薄い掌も同様に薄い胴も、骨ばった肩も、体に密着するユニフォームの上から何度も見た。見た筈なのに目の前にいる生き物は、記憶と全く違った。
「ほら、喜んでる」
 荒北の背後から楽しそうな声が聞こえた。言葉の通り目の前の身体は挿入された性器をまるで女性のように受け入れて腰をくねらせ、舌を出して口づけを強請っている。綺麗な笑みで応える東堂の目が、ちらりと荒北を見て背後の男と同じ言葉を視線で云った。
 鍛えられた、しかし薄い腹筋に挟まれた性器は彼の体質なのか完全に起ちあがってはいなかったが先端から悦びの証を垂らしていた。
「御堂筋」
 まただ。また聞いたことのない声だ。高校時代に恋愛関係を疑われていた好敵手との会話ですらそこまで歓喜を込めていなかった東堂の声は、呼ばれた対象でもない荒北の鼓膜まで奇妙に震わせる。
「どうして欲しいか、言って」
 強請る口調も、彼らしくない。けれど何故か荒北はこれが彼の本性なのだと察してしまう。御堂筋翔と初めて遭った大会の後、福富が漏らしていた東堂の顔。誰にも見せなかった顔を、初めて晒した相手の前で彼は完璧な東堂尽八ではなくなるのだと思い知らされた。
「ぁっ…」
 律動が止まり、耳に吹き込まれた言葉の意味を時間をかけて理解した御堂筋がシーツを握った。恐ろしいほど綺麗に並んだ歯の隙間から漏れた言葉は、確かに美しい化け物ふたりが荒北に聞かせたかったものに違いない。
「っと…もっと、ほし、…ナカに、出して、くださ…っ」
 蕩けた目もだらしない口元も、言葉の通りに雄を欲している。けれどその表情の中に隠された真意を見逃すほど荒北は愚鈍ではなかった。徐々にはっきりしてくる意識と、同性同士の性交に対する本能的な嫌悪が正常な思考を取り戻していた。
 僅かな嫌悪は確かにあったが気持ち悪いとは予想外にもそれほど感じなかった。荒北が持っている嗅覚が室内に充満した淫蕩な気配の中から他のものをかぎ取ったからだ。
 たすけて、こわい、やめて
 泣き叫ぶ子供のような悲鳴が荒北には聞こえた。盛りのついた雌猫じみた雄を求める甘ったるい声の裏側で、組み敷かれ腰を揺らめかせている体から間違いなく救いを求める声がする。
「ぁ、あっ…」
 いつの間にか東堂に代わって新開が彼を抱いていた。東堂よりも荒々しい動きに、快感を訴える声はさらに大きくなっていた。同時に、助けを求める匂いも益々濃くなっていく。
「んっぁっんんっ新カイ、くっ、あっあぁっ、そこ、」
「ん?ここ?」
「ひっぁ、い、いい、…っと」
「欲しがりだなぁ、御堂筋くんは」
 もっともっとと強請られるままに新開は腰を動かす。激しい動きに喘ぎは悲鳴になり泣き声になった。たすけてという悲鳴が泣き声と重なり荒北は無意識に作っていた拳を爪が食い込むほど強く握りしめた。
特別子供が好きなわけではない。けれど目の前で泣いている子供がいれば理由を聞いて泣きやませてやりたくなる程度には荒北には慈悲があった。
「ふぁっ…!」
絶頂を迎えた御堂筋が意識を無くす。汗で貼りついた前髪を掻き上げて新開が視線を寄越したが舌打ちして目を逸らした。
「これでわかったろ?」
「なにが」
「御堂筋くんが欲しがるんだから仕方ない、ってこと」
柔らかな笑みで言う旧友に荒北は沈黙で返事をする。
「合意の上だ。わかったら今後は関わらないでもらおう」
新開が御堂筋を抱いている間、枕元で抱かれている顔を見ていた東堂が意識のない頬に触れながら言う。愛しい物を見る目だった。
「縛ったりして悪かったな。でもこれくらいしないと信じてくれな―」
ガムテープを剥す音が終わる前に鈍い音が室内に響く。頬を殴られた新開はそれでも鍛えられた筋肉のせいで倒れ込みはしなかった。舌打ちをして、縛られたまま動けない間に確認してあった自身の意識を奪った物を素早く掴んで押し付けた。
何が起きたのか東堂が理解する前に動き、同じように小さな装置を体に押し付けてスイッチを入れる。暗闇に慣れた目と、縛られながら体の血行を止めずに動いていたおかげで少しも痺れは残っていない。二人が意識を戻す前に逃げなくては。
「オイ。起きろ。」


御堂筋を家に連れ戻って数日後、すっかり反省した様子の二人に念書を書かせた。今後御堂筋が一度でも荒北に助けを求めればその時点で別れるという簡単な物だった。渋々といった体でサインをした二人に、今度こそ遠慮せずに助けを求めろと御堂筋に念を押し、家に帰した。帰したのが間違いだったと気付いたのはすぐだった。
久しぶり、とレースで再会した御堂筋に声を掛けるとそそくさと逃げ出した。荒北の顔を見てぎくりとしたのは遠目にもわかった。自転車に乗っていない御堂筋を捕まえるのは荒北には容易だ。すぐに腕を掴んで目を合わせればおどおどとした態度で「なんもない」と聞いても居ない言い訳を始めた。
東堂と新開が何もないと言ってるのだから放せと駆け寄ってきたところをすかさず殴りつけ、運営に咎められる前にその場を後にした。
 御堂筋を囲んで新開、東堂、荒北が立つ図は傍から見れば選手同士の他愛もない集まりだろうが最悪な事に男同士の痴情のもつれに首を突っ込んでしまったおせっかいな男の集まりだ。
 首を突っ込んだのは自己責任だが荒北は途中で投げ出せる性分ではなかったし助けてくれと声に出さずに訴える年下を見捨てられはしない。
「躾が甘かったか」
「おい。尽八、その言い方だと怒られるぞ」
「言い方の問題じゃネェよ!」
 二人の言葉が示すのは御堂筋に対する躾、と言えばまだいいが悪く言えば強引な調教だ。恐らくは行為中に自分から求めるようにするだけではなくそれ以外の生活の中でも自分は合意の上で東堂や新開と暮らし彼らを求めているのだと本人の意思を操作している。そして邪魔になる、勘のいい人間からは逃げるようにとまで教え込んで。
「だからまだ外に出すのは早いって言ったんだ」
「だがレースに出ないとどのみち怪しまれるだろう」
 勝手な言い分で争い始める二人の声に、御堂筋の肩が僅かに強張っている。声だけで、と荒北は顔を顰めた。東堂と新開の声に条件反射で怯え従う体にされている。
 本格的に駄目だと荒北はついに頭を抱えた。逃げる術を知らない子供を逃がす方法が思いつかない。
「…とりあえず」
 荒北の暗く沈んだ声に、争っていた声は止まり強張っていた肩から力が抜けた。
「御堂筋はうちで暫く預かるから」
「はぁ?」
 三人同時に叫んだが、御堂筋の声は僅かに安堵が混ざっていた。
 距離を置いて、御堂筋に周囲への救いを求める方法を教えることが問題解決の最も近道であると荒北はその日ようやく解った。
「じゃ、これ鍵」
 誰に渡すつもりもなかった一人部屋の愛鍵を、なんとなくの予感で今日は鞄に入れていた。差し出した鍵を受け取った御堂筋の顔は助けを求める声に見合うだけの幼さを持っていた。
「荷物は全部俺と、あー…黒田あたりで運ぶからもうあそこに戻んじゃねぇよ」
 出れなくなるから。とは言わなかった。初めて三人で暮らしている家を見た時に感じた違和感、人通りの少ない立地と防音の整った造り。何故そこを選んだのか今の荒北ならば解った。
 出られなくするためだったのだ。
 不満を言う二人を無視して、この先中身だけが幼い子供をどう守って行けばいいのか荒北は胸に湧いてくる保護欲の衝動を抑えずに考え始めていた。


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