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pdr
街燈調査(新御
※未来捏造






 御堂筋が一人暮らしを始めてから、新開は事あるごとに彼の家に上り込んだ。理由は至極簡単で、御堂筋翔に興味があったからなのだが当の本人は新開がどれだけ構ってほしいと話しかけても生返事をするだけだった。始めはあまりの反応の悪さに挫けそうになったがある時ふと思いついて愛の言葉を口にしてみた。案の定まともに聞いてすらいなかった御堂筋は「じゃあ付き合おう」の言葉に「せやね」と返事をして結果新開と御堂筋の交際は成立した。録音されていた言葉に反論はしたが口論するだけ無駄だと判断したのか、たまに家に上がって家事をする新開を追い出す必要もないと合理性を選んだのか最後には諦めた。

 雪が降りそうな寒い夜、新開が持ち込んだこたつに二人で入りながらテレビを見ていた。互いにバラエティは好まないので夕方のニュースだった。番組の途中、カップルについての特集が始まった。リモコンを持ち上げた薄い掌を制して新開は画面を見つめる。よくある、言い方を変えればくだらない質問に男女が答えていくだけだった。
 御堂筋に興味を持ち、隙だらけな姿を見て沸いた悪戯心のままに恋人という立場に滑り込んだ。恋心を自覚したのはそれからだ。もっと言えば自身の性癖を自覚したのが、だ。
 女性と交際したこともあればセックスをしたこともある。男に欲情したことは今まで一度もなく、恋人になったと言っても御堂筋をそういう対象に見れると思わなかった。
 恋人という関係になってから、最初に試したのは彼の食べかけを頻繁に食べることだった。食べかけを抵抗なく口にできる相手とは性交できるとティーンズ雑誌で読んだことがあった。勿論新開はかつて寮で過ごしていた時に誰相手でも抵抗なく食べかけを貰うことが出来たので同じ事かもしれないとも思った。
 次に試したのは御堂筋の観察だった。着替えや寝姿をつぶさに見つめ、自分が欲情するか確認した。自転車のために削られた身体をどれだけ見ても過去に女性の裸を見た時のような興奮は覚えなかった。
 矢張り男とそういう関係になるのは無理なのだろうかと諦めかけた。御堂筋の言う通り言質をとっての遊びに等しい交際などは早くに辞めてしまえばいいのかもしれない。と、彼を押し倒すまではそう思っていた。
 実際に彼を押し倒した夜は散々だった。新開よりずっと長い手足で死に物狂いで暴れるものだから顔と言わず身体と言わずひっかき傷も痣も出来た。腕力自体は新開にとって何の障害にもならなかったが何度も髪を引っ張られたり顔を押しのけられるので長く邪魔だが細い手首を掴んで抑え込んだ。
 骨が軋むほど強く握りしめた。痛みと、男に覆いかぶさられる恐怖で歪んだ顔は見る人間殆どが醜いと言うだろう。けれどその時新開は確かに欲情していた。

 若いカップルへの問いに合せて、新開はぽつりと呟く。アナウンサーの質問と同じ言葉だった。
「御堂筋くんさ、オレが浮気したらどうする?」
 男女が苦笑いし、女性が明らかに建て前だろう回答をしているのを見届けた御堂筋がテレビに向けていた呆れた視線を新開に向けた。
「ええんちゃうの。浮気の事実があればボクも遠慮なくキミのこと捨てられるしな」
 耳障りな女性の笑い声が不自然に途切れた。新開が、リモコンを掴んだ御堂筋の手を強く握ったからだ。
「聞き返して」
「は?」
 脈絡のない低い声に細められていた目がぱちりと開く。何を言ってるのか解らないと首をかしげる年下の恋人に新開はもう一度言った。
「同じ質問、オレにもしてくれよ」
「…質問?」
 浮気をしたらどうなるのか。そう聞き返せと言う声にはいつか御堂筋が彼の声をそう称した虫歯になりそうな甘みは微塵もなかった。


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