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pdr
※夢性(新御)


 御堂筋翔は性行為が嫌いだ。性行為どころか性的な事柄一切を否定する。外出時はまだましで、玄関を抜けると青年雑誌のグラビアすら許さない。
 新開が思うに御堂筋は女性に対して度の過ぎた理想を抱いている。あまり自身の過去を話したがらない御堂筋の母が早くに亡くなっていると教えてくれたのは彼の義兄だった。恐らくそのあたりに、彼が女性に対して抱く美しく穢れのないイメージが根付いているのかもしれない。
 あるいは、と新開は思う。あるいは母と自身の繋がりさえ否定するために性行為、ひいては生を育むことを否定しているのではないか、と。
 御堂筋翔に惹かれ、彼と恋愛関係になりたいと願った新開にとって御堂筋が他人との性的接触を受け入れない事は大きな問題だった。優しく抱きしめキスをしようが、強引に押し倒して体を暴こうがほとんど必ず御堂筋は嘔吐して意識を失う。運良く意識を失わなくとも胃を空っぽにするまで吐き続けるのでさすがに愛しい相手をその状態で抱くのは気が引けて謝りながら背中を擦る。

 普段あまりつけないテレビを見ていて偶然閃いた手段を、なんのためらいもなく実行に移したのは同棲を始めて半年経ってからだった。
 眠る時、御堂筋は電気を完全には消さない。新開より少し早くベッドに入るので後から入った人間が消せばいいと思っているらしい。仰向けに寝転がり本を広げて睡魔に負けるまで文字を追っている。過酷な練習で寝入りが早いので眠る前に読む本は中々進まない。今日も一週間前に見た本をまだ読んでいた。
 眠りに落ちた合図になっている本の落ちる音を確認してから寝室のドアを開ける。
 本を手から落としてすぐの眠りはまだ浅い。深いところに行く前に耳元で優しく声をかけると薄い瞼に覆われた大きな目が僅かに動いた。起こさない様に気を付けながら、ゆっくりと胸元に手を這わせる。
 吹き込む言葉は意識のある彼が聞けば盛大に顔を顰めそうな言葉だった。顔を顰めるだけではなく体調によっては吐くかもしれない。自転車に触れてさえいれば平気だろうがベッドの上で告げれば間違いなく真っ青になって暴れ出すに違いない下品で、汚らしい詞。
 触れるだけのキスを頬や耳や首筋に何度も繰り返す。耳元に触れる時だけ熱を込めた音で囁いた。
 意識がないはずの身体が徐々に温まり、薄い唇から漏れる寝息が熱くなる。胸から腹を撫でていた手をズボンに差し入れれば中心が僅かに反応している。

 性的な反応を見せる己の性器を初めて見た時の恋人の反応を新開は鮮明に覚えていた。それまでの行為で既に真っ青だった顔は益々白くなり反応しかけていた部分は一瞬で萎えた。それどころか全身が硬直してから痙攣し、救急車を呼ぼうかと思ったほどだった。こんな器官は必要ない、あってはいけないと信じ込んでいると気付いたのはその時だった。

 友人が聞けば気持ち悪いと言いそうなほど甘い声を意識して耳元での言葉を続ける。できるだけ詳細に、彼にしたい行為を語る。何夜も繰り返すうちに、御堂筋の身体が反応を見せるようになった。顔に赤みがさしているのを見てこれならば大丈夫だと判断して繰り返した。
 繰り返すうちに、反応が早くなった。新開の声だけで、意識のない身体が熱を持ち小さく跳ねる。時折漏れる熱っぽい息に、優しく撫でる手を止めて乱暴に暴きたくなったが何とか耐えた。
 急いではいけない。もっとじっくり、意識のある時でも吐いたりしない様に、耳元で囁いてやるだけで腰が疼く様になるまで。
 御堂筋の聖域を穢すつもりはない。出来ることなら彼が大事にしている物は新開も重んじてやりたい。ただ自分が入る隙間が少しもないのはどうしても寂しさを覚えた。聖域を壊さず、新開隼人という人間で上書きできる場所を作ることはできないか必死に考えた。催眠術と呼ぶにはお粗末な手段はテレビで
見た催眠療法を真似たものだったが今はくだらないやらせ番組に感謝している。
 痛みを伴わない、快感だけの柔らかな接触を終えて自分のベッドに戻る前にもう一度だけ耳元に唇を寄せた。
 おやすみ、あいしてるよ。優しい眠りの言葉に、悩ましげに寄せられていた眉が緩んだ。

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あきゅろす。
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